県議会での質問と新聞報道をめぐる議論が、いま、茨城県の地方紙を賑わしています。
 事の発端はとなったのは、6月11日付の茨城新聞の記事。
国補正予算受け41市町村 小中164校を耐震化 本年度末60%程度に上昇へ
茨城新聞(2009/6/11)
 国の補正予算を受け、県内の公立小中学校で耐震化が加速する見通しだ。県教委の10日までの調査で、本年度中に県内41市町村が公立小中学校の耐震補強工事などを実施する計画で、対象校は164校(298棟)に上る。本県の耐震化率は46.5%(昨年4月1日現在)で全国45位と低迷するが、本年度末には60%程度にまで上昇する見込み。
 県教委によると、本年度、耐震化事業を計画するのは、耐震化がおおむね完了している龍ケ崎市、五霞町、守谷市を除くすべての自治体。当初予算で計画していたのは、24市町村の48校(86棟)だったが、国の補正予算で公立学校耐震化が予算措置されたのを受け、急きょ補正予算を組む自治体が増えた。
 県内の公立小中学校で耐震化が必要とされる学校施設は年度当初で1244棟あり、そのうち、震度6強以上で倒壊する危険性が高い構造耐震指標(Is値)0.3未満は259棟。本年度事業で補強工事を行うのは239棟で、うちIS値0.3未満は53棟。9市町村は本年度初めて耐震補強に着手する。
 今月中旬に公表予定の最新の耐震化率調査(4月1日現在)で、本県は約50%とみられ、工事が計画通り進めば、本年度末までにさらに約10ポイント上昇する見込み。
 国は昨年、地震防災対策特別措置法を一部改正し、Is値0.3未満の補強事業について、国の補助率を2分の1から3分の2にかさ上げした。今回の補正による国庫補助と臨時交付金を活用すると、実質的な地方負担は6%程度で済む。
 ただ、補助のかさ上げ措置は10年度までの時限立法のため、県教委は2011年度以降に予定される補強工事について、前倒しするよう要請する方針。

参考写真 同じ日午後には、県議会一般質問で、鹿行地区の県議が県内の小中学校の校舎の耐震化を取り上げることになっていました。この質問の答弁に当たる内容が、新聞の記事として掲載されたことに、憤慨したその県議は、質問の冒頭で「一生懸命に勉強したのに、事前に新聞に出たため憤慨している。情報管理はどうなっているのか」と教育庁の対応を批判しました。
 この抗議を受けて、鈴木欣一教育長は「記事が出たことを深くおわび致します」などと議場で正式に陳謝しました。
 この時の模様を、翌日の朝日新聞地方版が早速取り上げました。
質問前に新聞に答え 県議会
朝日新聞茨城版(2009/6/12)
 開会中の県議会で11日、一般質問で答えを聞くはずだった内容が当日の新聞記事になったとして、○○○○県議(自民)が担当部局の県教委を批判する一幕があった。
 ○○県議の質問は、県内の公立小中学校の耐震化の進み具合について、教育長に問う内容。質問項目の概要は事前に報道各社に配られていた。11日付の地元紙には、質問への答えに当たる「今年度中に164校が耐震化工事を行う」という記事が載った。
 ○○県議は質問の冒頭、「一生懸命に勉強したのに、事前に新聞に出たため憤慨している。情報管理はどうなっているのか」と批判した。他の県議からも「教育長しっかりしろ」などとヤジが飛び、鈴木欣一教育長は「記事が出たことを深くおわび致します」などと陳謝で応じた。
 だが、批判はお門違いと見る向きもある。県北のある県議は「報道機関がいち早く情報を伝達しようとするのは当たり前。国会であんな批判をしたら笑い物だ。教育長も謝る必要はない」と話した。
(実際の記事では県議の実名が掲載されていましたが、このブログでは伏せ字とさせていただきます)

 さらにこの問題は、場を議会運営委員会に移し、第2幕にエスカレートしました。
 16日の議会運営委員会で、細谷典幸委員長が、「報道の自由を制限しようという趣旨ではない」と断りながらも「一般質問の場を形骸(けいがい)化するばかりでなく、議会軽視ともとれる行為」として、「執行部はこのような行為を今後、厳に慎んでほしい」と県執行部に求めました。
 その模様は17日付の東京新聞が詳しく報道。
県議会答弁 先に新聞に… 『議会軽視ともとれる』 自主規制懸念の声も
東京新聞(2009/6/17)
 「議会軽視ともとれる行為」−。県議会運営委員会が16日開かれ、細谷典幸委員長が11日の本会議一般質問で自民党の県議が答弁を求めていた内容が、当日の地元紙朝刊に掲載されたことを問題視し、情報管理の徹底を県側に要請した。細谷委員長は「報道の自由を制限しようという趣旨ではない」としているが、こうした要請は県の報道対応を後退させかねないとして、県議会の一部からは疑問の声も上がっている。
 細谷委員長が問題視したのは、本年度に実施する小中学校の耐震化に関する記事。県議が事前に質問することを県側に通告しており、これに対する答弁の内容が地元紙に掲載された。このため、議場で答弁者が県議に謝罪する一幕があった。
 細谷委員長は議運委で「一般質問の場を形骸(けいがい)化するばかりでなく、議会軽視ともとれる行為」として、「執行部はこのような行為を今後、厳に慎んでほしい」と要請。議運委後、細谷委員長は「急いで掲載すべき情報は別だが、一般質問の答弁なら一日掲載を待ってもらうなど、県は報道陣とのコミュニケーションを円滑にやってほしいと求めた」と説明した。
 要請について、県の上月良祐総務部長は「取材には協力的であるべきだが、情報提供のタイミングなどは内容によって判断したい」と受け止める。
 一方、要請が県に与える影響を危ぶむ声もある。山中たい子県議(共産)は「答弁の内容が当日載ったのは、自由な取材活動の結果。要請は県が取材対応する際、自主規制を招きかねない」と話している。

 一連の議論には、議会と報道、県と報道機関の関係など考えさせられる問題が多くあります。
 その第一が、いわゆる記者クラブ制度の弊害です。茨城県では県政記者クラブが設置され、県からマスコミへの情報提供は一元的にここから行われています。議運の細谷委員長の「一般質問の答弁なら一日掲載を待ってもらうなど、県は報道陣とのコミュニケーションを円滑にやってほしいと求めた」との発言は、このマスコミと県との癒着とも言われる構造を是とした立場で発せられた発言です。
 県民の利益のためにも、報道関係者はもっと自主的・能動的に取材を重ね、県議などの権力に阿ることなく自由に発言すべきです。
 第2に、議会や議員の一連の対応は、「報道規制」ととられても仕方ない側面があります。もし、質問しようとした趣旨が当日新聞などで報道されたならば、その方された内容をもとに、質問を一層深めればよいことです。例えば、今回新聞が耐震化率などの現状を掲載したのであれば、その事実をもとに、茨城県の耐震化率が低い原因を、執行部に一段と深く尋ねればよいはずです。議会での質問は、事前の通告性が取られていますが、通告内であれば、どのような内容の質問も許されます。マスコミが、事前に報道してくれたことで、議会での質問を一層深めることが出来る。こうしたプラスの波及効果を議員は目指すべきです。
 この一連の騒ぎを見ていても、開かれた県議会を目指す取り組みは、前途多難と言わざるを得ません。