6月17日、麻生首相と鳩山民主党代表による2回目の党首討論が国会で行われました。この中で、鳩山民主党代表の「生活保護費の母子加算に廃止」に関する発言が、気になりましたので、この問題を冷静に整理してみたいと思います。
党首討論における鳩山民主党代表の発言の一部(2009/6/17)
 そういう人たちを救うことが政府の役割じゃないですか。私は一人の命も粗末にしない。まさにそういう意味で申し上げているんです。そのことを、もしお分かりになっているのであれば、なぜですね、生活保護、母子家庭の母子加算、4月にカットしちゃったんですか。200億くらいでしょ。そのくらいのお金でできる話で。
 私はいろんなところから聞きましたよ。小学校に入りたてのお嬢ちゃん、お母さんが生活保護、母子家庭、2万円切られてしまった。そこで「もう私は高校に行けないのね」。その話、聞いたら涙が出ましたよ。「高校に行けないのね。勉強したいのに」。高校に行っている男の子3人の兄弟のトップが高校1年生。彼も母子家庭。その方も修学旅行、行きたい。でも「ぼく修学旅行、行かなくていいよ」とお母さんに言ったそうです。修学旅行に行きたくても行けない、高校行きたくても行けない。そういう人がたくさん今いるんです。これが日本の現実なんです。
 民主党などは“母子加算復活法案”を国会に提出しています。これは、生活保護世帯の母子加算(月2万3000円程度)が4月で廃止になったことで、約10万世帯(子ども約18万人)に高校進学や修学旅行の断念など深刻な影響が出ているとし、当面、母子加算を復活させるという内容です。
参考写真 しかし、母子家庭が抱える課題は、単にお金を配れば解決するということではなく、母子家庭の自立に向けて、きめ細かなニーズに応える支援が大事です。
 母子加算は1949(昭和24)年、子どもを持つ母子家庭を対象に追加的な栄養が必要との理由から創設されました。以後、ひとり親に生活費の上乗せとして支給され、生活保護の基準は引き上げを重ねてきました。
 しかし、2004年に母子加算について検討したところ、食費や被服費、光熱費などの支給額が、生活保護を受けていない一般の母子家庭の平均的な消費水準を上回ることが分かりました。
参考写真 そこで、一律の機械的な給付を廃止する一方、母子家庭の多様な課題に適切に応えるとともに、生活保護の真の目的である自立支援という原点に立ち返る観点から、(1)就労援助(2)教育支援――の給付に転換しました。
 母子加算の見直しにより、現在の母子家庭の生活保護費は、茨城県の水戸市の例で、(1)45歳の母親と16歳の高校生、14歳の中学生の子供を持つ、母子3人世帯の生活保護費は216,500円が支給されています。
 ほかに(1)医療費はすべて公費で無料(2)非課税で社会保険料は免除(3)保育園の保育料は無料(4)学校の給食費やワークブック代も支給――など手厚い支援が行われています。
 民主党は同復活法案提出について、高校進学と修学旅行の断念を理由に挙げています。
 しかし、05年度からの母子加算の段階的廃止を踏まえ、高校生については、05年度から高校での学習に要する費用を支給する高等学校等就学費を創設し、1世帯当たり月額1万5000円程度が支給されています。同就学費により、入学時には入学金(実費)、学生服、カバンなど入学準備のための費用(6万1400円以内)も支給されます。
 一方、母親については、07年度から就労支援のため、ひとり親世帯就労促進費を創設しました。母親が就労している場合、月額3万円以上の収入なら1万円を支給、3万円未満、または職業訓練を受けている場合では、月額5000円が支給されます。
 さらに、09年度補正予算では、家庭内学習やクラブ活動の費用を賄うための学習支援費を創設(小学生・2560円、中学生・4330円、高校生・5010円)しました。
 高校生を持つ世帯については、こうした額を合計すると母子加算2万3000円を上回ります。従って、民主党の言うように母子加算の廃止で、高校進学や修学旅行の断念など深刻な影響が出ている、といった指摘は当たらないと考えます。
 母子家庭の中には病気や障がいがあるため働きたくても働けない世帯もあります。この場合は、障害者加算(東京などでは月額2万6850円)や医療扶助などの支援策などが用意されています。
 こうしたさまざまな施策に加えて、09年度補正予算では、ひとり親家庭への支援強化のため、「安心こども基金」を創設(500億円)しました。
 主な支援策としては、看護師や保育士など経済的自立に効果的な資格(例・3年間の看護師養成コース)の取得を支援する「高等技能訓練促進費」(11年度まで)が、月額10万3000円から14万1000円に拡充。支給対象期間も修業期間の2分の1から全期間に拡大されます。
 また、子育てなどのため就業が困難な母親に対して、地元経済界などと連携して在宅就業を積極的に支援しようとする地方自治体の事業に対し、助成を行います。
 生活保護に陥っている方にとって、その額が1円でも減らされることはまさに大変な問題です。しかし、それは、生活の再建への動機付けにつながらなければなりません。生活ほどを申請せずとも、必死になって生活しているひとが、数多くいることも忘れてはいけないからです。感情的な議論におぼれるのではなく、冷静に生活保護のあり方を考える必要があります。