茨城県で養護学校のスクールバスを運行する事業者(以下J社と記載します)の労働組合が、一般競争入札による業者決定が福祉切り捨てにつながるとして、ストライキや抗議運動を行っています。
 県内に16校ある養護学校では、児童生徒の登下校のためにスクールバスが運行されています。健常児(者)のスクールバスとは違い、運行距離も長く、介助も必要なことから、運転手と介助員との2名体制による運行になっています。従来は、一部バス会社との随意契約で運行事業社が決定されていましたが、現在は、規制緩和と行財政改革の視点から、一般競争入札が導入されています。
 その方式は、10年間でバスの減価償却をする前提のもと、車両更新や新設、コース増の際、一般競争入札を行い、それ以降9年間は、同じ事業者と随意契約を結ぶというものです。
 平成17年以降、それまで県南・県西・鹿行地域で圧倒的なシュアをもっていた石岡市に本社をもつバス会社J社は、相次いで入札に失敗し、平成16年に46台保有していた車両が、18年には35台と25%以上減少するという事態に陥っています。例えば、平成17年度に実施された鹿島養護学校の入札では、落札した業者が6210万円、J社は7199万円と16%の差が開き落札できませんでした。18年度の協和養護では、落札業者が2085万円、J社が2128万円と4.8%の差がでました。さらに、今年4月から開校するつくば養護にいたっては、落札した業者は4858万円と低価格を提示し、J社の8800万円と比べて1.8倍もの差がでました。
 こうした状況を受けて、J社の労働組合は、一般競争入札による弊害を指摘して、「(度を越えた低価格入札では)どうして子どもたちの安全や安心を守っていくことができるのか」と主張しています。その上で、入札制度の見直しを求めて、昨年夏にはハンガーストライキを実行しました。また、3月14日の飯富養護、伊奈養護学校の入札を控えて、2日には3路線のストライキ、県庁における抗議行動などを行いました。
 こうした労働組合の主張は、一部、養護学校関係者や障害者団体などからの共感を呼び、福祉と公共事業のあり方について一石を投ずる運動となっています。
 確かに障害をもった子供たちにとって、長い時間利用するスクールバスの運転手や介助員が、経済的な理由だけで変わることへの不安は、十分理解できます。しかし、そのことをもってJ社が随意契約を続けて良い理由にはできません。
 平成18年度の県包括外部監査では、養護学校のスクールバス委託契約について、「積算に使っている労働者の単価が全労働者(全国)の賃金を元に計算されており、本来は茨城県の賃金額を元に計算すべきで、これによって2225万円もの積算額が上乗せされており、積算基準の見直しを行うべきである」と、一層の経費節減を求めています。
 行政の公平性や透明性を確保するためには、一般競争入札の拡大が不可欠です。それは、例えば福祉の場でも、医療の場でも、合理的な理由がない限り、原則誰もが自由に入札に参加できるシステムを創るべきだと考えています。そして、この無機質な競争入札という制度に、福祉の温もりの心をどのように吹き込むのか、この大きな課題に県民あげての議論が必要な時を迎えていると実感しています。
抗議の72時間ハンスト
運行委託の競争入札に反対する常南交通労組

常陽新聞(2006/7/27)
 県立養護学校スクールバスの運行委託導入で仕事が奪われ、福祉が切り捨てられているとして、常南交通労働組合(石岡市、柴原洋次執行委員長、組合員約百人)の組合員六人が二十六日夕方から、水戸市笠原町の県庁前で七十二時間のハンガーストライキに入った。
 養護学校の保護者らとともに三年前から署名活動などに取り組んで来たが、規制緩和の流れの中で一般競争入札がさらに進み、追い込まれた形で立ち上がった。
 県内の養護学校でスクールバス運行が開始されたのは養護学校が義務化された一九七九年。当初から民間委託され、県北・県央を水戸市のバス会社に、県南・県西・鹿行を常南交通に委託してきた。
 行政改革の下で、二〇〇一年三月に初めて土浦養護学校と友部養護学校の増車各一台分が一般競争入札となり、既存の業者が落札。二〇〇二年三月には水戸養護、鹿島養護、結城養護で増車分各一台の入札が行われ、結城養護では新規事業者が落札した。
 一般競争入札が進む中で、同労組は〇三年八月から、養護学校の保護者とも連携して署名活動に取り組み、〇四年八月に約一万六千人の署名を提出。バスが替わって登校拒否の生徒が出るなどの問題もあったため、県教育委員会などと交渉を持つなど、競争による委託費の引き下げではなく、介助の質を問う運動を進めた。
 しかし、各養護学校で新規事業者の受託が進んだ。今年秋には来年四月開校予定のつくば養護(仮称)のバスの競争入札が予定されており、危機感を募らせた同労組がハンガーストライキに入った。
 ハンガーストライキは柴原委員長ら六人が二十九日午後四時までの丸三日間、七十二時間行う。
 柴原委員長は「このままのやり方ではみんななくなってしまう。三年間やってきて、話し合いでは『分かった』と言っていても担当者は二、三年で交代してしまう。サービスは変わらないというが、やったことがない人がそこまでできるわけがない。結局は福祉が切り捨てられることになる」と訴えている。
 午後六時すぎから開かれたスト突入集会には支援者も含め約百人が参加。参加者は「何とか貫徹したい」と決意を表した。