4月14日、「国民年金の保険料の納付率が今の水準の65%で推移した場合、現役世代の平均の手取り収入に対する厚生年金の給付水準(所得代替率)は50%を下回る」との報道がありました。
 公明党が中心となって押し進めた「年金100年安心プラン」の骨格ともいえる「給付は現役世代の5割確保」という政府公約は、果たして大丈夫なのか、公明新聞の記事を中心に検証してみたいと思います。
将来の年金、現役収入の50%割れ 納付率現状なら、厚労省
共同通信(2009/4/14)
 公的年金の財政見通しをめぐり、国民年金の保険料納付率が現行水準のまま向上しない場合、将来の厚生年金の給付水準(所得代替率)は政府が約束した「現役世代の収入の50%」を割り込み、49.3%程度に落ち込む、との厚生労働省の試算が14日、明らかになった。
 2007年度の実際の納付率は63.9%だったが、厚労省は今年2月に公表した年金の財政検証で、納付率を80%と設定。そのうえで所得代替率は50.1%を維持できるとしていたが、「現実離れした前提に基づく試算」との批判があらためて強まりそうだ。
 厚労省は同日、民主党の要求に応じ、「納付率が1ポイント変動するごとに所得代替率は0.05〜0.06ポイント変わる」との試算結果を提示。納付率を80%ではなく実績値に近い65%に置き換えると、所得代替率は49.20〜49.35%となる。
 納付率が78%を割り込むと、所得代替率は50%を維持できなくなる計算だ。国民年金の納付率が厚生年金の給付に影響を与えるのは、公的年金ではいずれにも共通の土台となる基礎年金部分があるため。
 厚労省は「社会保険庁が納付率を80%にアップさせる目標を掲げており、妥当な前提だ」としているが、08年度の納付率は昨年12月現在、60.9%で前年同月比1.9ポイント減と悪化。改善に向けた具体的な見通しは立っていない。
 2月の財政検証は、納付率や出生率、経済指標などの見通しを一定の数値に設定した基本ケースでは、所得代替率は09年度の62.3%から徐々に下がるものの、38年度以降50.1%を維持できる−との内容だった。

参考写真 この試算は、国民年金保険料の納付率の変化が将来の厚生年金の給付水準に及ぼす影響を、厚生労働省が機械的に行ったものであり、「今から約30年間、2040年ごろまで、ずっと現在の状況が続けば」という仮定の話であり、年金制度の安定性に直ちに大きな影響を与える話ではありません。
 事実、保険料の納付率が、政府目標の80%でも、現状の65%程度でも、次に財政検証が予定される2014年度の所得代替率の見込みは、ともに60.1%となっています。
 現在の年金制度では、法律の附則に「次の財政検証まで(通常5年後)に所得代替率が50%を下回ると見込まれるときは、給付水準調整の終了その他の措置を講ずるもの」(趣意)と規定している通り、直ちに給付と負担の在り方を見直すこととしているのは“次の5年間”で所得代替率が50%を割り込む場合です。現状の見込みでは5年後も60.1%で、50%を大きく上回っているわけですから、直ちにどうこうする必要はありません。
 また、納付率の前提を“現状の65%程度で推移”とした今回の試算で、最終的な所得代替率の低下は、およそ1ポイント以内です。
 一方で、合計特殊出生率(一人の女性が一生の間に産むと推定される子どもの数)については、07年の推計値は1.25でしたが、実績は1.34で、実績が推計値を上回っています。仮にこちらも同様のペースで改善すれば、所得代替率の上昇は1ポイント強。年金財政への影響という観点からは、納付率よりも出生率の動向の方が大きいのです。
 いずれにしても、年金制度の持続可能性を高めるためには、納付率の向上はもちろん、社会全体で、経済成長による現役世代の賃金上昇や効果的な少子化対策を行うことが重要です。
 納付率については、無年金・低年金を防止する観点から、今後も口座振替の利用やコンビニでの納付を促進するなど、保険料を納めやすい環境の整備に努めます。また、強制徴収での厳正な対処や、納付免除・学生納付特例制度の活用など、負担能力に応じたキメ細かな対策を徹底し、納付率80%の目標達成に向けて最大限努力していく事が重要です。
 さらにもう一つの視点で整理してみたいと思います。国民年金の未納問題は、年金制度全体を俯瞰してみることが不可欠です。上の表は、平成19年度末の公的年金の加入者の状況をまとめたものです。
 さて、ここで国民年金の納付率60%とは、第1号被保険者の納付率が60%ということであって、公的年金全体からみると未納者は5%程度であるということを良く理解しないといけないと思います。
 むしろこうした未納者問題は、将来的な無年金者問題にと繋がり、生活保護世帯の増加などの社会保障全体の問題として議論する必要があることを強調したいと思います。