ライブドア前社長の堀江貴文被告が武部勤自民党幹事長の二男へ、現金3000万円を振り込むようメールで指示したと追及した民主党の 永田寿康衆院議員は、2月17日、衆院予算委員会で改めて質問に立ちました。しかし、永田議員は疑惑を裏付ける証拠示すことができず、小泉純一郎首相から「根拠のない情報を基にして人を傷つける行為だ」と厳しく指摘されるなど、永田氏の質問それ自体の信憑性への疑念が深まる結果となりました。国会議事堂
 先のブログでも指摘しましたが、今回のメール疑惑に対する事実関係の立証責任は、永田議員並びに民主党にあります。公開の場で、情報提供者に危害が加わる懸念があるのであれば、司法当局に直接情報を提供する選択肢もあると思われます。予算委員会の秘密会ということも考えられます。永田議員は事件の真相究明にポイントを絞るべきです。武部幹事長、小泉首相の攻撃が目的であるとすれば、まさに本末転倒です。
 自民党は永田氏に対する懲罰動議を提出し、20日の衆院議員運営委員会の理事会で取り扱いが協議されます。
 懲罰動議とは 憲法第58条や国会法に定められており、衆参両院は「院内の秩序をみだした議員」を懲懲する権利があるとされています。衆院は40人(参院は20人)以上で動議を提出し、懲罰委員会で審査されます。懲罰は、軽いものから、1.戒告、2.陳謝、3.登院停止、4.除名の4種類で、最終的には本会議で正式決定されます。一番重い除名処分が決まると、議員としての資格を失うことになります。除名には、出席議員の3分の2以上の賛成が必要ですが、永田議員の場合、過去の言動や懲罰動機に掛けられて回数などから、除名処分に至る可能性もあります。
 そもそも永田議員は、「ミスター懲罰」と言われるほど、舌禍が絶えない人物です。新聞報道やフリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』等でその経歴を追ってみると、以下のようになります。
2000年参院議院運営委員会の開会をめぐり与野党でもみ合いとなった際、与党議員や衛視らに暴力的な行為を行ったとして、懲罰動議にかけられる。
2000年12月国会壇上の松浪健四郎議員から水を浴びせかけられている。永田が松浪議員に「(当時の国土交通大臣と)何発やったんだ?」と野次を飛ばしたことが原因とされている。
2003年3月名古屋刑務所に受刑者が高圧放水によって死亡した事件について、消防ホースで「再現」実験を行う。しかし実際の水圧は実験のものの10分の1程度にすぎないことが判明し、民主党は謝罪に追い込まれた。
2004年3月衆院本会議の発言で、小渕恵三、森喜朗、小泉純一郎の歴代3内閣に言及した発言について、自民党が抗議し、「不適切な発言」として議事録から発言が削除。
2005年7月衆議院外務委員会で、手元にあった紙で折り紙をしている映像が報道され、失笑を買う。
2005年7月衆院・倫理選挙特別委員会で、風聞を根拠に公明党の支持団体の住民票が東京都に移されている疑念がある等と発言。河野衆議院議長から注意を受け、与党から4度目の懲罰動議が出される。民主党は公明党に謝罪した。
2005年8月習志野市内の事務所開きにおいて、「公明党支持団体」の固有名詞を挙げて再び7月同様の発言。さらに創価学会は宗教団体として認められていない等と発言。しかし創価学会は昭和27年には宗教法人の認証を得ており、悪質な虚偽の流布として、創価学会より名誉毀損で刑事告訴される。
2005年12月八千代市内での国政報告会で耐震強度偽装問題に触れ、住民は火をつけたくてしょうがない。(阪神大震災では)激甚災害指定欲しさに被災者が火をつけてまわった等と発言。06年1月の衆院国土交通委員会で取り上げられる。


民主党永田議員:堀江メールが偽物であることを認め辞職へ
(2006/2/23更新)

