県議会予算特別委員会で知事に提案予定
 行政の歳出を大幅に削減する方法として「事業仕分け」が注目されています。政府も9月27日の経済財政諮問会議で、小さな政府に向けて「仕事の仕分けと削減の仕組み」をつくる必要性について合意しました。10月3日の自民党役員会では、小泉首相が「事業の仕分けを自公で作業してほしい」と指示したといわれています。
 茨城県議会では、10月19日に開催される予算特別委員会で、井手よしひろ県議が橋本昌県知事に直接「事業仕分け」の導入を提案する予定です。
 「事業仕分け」について、提唱者である民間シンクタンク「構想日本」(代表=加藤秀樹・慶應義塾大学教授)の自治体での取り組みを公明新聞の記事を中心に整理してみます。
「事業仕分け」とは、行政の仕事を“具体的に”見直す手法の一つ
 民間シンクタンク「構想日本」が展開する「自治体の『事業仕分け』プロジェクト」は、2002年2月にスタートしました。
 行政の事業を見直し、不要な事業を廃止したり、民間へ移管することは、行政依存から抜け出し地域の活力を回復するために不可欠の改革です。
 そこで、自治体職員など現場の人々で、予算書の全事業項目を個々にチェックし、「不要な仕事だ」「民間の仕事だ」などと仕分けようというのが、「事業仕分け」プロジェクトです。「仕分け」と同時に、事業の廃止・縮減や民間への移行をはばむ「国の規制や基準」も具体的にリストアップしてきました。
 「自治体の『事業仕分け』プロジェクト」は、2002年に岐阜、岩手、宮城、秋田、高知、三重の各県と神奈川県三浦市、03年に長野、新潟の両県と新潟市、04年に岐阜県多治見市と横浜市(経済局)、05年に横浜市(福祉局)と、既に8県4市で実施されました。
 「構想日本」が展開する「事業仕分け」の特長は、行政の事業を“具体的に”見直すことです。例えば、ある県の青少年育成事業では、公園で子どもをポニーに乗せています。これに対して青少年育成事業の是非を論じても意味がありません。事業仕分けでは「ポニーに乗せる事業が、県の仕事として必要かどうか」を検討します。事業の名目に目を奪われていると、いろいろな解釈が可能であり、官民の事業分担は進みません。個々の具体的な事業を切り分けることが重要です。
 また「事業仕分け」では、学者や中央省庁の視点ではなく、住民や自治体職員の“現場の視点”で見直します。この視点抜きでは、力の強い利害関係者を中心に事業の整理が行われる恐れが大きくなります。
 さらに「事業仕分け」では“外部の視点”を入れて見直すことがポイントです。当事者だけの議論では、従来の考え方の殻を破ることはできません。他の自治体職員やビジネスマンなども参加し、さまざまな角度から見直すことが重要です。
 「事業仕分け」にはこれまでの3年半に、自治体職員をはじめ他の自治体の有志議員や職員、経営者、NPOメンバーなど延べ約700人が参加してきました。
 参加した自治体職員は「事業項目の説明、質問への応答を通して、自県の事業のあり方に対する理解が深まった」「参加者同士の議論を通じて、自治体の役割を考える際の新たな視点を見つけることができた」といった感想を寄せています。「事業仕分け」が、自治体職員の意識改革にも、つながっていることがうかがえます。
“外部の目”で事業の必要性、民間移譲など検討
 横浜市福祉局の「事業仕分け」作業が9月3日、「構想日本」などが主催して、午前9時から午後6時まで行われました。
 横浜市の「事業仕分け」は、昨年12月の経済局に続いて2回目となります。前回は中田市長も視察し、「外からの刺激を受けることが重要」と話しました。
 今回の作業対象は、04年度の横浜市福祉局の69事業(約7130億円)です。作業に当たったのは、横浜市職員のほか、他市の議員・職員、ニュービジネス振興に取り組む「社団法人ニュービジネス協議会」メンバー(経営者など)、若手経済人でつくる「社団法人横浜青年会議所」メンバー、政策・戦略の立案・実践などに取り組む「特定非営利法人MPI」メンバー(若手ビジネスパーソン、大学生)、省庁職員など約130人です。
 作業では冒頭1時間にわたって、横浜市職員が福祉政策の考え方や方針を説明し、意見交換。その後、5班(生活福祉、児童・母子支援、障害者福祉、高齢者福祉、地域福祉)に分かれて作業に当たりました。
 各班ではまず、事業分野ごとの基本的な考え方について意見を交換。そして各班が担当する12〜15事業について、1事業30分を目安に個々のチェックを行いました。
 個々の事業のチェックでは、横浜市職員が事業計画書をもとに事業の目的、内容、進捗、自己評価などを説明。その上で全員で議論し、その事業が必要か不要か、必要なら国、県、市、民間のどこがやるか――を多数決で5つに分類しました。
