参考写真 茨城県議会の9月議会では、議会傍聴規則の改正問題が話題となり、議論の本質とは大きくかけ離れた「議員の居眠り問題」として様々なマスコミに取り上げられました。
 この問題の経緯と顛末については、「茨城県議会傍聴規則改正問題の経緯と総括」に詳しく取りまとめました。
 10月21日付の朝日新聞MediaTimesに、「地方議会、ブログで混乱 影響、市民に議員に」との記事が掲載されました。これは、茨城県議会の事例のみならず、各地で起こっているブログと地方議会の軋轢について取り扱った大変興味深い記事でした。この記事では、地方議会とブログ記事とのトラブルの事例を5つ紹介しています。
地方議会でブログが問題とされた最近の事例
08年2月:沼津市議会
 2008年2月22日、沼津市議の江本浩二議員が一般質問で、沼津駅周辺の総合整備事業関連として道路特定財源が廃止された場合の事業への影響を質問したことなどが、「発言通告にない」などとして問題にされました。さらに、江本議員が後日、自身のブログに事の経緯を説明した内容が「事実に反する」などとして、重ねて問題になり、最終的に江本議員は発言を取り消し、ブログの記述も削除、訂正し、議会に対して陳謝しました。
参考:江本浩二議員のブログ
08年6月・9月:弘前市議会
 弘前市議会の齊藤爾議員は、懲罰委員会での審議を「不毛な懲罰」などとプログで指摘したところ、2008年6月議会で与党会派に「市議会への侮辱だ」と批判され、問責を受けました。さらに、9月議会では、少数会派の三上直樹議員が議会の様子をブログに報告したことがきっかけで、三上議員と斉藤議員のブログに「年寄り議員のためのなれ合い」「市民の言論を封じ込める」といったコメントが、読者から寄せられました。これらのコメントに対して「議員を侮辱する表現を掲載し続けた」と声があがり、議会は2議員への問責決議案を賛成多数で可決しました。
参考:齊藤爾議員のブログ「斉藤ちかし 意志ある所に道あり:問責決議案」
参考:齊藤爾議員のブログ「斉藤ちかし 意志ある所に道あり:斬新な問責決議」
参考:三上直樹議委員のブログ「議会を変える、弘前が変わる:「心配」して、議事進行自制の「薮蛇」」
2008年9月:東久留米市議会
 ブログへの書き込みなどで名誉を傷つけられたとして、東久留米市議会の桜木善生議員が池田治夫議員に、1100万円の支払いなどを求めた訴訟の判決で、東京地裁は9月16日、慰謝料など220万円を桜木市議に支払い、問題の記述をブログから削るよう池田市議に命じました。判決によると、池田市議は、桜木市議が自宅をわいろとして受け取ったとする内容をブログに掲載するなどした。綿引裁判長は「政治生命に致命傷を与えかねない事実を乏しい根拠に基づいて歪曲し、政治活動に悪影響を及ぼした」と指摘。内容は真実ではないとして名誉棄損を認めました。
2008年9月:茨城県議会
 都内の男性掲載したブログ記事をキッカケに議会の傍聴規則の規制を強化。結果的にブログの掲載も「公益性がある」と判断し、議会や委員会の写真撮影や録音を認める。
参考:「茨城県議会傍聴規則改正問題の経緯と総括」
2008年9月:水戸市議会
 2008年9月「政治倫理条例案」の提出をめぐり、条例案の提出者の玉造順一市議が自らのブログに、別の市議から「こんな議案を出すならケガ人を出す」などと言われたという内容を書き込んだことが、議会で問題とされました。同日、議会代表者会議が6時間にわたり断続的に行われた結果、書き込みを削除することで決着し、条例案は可決されました。
参考:玉造順一議員のブログ

 朝日新聞は、こうした混乱の背景を、ウェブコンサルタントの言葉を借りて「地方議員は国会議員と比べて公人としての認識が薄いのでは」と分析しています。今まで閉ざされていた地方議会の実態が、ブログという道具を使うことによって、一般市民にも明らかになってきました。しかし、このブログでの『議会の可視化』プロセスは、旧来の発想しか持ち得ない議会人には大きな戸惑いとなっています。議会での審議プロセスやその裏側でのやり取りが、活字や写真、動画となって公衆の面前に曝されることは、多分理解できない人が多いのではないでしょうか?
