茨城県神栖町で井戸水が高濃度のヒ素に汚染され、住民に健康被害が出ている問題で、6月29日、環境省は専門家による検討会を開き、「茨城県神栖町における汚染メカニズム解明のための調査中間報告書」を取りまとめました。報告書によると、汚染源を、今年1月に発見された有機ヒ素化合物「ジフェニルアルシン酸(DPAA)」を含んだコンクリート塊に、ほぼ特定しました。DPAAは旧日本軍の毒ガスの原料以外には生産されていません。何らかの方法でDPAAを入手した者が、50年近く保管し、1993年6月以降、コンクリートに混ぜて、不法に投棄したとしています。
 2001年頃から井戸水を飲んだ住民に、健康被害が発生していました。環境省の調査で、2003年3月に環境基準の450倍の濃度の有機ヒ素が検出され(通称A地点)、別の井戸(B地点)からも43倍の濃度のヒ素を検出しました。当初は廃棄された毒ガスそのものが原因とみられ、埋められて場所の特定が進められていました。
 今年1月、汚染井戸から約90メートル離れた土中から、高濃度のDPAAを含んだ複数のコンクリ塊が発見されました。分析の結果、コンクリート塊からは、毒ガス成分が全く発見されず、毒ガスの原料であるDPAAそれ自体が投棄されたものと、結論づけられました。またコーヒー缶や、様々な建築廃材のようなものも見つかり、何者かが原料段階のDPAAをミキサー車などで運んだセメントに混ぜて投棄したと判断しました。発見されたコンクリート塊は計52トンあり、含まれるDPAAはヒ素換算で約180キロ、そのうち約100キロが地下水を汚染したと推計しています。
 環境省では、地下水の流れなどもシュミレーションし、西方への地下水脈に乗り、ヒ素汚染が拡大したとの仮説を示しました。
 今後、不法投棄の疑いもあるとして、県や警察と連携して、DPAAを遺棄した者の特定を図るとしています。しかし、不法投棄の時効は3年、重過失傷害罪は5年と、いずれも時効が成立しているのが現実です。
 一方、同日夜には、住民に対する説明会が開催され、井手よしひろ県議も参加しました。席上、環境省側から中間報告の内容が説明され、住民からの質疑応答が行われました。
 A地点の住民からは、「旧日本軍が生産したDPAAが原因物質として特定されてからには、一刻も早く、国の責任を明確にし、謝罪や補償についての説明や話し合いに入るべきだ」との意見が出されました。環境省側からの「私たちは、補償等の意見を述べる立場ではない」との回答に、「誰が責任を持って被害者の救済に当たるのか。環境大臣はなぜ、被害者と会おうとしないのか」などの、強い不信の声が寄せられました。
 またB地区住民からは、「B地点の汚染源も、コンクリート塊であるという説明には納得できない。仮にコンクリート塊のDPAAが地下水に流出してB地点まで流れてきたとしても、地下30メートルの部分から井戸の深度である13〜15メートルの浅い層まで、水より比重の重いDPAAがどのように上昇してきたのか、そのメカニズムが明かされていない。住民の心配に全く答えていない中間報告だ」との厳しい反論が寄せられました。
 本日公表された中間報告は、ヒ素汚染の原因特定に大きな一歩となったことは事実です。しかし、汚染が広がったメカニズムは、住民を説得するには力不足でした。今後は、住民説明会とは別の枠組みで、被害者への説明や意見交換を行っていくことも大切です。
 そして、一刻も早くDPAAを遺棄したものを特定したうえで、最終的な国の責任を明確にし、その管理責任や補償責任を全うする必要があります。
(写真上:高濃度DPAAを含んだコンクリート塊に埋まったコーヒー缶、写真下:住民説明会の模様)
参考:環境省リスク評価室長の冒頭の挨拶(mp3ファイル)
茨城県神栖町における有機ヒ素化合物汚染等への今後の取組について

平成17年6月29日環境省

 茨城県神栖町における有機ヒ素化合物汚染等に関する問題については、これまで「茨城県神栖町における有機ヒ素化合物汚染等への緊急対応策について」(平成15年6月6日閣議了解)等に基づき、原因究明、健康被害への対応等の取組が進められてきたところであるが、今般、原因究明のための対策として実施されてきた「汚染メカニズム解明調査」の中間報告書が取りまとめられたところである。
 環境省としては、今回の中間報告書の結果を踏まえつつ、引き統き、閣議了解に基づいて下記の対策を実施し、更なる原因究明を進めるとともに、健康被害の未然防止及び健康不安の解消に万全を期するものとする。


1.健康被害に係る緊急措置等の継続
○現在実施されている健康診査の実施、医療費の支給等を内容とする緊急措置事業や健康影響の調査研究事業については、通常自然界に存在しないジフ工ニルアルシン酸に起因すると考えられる健康被害の発症メカニズム、治療法等を含めた症候及び病態の解明を図るという目的で実施されているものであり、引き続き、これまでの成果も踏まえながら、環境省において着実に実施するものとする。
2.汚染メカニズム解明調査等の継続
○今般の汚染メカニズム解明調査の結果、呂Uの汚染源が存在する可能性は完全には否定できないものの、いわゆるA井戸の南東90メートル地点で発見された高濃度の有機ヒ素を含むコンクリートのような塊がA井戸及びその他の神栖地域の地下水汚染の汚染源である可能性が高い旨が報告されている。
○こうした点を踏まえ、今後とも、環境省において、地下水モニタリングを継続し、コンクリートのような塊を撤去した後の地下水中の濃度変化の解析を継続することにより、神栖地域の地下水汚染メカニズムの更なる解明を、引き続き、進めることとする。
○また、地下水汚染の外縁を把握するためのモニタリング調査及び汚染範囲内における住長引こ対する飲用自粛などの措置についても、環境省、茨城県及び神栖町の三者の連携の下で継続し、健康被害の未然防止について万全を期することとする。さらに、環境省において、有機ヒ素化合物の健康影響に関する調査研究の成果を踏まえて、可能な限り早急にこれらの環境中における指針値を策定に関する検討を進めるものとする。
3.コンクリートのような塊を投入した者の探索
○高濃度のジフエニルアルシン酸に汚染されたコンクリートのような塊が発見された状況にかんがみ、このコンクリートのような塊に関して廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)の枠組みを活用しながら、国と茨城県が連携して、コンクリートのような塊を投入した者の探索を更に進めることとする。
4.汚染土壌等の適切な処理
○コンクリートのような塊が発見されたA井戸南東90メートル地点における掘削調査の過程で発生した汚染土壌、コンクリート様の塊などについては、可能な限り速やかに環境省において適正に処理をする。
5.毒ガス情報センターによる情報収集
○ジフェニルアルシン酸の由来等については、今後とも、引き続き、環境省毒ガス情報センターにおいて、これまで収集した情報の分析を行うとともに、関連する新たな情報を受け付けるものとする。