読売社説[疑惑メール]立証責任は永田議員にある
読売新聞(YOMIURI ONLINE 2006/02/18)
 電子メールは改竄(かいざん)が容易だ。にもかかわらず、「疑惑」の根拠とするメールを本物とみなしたのなら、その証拠を示すのが筋というものだろう。
 衆院予算委員会で、ライブドア前社長の堀江貴文被告と武部自民党幹事長の二男との間に、昨年9月の衆院選に絡んで金銭の授受があったと、民主党の永田寿康議員が追及した。
 証拠として挙げたのは、堀江被告が発信したとする電子メールだった。文面では、堀江被告が二男に3000万円を送金するよう社内に指示している。
 武部氏は、昨秋の総選挙で、無所属の堀江被告を応援し、「わが弟、息子」と持ち上げた。そんな背景もあって、かなりの“衝撃力”を持つ追及となった。
 ところが、追及からわずか1日で、そもそもメールそのものが本物なのか、疑わしくなっている。
 武部氏は、「二男と二男の経営する会社のすべての銀行口座、通帳を確認したが、指摘の事実は見つからなかった」と全面否定した。堀江被告も弁護人に「メールも送っていなければ、金も払っていない」と語ったという。
 自民党は「根拠のない情報を基にした誹謗(ひぼう)中傷だ」として、金の振込先の口座番号などの開示を要求した。民主党は、二男の参考人招致など国政調査権に基づき調査すべきだ、と反論している。
 自民党は永田氏の懲罰動議を、民主党は予算委で永田氏を批判した自民党議員の懲罰動議をそれぞれ提出した。
 永田氏自身は、17日の予算委で、「当事者が事実無根と言っただけで、犯罪がなかったことを証明したことにはならない」と繰り返している。
 これは論理のすり替えである。「確度の高い情報を得ている」と言っている永田氏がまず、「疑惑」を真実と信じる具体的な根拠を明らかにすべきだ。
 インターネット上は、元のデータを加工したものなど虚偽情報があふれかえっている。メールの入手経路は「フリーの記者を通じて」というが、詳細は明らかにしていない。
 永田氏は国会で、民間人である二男の実名まで挙げた。普通なら、メールが本物であると信じるに足る根拠がなければできないことだ。逆に、根拠もあいまいなまま取り上げたのだとしたら、当事者への謝罪程度では済むまい。
 与謝野経済財政相は予算委で、こう指摘している。
 「この世で一番難しい証明は『ない』ということを証明することだ」
 永田氏には、「ある」と信じた根拠を示す責任がある。

朝日新聞社説:メール疑惑 民主党の信用が問われる
朝日新聞(asahi.com 2006/02/18)
 これでは余りに肩すかしだ。多くの人がそう感じたに違いない。ライブドア前社長の堀江貴文被告から、自民党の武部勤幹事長周辺に巨額の資金提供があったのではないか。国会でそう指摘した民主党の追及のことである。
 火をつけたのは永田寿康衆院議員だ。一昨日の衆院予算委員会で爆弾発言をした。昨夏の総選挙の直前、堀江被告が武部氏の次男あてに3千万円を選挙コンサルティング費の名目で振り込むよう、社内メールで指示していた――。
 もし事実なら、武部氏が総選挙で堀江被告を「わが息子」とまで持ち上げて支援した裏に、実の息子への巨額の資金提供があったことになる。武部氏の責任のみならず、党総裁である小泉首相の責任も問われる事態は避けられない。
 それだけに、自民党の対応は素早かった。次男と会社の銀行口座と通帳を調べたうえで、3千万円の入金履歴もライブドアからの振り込み入金もなかったと発表した。一方、東京地検は「メールの存在は全く把握していない」とコメントし、堀江被告も接見した弁護士にメールを送ったことや送金の事実を否定した。
 これだけの重大疑惑を公の場で指摘したのだから、民主党もこうした自民党側の対応は覚悟しているのが当然だろう。永田氏が再び質問に立ったきのうの衆院予算委で、どんな「二の矢」が出るのか。多くの人が注目した。
 だが、まったくの期待はずれに終わった。「情報提供者を守るため」とメールそのものを示さないことは私たちも理解できる。夜になってコピーを公表したが、このメールが本物である証拠は示せなかった。
 政府・与党に疑惑があればただし、責任を追及するのは野党の大切な役割だ。自由な言論を保障するためにこそ、憲法は議員が国会で行った発言について国会外で責任を問われないと定めている。
 だが仮に、永田氏の指摘が小泉首相が繰り返し揶揄(やゆ)するように「ガセネタ」であったとすれば、武部氏の名誉を不確かな根拠で傷つけたことになる。
 もしそうなら、永田氏の信用が失墜するだけでは済まない。「なかなか確度の高い情報だ」と追及を後押しした前原代表はじめ民主党そのものが国民の信用を失い、その能力が厳しく問われる。
 ライブドア事件をめぐっては、民主党の脇の甘さが印象づけられる場面がほかにもあった。鳩山幹事長が「投資事業組合への自民党議員の関与が濃厚だ」と発言したが、その根拠を示せていない。
 今回のメール疑惑は、まだわからないことが少なくない。ただ、現時点では追及した民主党の方に世論の厳しい視線が向けられている。信頼できる資料があるのならきちんと示すべきだ。
 政権奪取を目指して政府・与党を追及するのはいい。だが、有権者が眉につばをつけて見ざるを得ないようなあやふやな議論では元も子もない。民主党は脇を締めて、出直す必要がある。

