公明党は、3月23日に「がん対策推進法」(仮称)の要綱骨子を発表しました。
 日本では今、国民の2人に1人が、がんにかかり、3人に1人は、がんで死亡しています。しかも、10年後には2人に1人が亡くなる時代になる。がんはまさに“国民病”であり、国を挙げて取り組むべき課題となっています。
 そうした背景を踏まえて公明党は、がん対策に格段の力を入れてきました。これまでも国の「対がん10カ年戦略」や予算措置の拡大などを一貫して推進してきました。
参考写真 今回発表した公明党のがん対策法案のポイントは、3つあります。一つは、がん患者の痛み、苦しみを和らげる「緩和ケア」の充実。二つ目は、治療に極めて有効でニーズ(需要)も急増している「放射線治療」の専門医の早急な育成。三つ目は、患者が最適な治療を受けられるようにするために欠かせない「がん登録」制度の実施です。
 がん患者には、進行状況によって治らない人がいますが、その多くは激しい痛みと精神的な苦しみで七転八倒の日々を過ごす人も少なくありません。ところが、「緩和ケア」をきちんとやれば、痛まないし苦しまない。生活の質(QOL)も確保できる。この苦痛からの解放は、がん患者の「人権」を尊重することにつながります。既に世界標準となっている「緩和ケア」が、日本では極めて立ち遅れていますから、ここを大きく変えないといけません。
 例えば、緩和ケアの中心であるモルヒネの投与も口から飲む分には安全なのに、わが国では「麻薬中毒になる」との誤解が根強く、使用量は欧米に比べて格段に低いままです。緩和ケアについて、医師や看護師、薬剤師などに教育・普及を徹底し、早い段階から治療と並行して受けられる態勢を構築しなければならないと考えています。
 2番目のポイントは、放射線治療医の育成です。放射線治療の専門医の不足は深刻です。
 がんの治療法は主に、手術治療、放射線治療、化学療法(抗がん剤)の三つですが、放射線治療の需要が増えているのに、その専門医は全国で約500人しかいません。
 わが国では、これまで胃がんなどが多かったので「手術治療」が主流でしたが、食品の衛生状態が良くなるにつれて発症例は減少。代わって乳がんや前立腺がんなど「放射線治療」が有効ながんが増えています。
 米国では現在、がん患者の65%が放射線治療を受けていますが、日本でも10年後には国民全体の4人に1人が放射線治療を受けるようになると推測され、500人程度では到底、対応できません。治療の主役が外科的治療から放射線治療へと移行しつつある中で、放射線腫瘍医など放射線治療の専門医の育成が急務です。
 併せて、放射線治療機器の品質管理を行う「放射線治療品質管理士」などの育成も必要です。大学教育の段階から、放射線治療のための講座の開設や専門医・医療スタッフの育成、さらに、がん診療に従事する医師に研修機会を提供していくことが不可欠です。
 3つめのポイントは「がん登録」を導入するということです。
 結核は、患者さんの個人情報を含めて登録が法律(結核予防法)で義務づけられていますから、国内の罹患状況が正確に把握されています。同様に、がんと診断された人の年齢や性別、居住地、がんの種類などの情報や、治療法とその結果をきちっと把握すれば、がんの種類別、進行度別の正確な治療成績も分かりますから、どのような治療法が有効かなど、今後の戦略的取り組みを検討する上で不可欠な情報が得られることは間違いありません。
 米国では、がん登録に基づく戦略的取り組みが奏功して、死亡率が減少しています。また、国民がいつ、どこに住んでいても質の高い医療を受けられるという「がん医療の均てん化(格差是正)」を進めるためにも、がん登録の義務化を急がなければなりません。
がん対策の推進に関する法律(仮称)要綱骨子(全文)
 公明党がん対策推進本部が3月23日に決定、発表した「がん対策の推進に関する法律(仮称)要綱骨子」の全文は次の通りです。
 文中の「※印」の部分は、「法案の条文としては、十分そぐわない可能性がある」との見解もあるので、取りあえず別書きとしてありますが、今後のがん対策にとって極めて重要な検討・推進事項であると考え、明記したものです。今後、法案化の中で調整する方針です。


一、がん対策推進計画等
 1.政府は、がん対策の総合的かつ計画的な推進を図るため、がん対策の推進に関する計画(以下「がん対策推進計画」という。)を策定しなければならないこと。
 2.都道府県は、がん対策推進計画を基本とするとともに、当該都道府県におけるがん患者に対する医療の提供の状況等を踏まえ、当該都道府県におけるがん対策の推進に関する計画(以下「都道府県がん対策推進計画」という。)を策定しなければならないこと。
 3.がん対策推進計画及び都道府県がん対策推進計画は、五年ごとに見直しを行うこと。

