参考写真 局地的な集中豪雨による事故や災害、いわゆるゲリラ豪雨が相次いでいます。
 7月28日に北陸・近畿地方を襲った豪雨では、神戸市灘区の都賀川が一気に増水し、河川敷で遊んでいた児童ら5人が濁流にのまれ死亡しました。この時、現場近くの水位は、わずか10分間で1.3メートルも上昇しました。
 石川県金沢市では同日、市街を流れる浅野川が55年ぶりに氾濫し、約2700戸が床上・床下浸水しました。雨は、同じ市内の西念地域では19.5ミリ降っただけで止みましたが、わずか15キロ南東の湯涌温泉付近では1時間に138ミリを記録しています。
 今月(8月)5日の、東京を中心とする集中豪雨の折には、流れ込んだ雨水で下水道管の水位が急激に上昇。豊島区の下水道工事現場で作業員5人が流される痛ましい事故が起きています。
 こうした局地的な豪雨は、日本付近に寒気と湿った暖気が入り込み、大気が不安定になった結果とみられています。都市部の「ヒートアイランド現象」が、積乱雲の発達を加速している可能性も指摘されています。
 非常に狭い範囲で短時間に起こる集中豪雨について、時間や場所を予測することには限界があります。そのなかで、被害を最小限にとどめるには、情報の素早い収集と伝達が不可欠です。
 石川県の河川情報システムは、市街地で浸水が発生する前、湯涌温泉近くの浅野川の水位が堤防の高さを超えているデータを収集していました。水位はホームページでリアルタイムで見られるが、これを住民に広報するシステムがありませんでした。神戸市では市内22河川に監視カメラを設置し、携帯電話を通じて河川状況を知ることができますが、緊急情報を住民に伝える仕組みがありませんでした。気象情報と直結した警報システムなどを早急に整備する必要があります。
 ゲリラ豪雨の予測には「ドップラーレーダー」の配備が有効だとされています。
 防災マップなどの整備も喫緊の課題となっています。茨城県では、10月1日より統合型GISの運用が開始されますが、全市町村を対象として、浸水想定マップや地滑り想定マップなどのハザードマップの公開を急ぐべきです。
 様々な防災情報を各家庭に通報するための防災無線システムや携帯電話への防災情報通報システムの構築が必要となります。
予測不能の「ゲリラ豪雨」 警報は事故の約50分後
朝日新聞(2008/8/6)
 東京都豊島区内の下水道で作業員5人が流された事故。気象庁が東京23区に大雨洪水警報を出したのは、約50分後の5日午後0時33分ごろだった。今回の増水の原因は、いつ、どこで起こるか分からない短時間の局所的な「ゲリラ豪雨」。都市部の気温上昇がもたらすヒートアイランドの影響なども指摘されている。
 同庁の村中明・主任予報官によると、コンピューターを使って行う今の「数値予報」は、縦横100キロ程度の大気の動きを予測している。しかし、豪雨をもたらす積乱雲はせいぜい縦横10キロ程度。「さらに細かく予想すれば、計算に手間取り、予報として使えなくなる」と言う。
 同庁によると、1時間に80ミリ以上の猛烈な雨の年間発生回数は、76〜87年が全国平均で千地点あたり10.3回。それが98〜07年は18.5回になった。豪雨が増えるなか、技術的な予測限界をどう乗り越えるのかが問題だ。
 気象庁は23区の予報について、2010年度をめどに、今の「西部」「東部」より細かく、各区ごとの注意報、警報を出す方針でいる。そのためには、コンピューターで推計する「予報モデル」の改良や、気象ドップラーレーダーのデータ取り込みなどの精度を高めることが必要だ。
 一方、都の下水道工事の安全基準では、「大雨、洪水、暴風警報が発令された場合はすべての工事を中止しなければならない」としている。しかし、今回は警報は出ておらず、都の基準では事故は防げなかったことになる。
 04年10月、東京・赤坂で建設中の下水道に大量の雨水が流れ込み、下水道内で作業していた男性1人が水死した事故を反省に作られた基準だ。
 しかし、今回の事故は、大雨注意報が出てからわずか5分後に起きてしまった。23区の下水道の総延長は約1万6千キロ。都は99年度から老朽化した下水道の改修を進め、昨年度末までに約15キロを終え、現在は13カ所で工事をしている。
 想定を超えた今回の事故で、都は作業員の安全を確保するため、新たな豪雨対策を迫られることになった。
 京都大学防災研究所の戸田圭一教授(都市水害)は「水害の規模や様相が従来と違ってきている。雨の予兆があれば川に近づかない、下水道も作業を早めに切り上げるなど、安全の意識を高めていくべきだ」と語った。