毎日新聞社説:メールの真偽 うやむやに終わらせるな
毎日新聞(MSN-Mainichi INTERACTIVE 2006/02/18)
 「ニセ情報をもとに人を傷つけるのは遺憾だ」(小泉純一郎首相)と民主党の示した情報のでっち上げ説を主張する政府・与党に対し、民主党は堀江被告が指示したとされる社内メールを「情報源が身の危険を感じている」(永田寿康氏)と委員会に提示しなかった。民主党が主張を裏付ける物証を明示できなかったことに、はぐらかされた印象は否めない。
<中略>
 ウソかまことか、事実は一つしかない。双方とも明確な資料を示さずに「自分が正しい」と主張し合うのでは不毛な議論が続くだけだ。堂々巡りの議論を断ち切り白黒をつけるには、双方が自分の主張を裏付ける物証を提示しなければならない。それをやらないから、いつまでも靴の上からかゆいところをかいた議論になる。
 一般的には、疑惑を指摘した方に立証責任がある。まず民主党は持っている証拠を提示すべきだ。もちろん情報源の秘匿は守られなければならない。その一方で「ニセ情報で傷つけられた」という武部氏も自民党ナンバー2の公人である。関係する銀行預金の詳細を予算委に提出して、進んで潔白を証明することがあってもいいのではないか。


(2009/1/3更新)
 永田寿康・元民主党衆院議員は、北九州市のマンションから飛び降り自殺しました。マスコミ報道によると、08年11月からこのマンション近くの病院で精神疾患の治療に当たっていたということです。(合掌)
偽メール事件で辞職の永田元議員が自殺、遺書残し飛び降り
読売新聞(2009/1/3)
 (2009年1月)3日午後6時25分頃、北九州市八幡西区里中3のマンション(11階建て)の駐車場で、偽メール問題で2006年に議員辞職した永田寿康・元民主党衆院議員(39)が倒れているのを住民が見つけた。
病院に搬送されたが、死亡が確認された。
 福岡県警八幡西署によると、10階と11階の間の階段の踊り場でノートに書いた遺書が見つかった。同署は飛び降り自殺したとみて調べている。永田元議員は昨年11月から、マンション近くの病院に精神疾患で入院していたという。
 永田元議員は2006年2月、衆院予算委員会で、当時のライブドア社長が、自民党幹部の家族への送金を指示したとする電子メールを取り上げたが、後にメールが偽造と判明し、同年4月に議員辞職した。
 永田元議員は2000年6月の衆院選で、千葉2区から初当選。以後、2回当選し、民主党調査局次長などを務めた。