二、がん対策推進本部
 1.内閣府に、がん対策推進本部(以下「本部」という。)を設置すること。
 2.本部は、次に掲げる事務を行うこと。
 (1)がん対策推進計画の案を作成すること。
 (2)がん対策について必要な関係行政機関相互の調整をすること。
 (3)(1)及び(2)のほか、がん対策に関する重要事項について審議し、及びがん対策の実施を推進すること。

三、法制上の措置等
 国は、がん対策の推進に当たり必要となる法制上または財政上の措置その他の措置を講じなければならないこと。

四、国及び地方公共団体が講ずべき施策
1.がん情報の提供
 (1)国は、手術治療、放射線治療、化学療法その他のがんの治療法、医療機関ごとのがんの治療成績等がん医療に関する情報の収集、分析及び提供を行う機関(以下「がん対策情報センター」という。)が設置されるよう必要な施策を講ずること。
※がん対策情報センターは、上記のほかに医療機関ごとの専門医の数や設備の状況、がん検診の有効性、調査研究の成果等といった情報を提供することとし、その際は、できる限り平易な言葉で行われることとする。
 (2)国及び地方公共団体は、医療機関ががん医療に関する情報を共有し、及びがん患者がその居住する地域にかかわらずがん医療に関し必要な情報を入手することができるようにするため、医療機関の間におけるがん対策情報センターを中心としたがん情報ネットワークが構築され、がん医療に関し必要な情報が提供されるよう必要な施策を講ずること。
2.がん登録
 (1)国及び都道府県は、別に法律で定めるところにより、がん患者のがんの診断及び治療並びに予後に関する情報を収集・分析し、がん医療の向上に役立てるため、がん登録を実施すること。
※別に法律で定める事項として、以下のようなことが考えられる。
 (1)がん対策情報センターにデータベースを設けること
 (2)全国共通の登録基準を策定すること
 (3)運用基準を整備すること
 (4)登録情報の管理、利用等に関する手続きを整備すること
 (5)がん登録に携わる専門的な人材を確保すること
 (2)国は、(1)の施策を講ずるに当たっては、がん患者を表す手段としてがん患者の氏名に代替する番号が用いられるようにする等がん患者に係る個人情報の保護が図られるようにすること。
3.医療機関の整備及び連携協力体制
 (1)国及び都道府県は、がん患者がその居住する地域にかかわらず適切な医療を受けることができるよう、都道府県がん中核拠点病院、地域がん診療拠点病院その他の専門的ながん医療を提供する医療機関の整備を図るために必要な施策を講ずること。
※都道府県がん中核拠点病院は、都道府県ごとに一つを目途に整備されることとし、地域がん診療拠点病院が果たす役割(後述)のほか、地域がん診療拠点病院の医療従事者に対する研修等を行う。
※地域がん診療拠点病院は、二次医療圏ごとに一つを目途に整備されることとし、がん患者に対し適切な医療を提供するほか、地方公共団体が行うがん検診に対し協力する。また、がん対策情報センターと連携しながらがん患者及びその家族に対する支援及び必要な情報の提供を行う「サテライト相談室」を院内に設置する。
※地域がん診療拠点病院においては、腫瘍外科医、放射線腫瘍医、腫瘍内科医、緩和ケア医その他の専門医、認定看護師、認定薬剤師等がチームとなってがん医療を行う体制(キャンサーボード)が整備されるようにする。
 (2)国は、(1)のほか、専門的ながん医療を提供する医療機関に対する診療報酬上の優遇措置等専門的ながん医療を提供する医療機関の整備を図るために必要な施策を講ずること。
 (3)国及び地方公共団体は、がん患者がその居住する地域にかかわらず適切な医療を受けることができるよう、国立がんセンター、都道府県がん中核拠点病院、地域がん診療拠点病院その他の医療機関の間における連携協力体制の整備を図るために必要な施策を講ずること。
※連携協力体制を整備する中で、がんの診断、治療方法等について各医療機関の専門分化を促し、治療の効率化と高精度化を推進する。
4.大学における放射線腫瘍医、腫瘍内科医等の専門的な人材の育成等
 (1)国及び地方公共団体は、がん患者がその選択に基づいて専門的な医療を受けられるよう、大学(大学院を含む。)の教育課程の編成の放射線腫瘍医、腫瘍内科医その他の専門医を育成することを目的とした見直し、医師に対する専門的ながん診療技術に関する研修の機会の確保、専門的に放射線治療の品質管理を行う者、がん患者の看護に関する専門的な知識及び技術を有する看護師その他の専門的な知識及び技術を有する医療従事者の育成その他のがん医療に携わる専門的な医療従事者の育成を図るために必要な施策を講ずること。
※専門的に放射線治療の品質管理を行う者(「放射線治療品質管理士」)の育成に関しては、将来的に国家資格を創設することについても検討を行う。
※他に、大学(大学院を含む。)に対し、腫瘍内科学講座、放射線腫瘍学講座、緩和医療学講座等の設置を促進するための支援を行う。これらの講座の設置に際しては、放射線診断学と放射線腫瘍学の分離独立、死生学及び緩和ケアに関する教育の充実等に留意することとする。