 まず、「世の中に必要な事業かどうか」を検討。第三者(行政、民間)が当該サービスを提供するべきか、または、提供してもよいか、を判断します。
 次に、「だれが事業を行うべきか」を検討。まず、「税金を使ってやるべきか」「行政が民間と同様のサービスを提供すべきか」「行政の方が効果的・効率的か」などの視点で、事業を行うのは「行政か民間(企業、NPO)か」を判断します。
 行政が事業を行うべきだとなった場合は、さらに、事業を担うべきなのは「国か地方か」「県か市か」を検討。「最も正確にタイムリーに、事業の必要度、内容や提供の仕方、費用対効果を把握できるのはどこか」「サービスの内容や水準に地域差があってもよい事業か(または、あるべき事業か)」などの視点で判断し、仕分けを行います。
 重要なことは、仕分けは抽象的な「事業名称」ではなく、具体的な「事業内容」で行うことです。例えば「ホームレス自立支援事業」が必要かどうかではなく、実際の事業の中身、たとえばホームレスに温かいスープを提供する事業が必要かどうかで判断します。
 また、第一段階では、市の歳入状況は考慮せず、現行の法制度もそのまま前提とはしません。「ホームレス自立支援事業」なら、「自立とは何か」「自助・互助・公助のバランスはどうあるべきか」といった事業の背景をなす価値観(思想、哲学)をベースに議論を行います。(そもそもあるべき姿を前提に)
 そして、こうした“そもそも論”で「行政としては手を離すべきだ」と判断された事業について、第二段階で、法制度上の制約など“現実論”に立って再検討し、引き続き行政で事業を行うかどうかを判断していきます。
 個々の事業のチェックでは、仕分けとともに、事業の目的・目標は明確に定められているか、評価基準は具体的か、より低コストでできないか――などといった「仕事のやり方」についても意見交換し、改善点も抽出していきます。
これまでの事業仕分けの結果では、約1割は不要・民間へ
 自治体の「事業仕分け」の結果を見ると、8県の平均で、歳出ベースで10%の事業が「不要あるいは民間の仕事」、30%の事業が「他の行政機関の仕事」とされ、「引き続き県の仕事」とされたのは60%程度でした。
 3市(一部で実施した横浜市を除く)の平均では、13%の事業が「不要/民間へ」、16%の事業が「他の行政機関へ」とされ、「引き続き市」とされたのは71%です。
 都道府県レベルでも市町村レベルでも、約1割の事業は「不要か民間に任せた方がいい」とされたことになります。
 さらに、新潟県の「事業仕分け」の結果を見ると、03年度予算(一部事業の642億円を除く1兆2205億円)のうち、「引き続き県」とされたのは58%、「市町村へ」は23%、「国へ」は7%、「民間へ」は8%、「不要」は4%と判断されました。
 仕分けは多数決で決めるが、新潟県で「不要/民間へ」とされた事業は、「多数決」ベースで1400億円、「全員一致」ベースでも1100億円。予算の約1割が、行政が手を離すべき仕事とされました。
 「不要/民間へ」とされた事業で金額の大きいものは、中小企業緊急経営支援資金貸付金(約364億円)、持家住宅建設資金貸付金(約162億円)などです。
 「不要/民間へ」とされた主な理由は、受益者による自己負担や対象者による自助努力が適当、事業の効果が疑問、補助や負担の対象がもはや不要、民間の方が効率的――などでした。
 「市町村へ」とされた事業で金額の大きいものは、小学校教育職員給与費(約779億円)、中学校教育職員給与費(約438億円)、介護保険給付費負担金(約155億円)などです。
 「市町村へ」とされた主な理由は、住民生活に密着したきめ細かいサービス提供が必要、事業の受益対象が地域限定、市町村で対応が十分可能――などでした。
 一方、「引き続き県」とされた事業は、議会、総務ほか、警察、県民生活・環境、土木、農地で50%超。「引き続き県」とされた主な理由は、事業の受益対象が県内の広範囲に存在、県内のサービス水準の統一が必要、個々の市町村がやるより効率的――などとなりました。
 「事業仕分け」の結果を予算編成に生かす取り組みも行われています。横浜市では、横浜市経済局の「事業仕分け」で“そもそも論”“現実論”いずれで検討しても「不要/民間へ」に仕分けされた44事業(約83億円)について検討。05年度予算で、経営安定ハンドブック作成など6事業を廃止・終了し、中小製造業技術連携など7事業を見直しました。さらに06年度予算に向けて、製造業ビジネスモデルなど26事業について、3年以内の廃止・終了、見直しを検討することにしています。