被害金返還の新法成立 振り込め詐欺の口座から
共同通信(2007/12/14日)
 振り込め詐欺などの被害金の返還を円滑に進めるための新法「振り込め詐欺被害回復分配金支払法」が12月14日、参院本会議で可決、成立した。資金返還の手続きが容易になり、被害者の救済が進みそうだ。
 新法では、被害者や警察からの要請などを受け、預金を引き出せないように金融機関が口座を凍結。その後、預金保険機構が口座の失権手続きに入ることを公告。口座の名義人は、60日以内に届け出なければ権利を失い、預保機構は被害者への配分手続きを開始する。直接の振込先だけでなく資金の移動先口座も対象に含める。
 振込先に利用された口座は転売などで関係者の特定が困難なケースがほとんどだが、これまで名義人の承諾なしに返還を実現するには、被害者は自らの負担で訴訟を起こすしかなかった。

参考写真 犯罪被害者に対する支援が、一歩前進しました。振り込め詐欺など銀行口座を悪用した犯罪を対象に、口座に残ったお金を、裁判手続きを経ないで被害者に公平・迅速に返還する仕組みを定めた「振り込め詐欺被害回復分配金支払い法案」が、12月14日参院本会議で成立しました。
 今年(2007年)6月、会期を1カ月余り残した通常国会に自民、公明の与党が議員提案したものの、衆院の委員会事情によってたなざらしにされていました。ところが、11月に入りにわかに民主党が前向きに転じ、11月29日に与党案そっくりの「対案」を提出。協議の上、両案を撤回し全党一致の委員長提案として衆院を通過し、きょう参院で成立しました。
 この法律の成立によって、少なくとも10万を超える口座に滞留している60億円以上が被害者に返還されることが見込まれます。被害額すべてが戻るわけではないが、たとえ一部であっても、返還が進むことの意義は大きいものがあります。来年6月には施行される見込みです。
 いわゆる「オレオレ詐欺」や「架空請求」などの振り込め詐欺やヤミ金融業者はいずれも銀行口座を利用する。警察庁によると、昨年2006年1年間に振り込め詐欺は1万9020件発生し、被害金額は250億円を上回っています。
 他人になりすまして口座を開設したり、犯罪に利用したことが判明した場合には、銀行はその口座を利用停止や強制解約にできますが、そこに残ったお金には、なお口座名義人の権利が残っています。そのため被害者が裁判などに訴えて名義人の権利の消滅と、残金の帰属を確定させない限り、銀行が被害者に返金することができません。また、被害者が複数いれば、残金をどう分配すればよいのか定めたルールもありませんでした。
 そのため、返還されたのは03年4月〜06年3月の3年間で2075件11億6300万円にすぎません(全国銀行協会調べ)。同法には、銀行業界も強い期待を寄せています。ヤミ金対策の強化や本人確認法の施行によって、銀行が凍結した口座は04年以降、年間4万〜5万に上ります。残金の平均額が5万5000円と比較的少額であることも、裁判費用との兼ね合いで返還が進まない理由の一つとされています。
 このため同法は、預金保険機構を活用することによって裁判抜きで口座名義人の権利消滅を確定し、申し出によって被害額に応じて残金から返還する仕組みを整えました。具体的には、銀行の申し出によって口座名義人の権利消滅を機構が公告し、60日以内に処理。さらに30日間、被害者の返還申請を銀行で受け付けます。これには、その口座に振り込んだ記録などがあれば事足り、公告はいずれもインターネットなどで公開されます。
 こうした手続きを経て、90日程度で被害者に返還されることになります。また同法では、被害者が振り込んだ口座から資金を移動した口座も手続きの対象に明記され、返還額は大幅に増えることが期待されます。