 (2)国及び地方公共団体は、(1)の施策を講ずるに当たっては、放射線腫瘍医、診療放射線技師、放射線治療の品質管理を行う者その他の放射線治療に従事する者が十分に確保されること等により適切な放射線治療が提供される体制が確保されるよう特に配慮すること。
5.適切な緩和ケアの在り方及びその提供の確保等
 (1)国及び地方公共団体は、がん治療の開始とともに適切に緩和ケアが行われることが重要であることにかんがみ、緩和ケアに関する知識の普及、モルヒネ等の医療用麻薬の適切かつ十分な使用によりがん患者の苦痛の軽減を図ることその他の緩和ケアに関する医療従事者に対する研修の機会の確保、緩和ケアに関する専門的な知識及び技能を有する医療従事者の育成、地域がん診療拠点病院において外来患者を含めた患者に対し適切な緩和ケアが提供される体制の整備その他の医療機関における適切な緩和ケアの提供の確保のために必要な施策を講ずること。
※緩和ケアを必要とする者はがん患者に限られるものではないことから、今後は緩和ケアを医療全体の基盤として位置づけるための施策を推進していくこととする。
※医療用麻薬の適切かつ十分な使用を可能にするため、その管理体制の見直しを行う。
 (2)国及び地方公共団体は、がん患者がその人生の最後まで尊厳を保持することの重要性にかんがみ、終末期において適切な緩和ケアを提供することができる医療機関の整備、終末期におけるがん患者及びその家族の心のケアの方法に関する専門的な技能を有する者の確保、終末期において居宅で適切な緩和ケアを提供するための地域における連携協力体制の整備その他のがん患者に適切な終末期医療が提供されるために必要な施策を講ずること。
6.抗がん剤、医療機器等の早期承認等
 (1)国は、外国において効果が認められている抗がん剤、医療機器等であって国内で保険承認がなされていないものの使用に係るがん患者の負担が過大となっていることにかんがみ、これらについて速やかに治験が行われ、並びにその有効性及び安全性が確認されたものについて速やかに薬事承認及び保険承認がなされるよう必要な施策を講ずること。
※具体的な施策としては、医薬品医療機器総合機構における承認審査業務の見直し等が考えられる。その際、最新の医療機器が使用できるような環境を整備することに特に留意することとする。
 (2)国は、民間企業だけでは製造又は確保が難しい稀少医薬品(対象となる者の数は多くないが、製造販売の承認が与えられれば特に優れた使用価値を有することとなるもの)を確保するために必要な施策を講ずること。
7.調査研究
 (1)国及び都道府県は、がんの本態解明、革新的ながんの予防、診断及び治療法の開発、免疫療法と他の治療法との併用その他のがんの罹患率及び死亡率の低下に資する事項についての調査研究が促進され、並びにその成果が普及され、及び活用されるよう必要な施策を講ずること。
 (2)国及び都道府県は、がんの代替医療についてその効果の検証を含めた調査研究(国際協力による作業を含む。)が促進され、並びにその成果が普及され、及び活用されるよう必要な施策を講ずること。
8.がん予防の推進
 国及び地方公共団体は、がん予防を効果的に行うため、がん検診の有効性の科学的な検証及び有効性が認められたがん検診の普及、がん検診に携わる医療従事者に対する研修、がん予防に関する知識の普及その他のがん予防の推進のために必要な施策を講ずること。
※その他の施策として、がん検診の受診率を向上させるための休暇制度のあり方及び休日にがん検診を行う医療機関を確保するための方策について検討を行うこと等が考えられる。
9.国際交流
 国及び地方公共団体は、がん対策の推進に資するため、外国における最新のがんの治療法、抗がん剤等に関する情報の収集、がん医療に携わる医師等の国際的交流、がん医療に関する情報交換その他の国際交流の推進のために必要な施策を講ずること。

五、医師の責務
 1.医師は、がん患者が自ら治療方法を選択することができるよう、そのがんに関する病態、国際的に標準的な治療方法、選択されうる治療方法等について適切かつ十分な説明を行うこと。
 2.医師は、がん患者の希望に応じ、いわゆるセカンドオピニオンを受けるために必要となる資料等を当該患者に提供するとともに、必要に応じて他の医療機関を紹介すること。

六、国民の責務
 国民は、喫煙が健康に及ぼす影響等がんについての正しい知識を持ち、がんの予防に必要な注意を払うよう努めるとともに、必要に応じてがん検診を受けるよう努めなければならないこと。

七、その他
 1.国及び地方公共団体は、国民ががんに対する理解を深めるよう、学校等におけるがんに関する教育の充実その他の必要な施策を講ずるものとすること。
 2.国及び地方公共団体は、がん患者及びその家族相互間の交流が図られるよう必要な施策を講ずるものとすること。
 3.政府は、喫煙者数の減少を図るため、たばこ税の税率の引上げについて検討を行い、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとすること。