年金記録問題 全面救済へ
公明新聞:2007年5月26日
公明の質問に安倍首相が明言、受給者とデータ照合
特別立法で、5年間の時効を撤廃

参考写真
 衆院厚生労働委員会は5月25日、安倍晋三首相が出席して、社会保険庁改革関連法案について審議した。この中で安倍首相は、社会保険庁が管理する年金保険料の納付記録のうち約5000万件が該当者不明となっている問題について、公明党の福島豊氏らの質問に答え、本来の受給額との差額を時効で5年分しか受け取れない受給者を救済するため、時効を撤廃する方針を表明。柳沢伯夫厚生労働相は、すべての年金受給者に記録を送付する考えを示した。
 審議の中で、安倍首相は「年金制度は国民の信頼の基盤の上に成り立つもの。国民の信頼を失った社会保険庁は廃止しなければならない。これは政府・与党共通の思いだ」と述べ、社保庁の“廃止・解体6分割”を断行することで国民の信頼を回復し、国民の期待にこたえていく考えを表明。年金記録問題に関する今後の対応について、首相は「国民の視点に立って、やるべきことはすべてやるよう指示した」と強調した。
 柳沢厚労相は「最も問題なのは、年金を現に受給している方に支給不足が起こっているケースだ」と述べ、5000万件のうち、60歳以上の記録約2880万件(生年月日が特定できない約30万件を含む)を対象に、既に年金を受給している約3000万人のデータと照合し、本人に確認を求めるなどの対応に全力を挙げる考えを示した。
 現行法では時効となる5年超の過去分の支給漏れ年金について、福島氏が「保険料の納付に応じて年金給付が確実に行われるという国民の信頼にこたえる必要がある」と強調し、国が救済できる特別立法を与党として検討していることを表明、政府の見解を求めた。
 これに対し、安倍首相は「年金記録が訂正され給付額が増額されたのに、一部が時効で消滅する事態を招かないようにすることが必要だ」と指摘。「時効消滅したすべての部分を回復し救済するための特別立法を政府と与党が一体で実現に努力していきたい」と述べた。
 また福島氏は、年金記録の調査の中で、納付期間がわずかに足らずに受給権が得られないケースも出てくることが想定されるとし、保険料を一定期間さかのぼって追納できる「事後納付制度(の創設)を提案したい」と述べた。
 年金記録問題の原因について福島氏は、基礎年金番号の導入準備が本格的に行われていた1996年当時、民主党の菅直人代表代行が厚生大臣であったことを指摘。「最初の段階できちっと(混乱が起きないよう)仕組みをつくっていなかった点に最大の問題がある。菅氏にも責任があり、十分配慮していなかったと言われても仕方がない」と述べた。
参考:年金記録対策パッケージ(社会保険庁資料PDF版)

 年金記録漏れが5000万件もあり、本来受給できるはずの年金が少なくなったり、もらえなくなったりするのではとの不安が高まっています。自民・公明の政府与党は、こうした不安を払拭し、社会保険庁の改革を進めるために、特別立法を含む抜本的な解決策を安倍総理大臣に求めました。以下、年金記録漏れ問題の経緯と対応策を公明党の福島豊衆院議員(党社会保障制度調査会長)などの話しをもとに整理しました。
なぜ年金録漏れが発生したか
 「年金記録漏れが5000万件ある」などの報道によって、「本来、もらうべき年金が減らされているのではないか」といった不安の声が高まっています。
 年金の納付記録は、1997(平成9)年から、年金の加入者ごとに一つずつ「基礎年金番号」が割り振られ、転職や転居しても記録漏れが起きない仕組みになりました。
参考写真 それ以前の年金制度では、制度が複数に分かれていた上、転職や結婚で姓が変わった時に新しい年金手帳がつくられるなど、加入者は複数の年金番号を持っていました。なかには、1人で10件を超える年金番号を持つケースもありました。基礎年金番号導入時、旧来の年金番号は、本人が申請しないかぎり基礎年金番号に統合されないため、社保庁が旧来の年金番号のまま管理し、その記録が約5000万件残っているということです。
 この5000万件のうち、約2880万件(30万件の生年月日を特定できない方を含む)は既に年金受給世代になっている方で、残り約2000万件が年金受給年齢に達していない方々の記録です。
 この約2000万件の未統合は、事務処理上、60歳の年金裁定(年金の受給権の確定)時には記録が統合されることになるため、大部分の方は「年金受給年齢になった時に基礎年金番号に統合すればよい」と考え、統合の手続きをしていない方々だと思われます。毎年100万人を超える方が順次、年金裁定を行っていますので、その過程で統合が進むとみられています。
 問題となるのは、約2880万件に上る既に年金を受けている世代の方々の未統合の記録です。この中には、死亡した人の記録、年金を受ける資格を満たさない年金記録も多数含まれているのは事実です。しかし、統合されていないことによって受給している年金額が少なくなっているのではないかとか、受給権発生のボーダーライン上の人たちに受給資格が発生するかもしれないのではないかということが指摘されているわけです。
 年金制度において記録管理は極めて重要な課題です。わが国の年金制度は1942(昭和17)年、民間被用者を対象に厚生年金保険制度が誕生し、61(昭和36)年に自営業者などを対象に国民年金制度が発足。85(昭和60)年の改正では全国民共通の基礎年金が導入されました。
 年金制度の加入者記録は、それぞれの制度発足以来、国民年金や厚生年金、共済組合などの制度ごとに管理されてきたため、97年の基礎年金番号の導入前は裁定の際に各年金の記録を統合するのに非常に時間がかかっていたのが実態です。
 そこで、基礎年金番号を導入し、年金記録を一元的に管理する仕組みをスタートさせました。
 基礎年金番号を導入した際に、1億人を超える方々に直接、基礎年金番号を通知するとともに同時に他の制度の加入歴や、他の年金手帳を持っていないかを照会しましたが、回答があった方は900万件にとどまりました。また社保庁自身も自らの記録を調査し、氏名、性別、生年月日が一致するので同一の記録と思われる900万件について改めて照会し、合わせて1800万件の照会がなされ、1150万件について統合が順次進められてきました。
当時の厚生大臣は民主党の菅直人代表代行
だから必要、社会保険庁改革

