2月6日、県議会保健福祉常任委員会が開かれ、所管事務の概要説明が行われました。その中で、古田直樹病院事業管理者より、県立病院改革の進捗状況についての報告がなされ、改革4年目に掛ける決意と具体的視点が示されました。
参考写真 茨城県には3つの県立病院があります。19の診療科を有する総合病院として、がん治療、救急医療などをはじめとする高度で専門的な治療を行う県立中央病院(病院長永井秀雄:稼働病床443)。精神医療の基幹病院として精神科救急や児童・思春期医療などの医療を行う県立友部病院(病院長土井永史:286床)。そして、小児専門病院として、重篤・難治性の患者を対象とする県立こども病院(病院長土田昌宏:105床)の3病院です。
 平成17年当時、3つの病院で年間50億円もの一般会計からの繰入金を要し、さらに単年度収支でも赤字を計上していた県立病院の改革の必要性が県議会でも重要視され、「地方公営企業法を全部適用し、新たに病院事業管理者を外部から迎え、徹底的な経営改善に努めていくべきだ」との結論に至りました。平成18年4月、地方公営企業法を全部適用し、県立病院の所管を知事部局(保健福祉部)から分離独立させ、古田病院管理者のもと、独自の人事権や経営権をもつ病院局が設置されました。さらに、平成21年度までの4年間で集中的に改革を進め、その経緯をみて民営化などさらに抜本的な対応を行うことが確認されました。

地方公営企業法全部適用のメリット

◎病院事業管理者が組織、職員定数、給与、契約等について独立した権限を有することから、強力なリーダーシップのもと迅速な経営改善の取り組みが可能となる。
◎経済性を発揮した病院経営を行い、政策医療の実施などを通して地方の公共福祉の向上に貢献できる。

初年度:平成18年度の取組

参考写真 古田病院事業管理者の着任とともに、病院経営の実態把握と問題点の抽出作業が行われました。外部の専門家による中央病院と友部病院のあり方に関する検討会が設置され、具体的な問題点の洗い出しが行われました。一方、民間の監査法人による詳細な経営状況の分析が行われ、同規模公立病院に比べても、人件費等の固定費の割合が高いことが浮彫りになりました。
 県議会では、井手よしひろ県議らが先頭になり、看護師の高額な人件費や院内保育所の経費負担の問題などを取り上げ、固定費の改善から病院改革がスタートすることになりました。
 具体的には、固定経費に占める人件費の圧縮を行うために、看護師並びに一般職員の給与見直しが断行されました。医師を除く病院局職員の給料月額は3%〜7%カットされ、給料月額を基礎として計算される諸手当(時間外勤務手当等)についても、カット後の額を基礎として計算することになりました。さらに、病院に勤務する職員に支給されている給料の調整額を廃止しました。こうした人件費の削減によって、平成20年には約6億5000万円の固定費削減が可能となりました。(参考資料:病院局職員の給与削減の実施について
2年次:平成19年度の取組

 改革2年目は、中央病院に永井病院長、友部病院に土井病院長を迎え、強力なリーダシップのもと救急医療を中心とする新たな取り組みがスタートしました。
 中央病院は、永井病院長の「救急患者は基本的に断らない」という方針もと、新たに片田正一医師を迎え2次救急医療体制の充実を図りました。平成18年度に2493件であった救急患者は、19年度に3344件に達し、20度は11月末で既に2549件に上っています。このままでは、4000件を越えることも予想されています。
 また、友部病院には太刀川医師が迎えられ、永年の懸案であった精神科救急(警察通報の措置入院患者の入院)の24時間態勢が実現しました。
 一方、県立病院としての機能を強化する意味で、中央病院に放射線治療センター、化学療法センター、透析センターの3センターを整備する計画。友部病院の新築整備計画が取りまとめられ、県議会で承認されました。

3年次:平成20年度の取組

参考写真 病院経営における財務体質の改善と診療体制の強化を目指して、合理化・効率化への取り組みが本格化されました。平成19年度から導入を進めていた診療材料費の圧縮や一元的な管理を行う物流管理会計システム(SPD)などの活用により、月度ごとの経営内容を具体的な数値で把握することが出来るようになりました。その上で、電子カルテと管理会計システムを整備し、県立3病院の連携を図るITシステムの構築を図ることが喫緊の課題となっています。
 病院の施設整備に関しては、中央病院に放射線治療センター(リニアック増設、平成21年4月稼働予定)、化学療法センター(6床→20床、平成20年12月稼働)、透析センター(11床→20床、平成20年12月稼働)が完成しました。友部病院の新築計画も、実施設計がまとまり平成21年5月より、具体的な工事が着工される運びとなりました。平成23年4月開院に向けて順調に準備が進んでいます。(写真は、平成20年12月に行われた化学療法センターの開所式の模様)