 話題の主となった各議員諸氏のブログをみると、議場に電子手帳を持ち込んで懲罰委員会にかけられたり、一般質問の通告が議会事務局職員によって書き換えを要求されたり、まさに同じ地方議会に身を置く者にとっても驚天動地の現場の実態が明らかになっています。
 地方議会の活性化のために、ブログをはじめとするインターネットは大きな力を発揮してくると思います。
地方議会、ブログで混乱へ影響、市民に議員に
朝日新聞(MediaTimes:2008/10/21)
 だれでも簡単に意見を述べ、情報発信できるインターネットのブログ(日記風サイト)。地方議会がその内容に反応して混乱したり、書き手とトラブルになったりする例が相次いでいる。プログは市民発信型のメディアとも言えるが、議会側には根強い拒否感が漂う。
傍聴や撮影規制の動きも
 茨城県議会では、東京都在住の自営業の男性(27)が運営し、2010年3月開港予定の茨城空港をテーマにしたブログが問題視された。男性が6月定例議会を傍聴して県議や県幹部の言動を論評。本会議で居眠りする自民党県議の写真を掲載し、「無責任ジジイ」などと批判すると、一部県議の間で議会の傍聴を規制する動きが起こった。
 男性が本会議の撮影許可を得ていたものの、委員会の許可申請はしていなかったことが特にやり玉に挙げられ、桜井富夫議長(自民)が9月議会で傍聴規則の改正を決めた。全国の都道府県議会で初めて傍聴希望者に身分証提示を求められるようになったほか、写真撮影や録音は、県政記者クラブ所属の報道関係者と「公益的見地から必要と認められる者」に限定した。
 経緯が報道されると、県議会には数十件の批判メールが殺到。複数の在京テレビ局も取材に駆けつけた。結果的に、桜井議長は身分証提示について「未来永劫に適用されることはないだろう」と明言。きっかけとなったブログの男性も傍聴を許可された。
 男性は茨城空港が格安航空会社対応型空港を目指すことを知って期待を寄せ、4月にブログを始めた。何度も茨城を訪ねて担当者にインタビューし、その内容も掲載してきた。空港に関心をもつ県民や航空業界関係者を中心にアクセスも多く、県庁の担当者も無視できない存在だ。写真掲載について男性は「まじめに議会をやってほしいと思った」と言うが、今回の騒動は「本意でないところに焦点があたってしまった」と語る。
 議会側は規則改正について「無断撮影が問題で、居眠り写真は関係ない」(桜井議長)との立場だ。県議会のホームページも「セキュリティー確保のためで、傍聴制限ではない」と説明する。
 それでも、「議会に不都合な記事や傍聴人を排除するためではないか」との見方は、若手を中心に自民県議の間でさえ根強い。自らもブログをもつ井手義弘県議(公明)も「世界に向けて主張するブロガーもおり、時代は変わってきた」と規制を批判する。
他会派から批判問責決議
 地方議員が自らブログを書き、問題にされる例もある。
 青森県の弘前市議会。少数会派に所属する斉藤爾(ちかし)議員(38)はほかの無所属議員の発言を問題にした委員会の審議を「不毛な懲罰」などとプログで指摘したところ、今年の6月議会で与党会派に「市議会への侮辱だ」と批判され、問責を受けた。
 9月議会では、少数会派の三上直樹議員(43)が議会の様子をブログに報告したことがきっかけで、三上議員と斉藤議員のブログに「年寄り議員のためのなれ合い」「市民の言論を封じ込める」といったコメントが、プログを見た人から寄せられた。これらのコメントに「議員を侮辱する表現を掲載し続けた」と声があがり、議会は2議員への問責決議案を賛成多数で可決した。
 決議案を提案した一人、最大会派の工藤栄弥議員(73)は「ブログを拒むわけではないが、2議員のものは表現がひどい」という。「議会には会派代表者会議で話し合うなどのルールがある。そうした手続きを踏まずにブログに書くのは、特定の市民に向けたパフォーマンスではないか」
 一方、2議員は「自由な意見表明で議会への中傷ではない」などと削除に応じていない。「議会には市民に情報発信することへの拒否感がある」と三上議員は話す。
「公人としての認識薄い」
 なぜ混乱が相次ぐのか。プログによる自由な情報発信が広がっているのに、地方議会が市民の日にさらされることに慣れていない点が背景の一つとみられる。
 全国市民オンブズマン連絡会議は、「議案に対する会派や議員の賛否を公表しているか」「全員協議会の傍聴を認めているか」などについて全国の議会を調べて点数化し、今年8月に公表した。都道府県議会ではトップの長野県でも満点の約半分の15点しかとれなかった。同会議事務局長の新海聡弁護士は「どの議会も大差はない」と指摘する。
 ライブドア元副社長でウェブコンサルタントの伊地知晋一さんは、市民が発信できるメディアが発達し、注目を集めにくかった地方議会にも目を光らせるようになった現状を指摘。「なのに、地方議員は国会議員と比べて公人としての認識が薄いのでは」とみる。一方、新海弁護士はプログの将来の可能性に注目している。「これからはプログでの情報発信が当然という時代になる。ブログが議会を『可視化』するかもしれない」
 伊地知さんは、ブログ側にも注意を呼びかける。「プログでは批判と誹諺中傷の区別が難しく、トラブルになりがち。事実と自分の主張をごちゃまぜにしないなどの書く側の責任もある。相手の発言の引用や表現に気をつけるのもマナー」とアドバイスする。