 基礎年金番号導入直前まで、民主党の菅直人代表代行が厚生相を務めていましたが、当時の発言を見ても年金の未加入対策を進めることに一生懸命で、複数の加入履歴の統合を進める姿勢が弱かったのではないかと思います。年金番号の統合にもっと指導力を発揮していればと残念に思います。
 また今までに社会保険庁の数多くの不祥事が生じましたが、国民の年金記録の取り扱いや窓口での被保険者の相談への対応などについても、同様のさまざまな問題が指摘されています。ガバナンス(統治)が十分働いていない組織運営であったことがこうした問題の一因であると思います。そのためにも今回の新たな組織へと改革することが必要なのです。 
急がれる受給世代2880万件の未統合対応
 公明党が強く要請し、政府はこの約2880万件の社保庁に残っている年金記録と、既に年金を受給されている約3000万人の記録を再調査し、氏名や生年月日、住所などのデータを改めて整理した上で、同一人物の可能性のある方に対し、「記録漏れの可能性がある」という趣旨の通知を行い、社会保険事務所などで確認していただくよう作業を進めます。
 また、保険料を納付したにもかかわらず、社保庁に記録がなく、納付した証明書類がない場合についても、杓子定規に「すべてだめ」ではなく、親切に話を聞き、調査し、証明できるさまざまなものを探すことに努力することにしています。
 領収書や銀行の振り込み記録など何らかの証拠によって、保険料の納付の事実が確認されれば、速やかに記録を訂正し、適切に対応することになっています。
年金統合ミス根絶に有効な「ねんきん定期便」
 このほか公明党の推進によって、年金記録の統合やミス発見にも役立つ「ねんきん定期便」が2008年4月からスタートします。国民年金と厚生年金のすべての被保険者を対象に、保険料の納付実績や年金額の見込みなど、年金に関する個人情報を分かりやすく提供します。この定期便は、07年3月からは35歳になった人に、07年12月からは45歳になった人に対して、前倒しして加入期間の履歴を通知。07年12月から、55歳以上の人には保険料納付実績や年金額の見込みを先行してお知らせすることにしており、早い段階から年金の納付記録について注意喚起していくことは極めて重要な取り組みです。
時効を撤廃して年金記録漏れに対応
 既に年金を受給されている方で、新たな年金記録が確認された場合には年金額が増額されることになります。しかし、この増額分については、5年より前の期間分は、会計法上の規定により時効となって消滅するため、支給されないことになっています。
 本来、納めた保険料に見合った年金給付を受けることができるよう取り扱うことは当然ですが、時効に関しては、国の債権債務にかかわる法律関係の安定性を確保するための共通ルールとして会計法において定められているものです。
 保険料をきちんと納めた方が、それに見合った年金給付が確実に行われという国民の信頼にこたえるため、私たちは与党として、時効のために年金の増額が受けられない方を包括的に救済するため、新たに議員立法で時効を撤廃する会計法の特例措置を設け、時効で消滅した部分の回復措置を講じていくことにしています。