県立友部病院の新築整備の概要

○整備場所:茨城県笠間市旭町654(現病院敷地内に新築)
○病床数:287床(本体270床、医療観察法病棟17床)
○延べ床面積:16.800m2(本体15,000m2、医療観察法病棟1,800m2)
○事業費:60億1400万円
○完成予定:平成23年4月開院

改革4年次:平成21年度の課題

 改革第一ラウンドの最終年度である21年度は、県立3病院の経営形態を存続させるか否かの結論を出す年でもあります。3年間の改革の進捗状況を見るとき、病院局体制での継続的な病院整備、人材確保、財務体制の強化などが必要だと考えています。
 そのための具体的な課題として以下4点が上げられます。
1)運営資金の安定的な確保:中央病院も友部病院も、この3年間で幾度か資金ショートを引き起こしています。これは、設立以来長きに亘って退職引当金を確保せずに職員の退職金を一般会計から支払ってきた流れが、地方公営企業法の全部適用を決めたことにより病院会計に一定の負担率で退職金の支払い責任が負わされたため、結果として病院の内部留保金がゼロになるまで支払いを行ってきたことが要因です。こうした悪循環を断ち切るためには、退職金負担に関する病院会計と県負担とのルール付けの明確化を行わなくてはなりません。
2)中央病院の救急医療体制整備に一定の方向性を示さなくては行かないと思います。このままでは、中央病院の救急体制は限界に達してしまいます。救急施設の整備、救急担当医師の増員など抜本的な充実策を具体化すべきです。
3)電子カルテシステム、管理会計システム、総務事務システムなど病院の全てのシステムを電子化し、3病院共通のシステムを構築することが、今後の病院経営に当たって必要不可欠なことです。早急な整備促進が望まれています。
4)何よりも優秀な医師、看護師の確保が重要です。中央病院では現在64名の医師を70名に、特に産婦人科系、消化器系、小児科系、放射線科系医師の確保が必要です。また、現状323名の看護師の体制では許可病床数の500床を稼働させることが出来ません。60名程度の増員を図り380人体制を早期に確立する必要があります。友部病院は、精神科救急に十分に対応するためには3名程度の増員が望まれています。子ども病院は、脳神経科、泌尿器科、成形外科などの医師確保が急務となっています。病院管理者を先頭に全力を挙げた人材確保、育成が強く望まれます。

