15歳未満の臓器提供を禁じた臓器移植法を改正しようという機運が高まっています。
1997年臓器移植法が成立
参考写真 現行の臓器移植法は1997年に成立した法律です。この法律により、脳死になった人から臓器移植ができるようになり、それまで治療できなかった患者が救えるようになりました。しかし現行法では臓器を提供できる年齢は15歳以上とされており、それ以下の子どもは臓器を提供することはできません。臓器は年齢によって大きさが異なりますから、幼児など体の小さな子どもは臓器移植を受けることができませんでした。そのため、小さな子どもからの臓器提供が認められている海外に渡って臓器移植手術を受けていたのです。
 海外での心臓移植などは莫大な費用がかかります。そのため、移植が必要な子どもを救うための募金が行われたりしていましたが、根本的な解決策は子どもの臓器移植を国内で解禁することでした。しかし、脳死した子どもから臓器提供を受けるためにはどうしたらいいか、親権者からの同意だけでいいのか、本人からも生前に同意をとっておくべきなのか、だとしたら何歳からそのような判断が可能なのか、などさまざまな問題があり、合意には至っていませんでした。
WHOが渡航移植を規制
 そのような経緯がありながら、今回、臓器移植法が改正に向かって大きく転がり出したのは、WHO(世界保健機構)の動向に関連があります。WHOが5月の総会で、国外での渡航移植を原則禁止にする方向で動き出しているのです。一部の発展途上国では海外渡航して臓器移植を受ける子どもを目当てに、自国の子どもの臓器を売買するなどの非人道的な行為が行われており、多くの子どもが犠牲になっている疑いがあります。そのような事態を防ぐため、WHOは海外渡航移植の禁止を強く打ち出してくるようになりました。
 この影響は早くも現れています。最近、日本の男性が、重い心臓病を抱える2歳の長男の心臓移植を米コロンビア大学に依頼したところ拒否されていたことが判明しました。アメリカは臓器売買が行われるような国ではありませんが、それでもWHOの海外渡航移植禁止の動きに、コロンビア大学側が敏感に反応したものではないかという観測が流れています。
改正案は3案、第4の案も浮上
 15歳未満の子どもの臓器移植に道を開く臓器移植法改正案は今国会で通過を目指しますが、改正案は現状では3案あります。
 A案は「年齢制限を撤廃し、本人の意思が不明の場合に家族の同意で提供を認める案」
 B案は「現行基準のまま年齢制限を12歳以上に引き下げる案」
 C案は「脳死判定基準を厳格化する案」です。
 何をもって脳死とするか、臓器提供について子ども本人の同意は必要ないのかなど、深く考慮しなければならないことは多々あるため、この改正案に関しては与野党のほとんどが党議拘束をかけずに議員個人の判断に任せるようです。
 この3案に加えて15歳以上に限定されている年齢制限を撤廃して子供への臓器提供を可能にする一方で、脳死の定義を厳格化する第4案が検討されています。
 そもそも、臓器提供を国内で完結することを目指す立場から、本人の拒否がない限り家族の同意で臓器提供でき、年齢制限もない「A案」が検討の軸でした。これに慎重派から提出されている脳死の定義を厳格化する「C案」の理念を一部組み入れ、脳死判定開始要件を法律に明記することや第三者によるチェック機能を強化することなどを想定して、いずれの案も過半数を取れず、法案自体が共倒れすることを避ける狙いもあります。