問責決議可決 民主党は貨物法案を葬るのか
読売新聞(2009/7/15社説)
 野党4党が衆院に提出した内閣不信任決議案は否決されたものの、麻生首相問責決議案は参院で可決された。
 野党は、自らが問責した首相の下では国会審議に応じられないとして、衆参両院で全面的な審議拒否に入った。
 このままの状況が続けば、21日にも予定される衆院解散で、北朝鮮貨物検査特別措置法案など政府提出の17法案は廃案になる。児童ポルノ禁止法改正案のように、与党と民主党が法案修正で合意目前だった議員立法も同様だ。
 民主党は、貨物検査法案をこのまま廃案にしてよいと思っているのだろうか。法案が成立しないと、北朝鮮に出入りする船舶への貨物検査や禁輸品の押収を、海上保安庁や税関が実施できない状態が続くことになる。
 これらの措置は、北朝鮮に対する国連安全保障理事会の制裁決議に基づくものだ。
 民主党の鳩山代表は記者会見で、法案の早期成立を是認する意向を示していた。民主党が掲げる国連中心主義にも合致する。法案に賛成するのが筋だろう。
 民主党内には、法案が海上自衛隊の派遣も可能にしているため、旧社会党系議員を中心に、消極的な意見がある。法案への賛成は、衆院選を前にして、社民党との選挙協力に悪影響が出ることを懸念したとの見方もある。
 国内法の不備を放置するツケが近い将来、民主党に回ってこないとも限らない。
 衆院選から数週間後の9月後半にニューヨークで国連総会、ピッツバーグで世界20か国・地域(G20)金融サミットが開かれる。
 日本の首相も出席し、その場でオバマ大統領との日米首脳会談や胡錦濤国家主席との日中首脳会談が行われる可能性も高い。
 中国はじめ各国の首脳に対し、制裁決議の厳格な履行を促し、北朝鮮に核廃棄を迫る国際包囲網の強化を訴える絶好の機会だ。
 衆院選で民主党が勝利し、政権交代が実現すれば、「鳩山首相」の外交デビューとなる。その時、貨物検査法案が成立していなければ、「鳩山首相」の訴えは、まったく迫力を欠くものとなろう。民主党はそれでもよいのか。
 審議拒否の理由について、与党は、鳩山代表の個人献金偽装問題を国会で追及されたくないからだと批判している。
 与党の批判の当否はともかく、民主党はやはり、北朝鮮貨物検査法案の今国会での成立に協力すべきであろう。

北朝鮮貨物検査法廃案はひとえに民主党の責任
参考写真 7月14日、北朝鮮関連船舶への貨物検査を可能にする北朝鮮特定貨物検査特別措置法案が、衆院本会議に緊急上程され、自民、公明の与党両党などの賛成で可決、参院に送付されました。
 民主、共産、社民、国民新などの野党各党は採決をボイコットし、欠席するという愚挙に出ました。
 北朝鮮特定貨物検査特別措置法案は、北朝鮮にかかわる武器関連物資の輸出入を禁じた国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁決議を履行するため国内法を整備するもの。北朝鮮の核実験などで生じた「国際社会の平和と安全に対する脅威」を取り除くことが目的です。
 検査は、禁輸品を積んでいると認めるに足りる「相当な理由」がある場合、洋上では海上保安庁、空港・港湾では税関が実施。禁輸品を確認したときは提出を命じ保管する、としています。
 海保だけで対応できない「特別の事情がある場合」には、自衛隊が自衛隊法第82条(海上警備行動)に基づき支援します。
 本会議に先立ち、同法案は衆院海賊対処・テロ防止特別委員会で採決され、野党が欠席する中、与党の賛成により可決されました。
 締めくくり総括質疑で、公明党の佐藤茂樹氏は、審議を放棄した民主党について「外交安全保障政策がバラバラなので、今回の法案の賛否を明らかにすることから逃げた。全く無責任な姿勢だ」と強く批判。「このような政党に、政権交代を叫ぶ資格、政権担当能力などはない」と糾弾しました。
 また、佐藤氏は、現行法では安保理決議の要請・決定に十分に対応できないことを示し、「本法のような根拠法がなければ、安保理の制裁委員会が禁輸品リストを決めても、日本は安保理決議の要請や決定を執行できない」と指摘し、政府の見解を求めました。これに対して、河村建夫官房長官は、佐藤氏の主張に賛同した上で、貨物検査の実効性を高めるため「特措法は極めて重要であり、一日も早い成立を」と答弁しました。
 同日、参議院では麻生首相の問責決議案が可決され、今後の国会審議には野党は全く応じないという姿勢を見せています。
 北朝鮮特定貨物検査特別措置法案や児童ポルノ規制法など、重要法案はこのままでは廃案になってしまいます。
 これは国民生活に重要な法案を無視し、鳩山代表の故人献金問題を封印しようとする政局優先、選挙優先の選択に他なりません。国民はこうした民主党の本音を見破る、眼力を身につける必要があります。