 以下に、吉田病院管理者の平成21年の年頭挨拶を転載します。県立病院がおかれた現状や、今年の課題などが簡潔にまとめられていますので、ご参考にしていただきたいと思います。
「新年を迎えて」
茨城県病院事業管理者 古田 直樹
平成21年のキーワード:信頼と真実に基づき、未来に向けて改革し続ける温もりを持った病院
吉田直樹病院事業管理者(左)と井手よしひろ県議 新年、明けましておめでとうございます。皆さん方は、それぞれに健やかに新春を迎えられたことと思います。
 はじめに、この9連休という長い年末年始の間、県立の三病院がそれぞれに救急診療体制の確保と患者診療に全職員が一丸となって交代しつつ休むことなく懸命な努力を続けたことに対し、病院事業管理者として心より感謝します。
 本年は、われわれ病院局が県立病院改革に着手して4年目を迎えます。いよいよ本年は、県民の皆様の代表である県議会が4年間を通じてわれわれが取り組んできた改革のすべての成果について県民の目線に沿って評価し、県立病院存続の是非を下す重要な年になりました。
 われわれが取り組んできたこれまでの改革の道を振返って見るとき、それは決して平坦な道ではありませんでした。それは、改革への取り組みが進むに連れ、日本中で医師の病院離れが進み、産科医、小児科医それに救急医が不足し、いわゆる「日本の医療の崩壊」とまで言われるような状況に変化してきたことです。一方で大学からの医師派遣がなかなか得られないという状況、それに加え、本県においては極端に医師・看護師などの医療人材が不足し確保がままならない現状において県立三病院長をはじめとするわれわれ全員の必死の努力にも関わらず期待される診療体制の確保がまだ充分に達成されないままに、あっという間に3年が過ぎようとしているからです。しかし、それでも政策医療として最優先課題である救急体制については、三病院ともに必死の努力により県民の皆様の目に映る一定の成果を上げてきています。また、がん医療や循環器医療の充実、精神科医療の充実、高度専門的小児医療の充実、それにスタッフの強化などにより少しずつ診療の現場はその姿勢と共に改善がなされてきています。しかし、友部病院の新築に向けての作業は進められる一方で、まだ、新病院への移行準備はこれからであり、こども病院のさらなる充実、そして中央病院において再開されていない小児科、産科をはじめとする診療科の医師確保をさらに目指さねばならないことを忘れてはなりません。
 その際、あくまでも患者さん側に納得していただける暖かい医療の提供が県立病院としては前提であることは言うまでもありません。これらの実現を目指しつつ、今年は全員で最後まで努力を続けてゆく必要があります。
 また、昨年暮れに一昨年からの念願であった「透析センター」と「化学療法センター」が出来上がりましたことは、関係各位に心から感謝する次第です。
 一方、改革のもう一つの柱である病院経営の健全化について昨年は、業務委託費の見直し、医薬品購入・物品管理体制の見直しなどによる支出の削減、管理会計システムによる月次毎の診療科別医療収入動向の把握し、その分析に基づく医療収益向上のための経営戦略を通じて単年度収支の改善に向けたいろいろな努力を重ねてきました。
 その結果、一定の効果が見られてきたにもかかわらず、その努力に反して中央病院において資金ショートを繰り返すことになったことは残念でなりません。友部病院は、すでに2年前に同じく内部留保金が無くなり資金ショートしてきています。すなわち、両病院とも改革期間中に一度は破産状態になったのです。しかし、その後、退職金の支払いが一般会計から行われるようになり、病院債が殆ど無い友部病院においては経営努力の成果により、これまでの収支改善の成果には目覚しいものがあります。
 これらの資金ショートの理由は、申すまでもなくこれまで長きに亘って引当金を確保せずに職員の退職金を一般会計から支払ってきた流れが、地方公営企業法の全部適用を決めた前後より病院企業会計に一定の負担率で退職金の支払い責任だけが負わされたため、結果として病院の内部留保金がゼロになるまで支払いを余儀なくされてきたことによることは明らかです。そのため、病院運営上は当然のことですがボーナス時期に一時支払いが増える分や病院債の元利支払い分など、病院側の一時的支出が増える分の運転資金が無いために年度途中で資金ショートを起こしたのです。
 このことを直視すると、県立病院の存続を県民の方々が望むのであれば県立病院の健全財政を維持するため、これらの過去に構造的に生み出されてきた債務に対する必要な財源確保のための県の財政出動が不可欠だといわざるを得ないことだと思われます。私は、このことを明確に県議会でも説明してきました。私としては、このような予算において構造改革すべき問題は平成21年度の予算の中で是非ともその多くを改善していただきたく、知事や県の執行部にお願いしているところです。
 われわれに与えられている改革期間においては今年が最後の年であります。県民の皆様のために担わなければならない政策医療である救急医療体制の充実と健全財政を維持のための三病院共通した電子カルテシステムの導入は今後の県立病院の存続にとって最低限不可欠なものだと考えます。
 一方、県の財政事情が極めて厳しい状況にあることを、われわれはしっかり理解する必要があります。県民の皆様がわれわれに求める「公的医療」とは如何なる条件の下で行われるべきか、担うべき政策医療とは何か、ということを今一度考え直し、さらなる合理化・効率化を進めつつ信頼される安心・安全な医療サービスの確保を皆で目指す必要があります。われわれの目指す改革のゴールは、やはり、県民の皆様から期待され、その存続が望まれる県立病院としての役割を果すこと、と考えます。経済不況が深刻化する中で「医療崩壊」や「高齢化社会の中での社会保障の充実」が叫ばれる今日、公的医療体制の充実は県民の誰しもが求めていることだと思います。
 今年は、「信頼と真実に基づき、未来に向けて改革し続ける温もりを持った病院」をキーワードとして掲げて皆さんと共に私も頑張ります。しかし、職員の皆さん、頑張るに当たって、体を壊さぬようにしてください。そして全員が自らに甘えることなく力を合わせて県民の目線に沿った県立病院改革のゴールに向け、全力を出し切って努力して行こうではありませんか。
 最後に、全ての病院局職員の皆さん、県立病院を訪れる全ての患者さん、並びに関係各位の方々のこの一年のご多幸を心よりお祈りし、新年の言葉とします。
平成21年1月