国交相、八ッ場ダム中止明言 地元、怒りと困惑
毎日新聞(2009/9/18)
◇言語道断/説明責任果たさず
 前原誠司国土交通相が17日未明、八ッ場(やんば)ダム(群馬県)の工事中止を明言したことに対し、事業参加している1都5県からは反発の声が上がった。
 地元・群馬県の大澤正明知事は未明のうちにコメントを発表し、「地元住民の意見、関係市町村、共同事業者の1都5県の意見を聞くことなく、建設を中止としたことは言語道断であり、極めて遺憾。速やかに抗議する」と怒りをあらわにした。ダム湖に水没する地区にある川原湯温泉旅館組合の豊田明美組合長(44)は「中止を明言したのであれば、まず、地元住民の生活再建の案を示していただきたい」と困惑する。
 また、栃木県の福田富一知事は「事業計画を中止する場合は、法律で、流域県の意見聴取が必要になっており、手続きが省かれている」と疑問を表明。千葉県の森田健作知事は会見で「現地を視察して地元の意見を大事にすると言っているので、もう少し注視したい」と述べた。埼玉県の上田清司知事は「一時中止となるかもしれないが、国も地元と落ち着いて議論すれば、結局は継続せざるを得ないのではないか」と語り、東京都の担当者は「ダム建設はムダだというが、その理由の説明責任が果たされているとは思えない」と不満をあらわにした。石原慎太郎知事は国が中止した場合は負担金の返還を請求するとの考えを表明している。
◇反対派は歓迎
 一方、ダム建設事業負担金の支出差し止め訴訟を起こしている「八ッ場ダムをストップさせる群馬の会」の浦野稔代表は「ダム中止を盛り込んだマニフェスト実行へつながる一歩だ」と評価し、「ダム本体工事は中止しても、周辺の道路、鉄道など関連事業は生活再建を目指す地元住民の意見もよく聞き、無駄なもの、必要なものを選別して、中止、継続を決めてほしい」と冷静な判断を求めた。

参考写真 9月17日、前原誠司国土交通相は、八ッ場ダムの工事中止を明言しました。
 たしかに民主党はこの夏の総選挙で大勝し、そのマニフェストが信任されてことは認めざるを得ません。しかし、実際の事業に執行については、関係者の同意と理解を得ることが不可欠です。
 さらに、ダム事業のような大規模事業の中止を行う場合は、その流域地方自治体の意見を聞くことは法律で義務づけられている最低限の行為です。群馬県の大澤正明知事が、「地元住民の意見、関係市町村、共同事業者の1都5県の意見を聞くことなく、建設を中止としたことは言語道断であり、極めて遺憾。速やかに抗議する」と発言したことは、地方政府の長として至極当然なことです。
 茨城県の橋本昌知事も、17日「中止の判断に至った理由、代替案等について何らの説明もないことは極めて遺憾」などとするコメントを発表しました。茨城県は広域水道の事業で、八ッ場ダムの暫定水利権を活用して県南・県西地域の一部に給水しています。中止になった場合、この水をどのように確保するのか、民主党政権からは何の説明もありません。茨城県は治水分91億円、利水分101億円の計192億円を財政負担しています。中止の場合は、当然192億円は茨城県民に返還されるべきです。
 衆院選の民主党の大勝は、その後の国政を自由に行って良いという「全権委任」ではありません。一つ筆の事業に関しては、国民・関係する住民への説明と納得が必要です。
八ツ場ダム中止表明 橋本知事「理由示せ」
茨城新聞(2009/09/18)
県負担192億円 国に返還要求も
 前原誠司国交相が八ツ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)の建設中止を明言したのを受け、橋本昌知事は17日、「中止の判断に至った理由、代替案等について何らの説明もないことは極めて遺憾」などとするコメントを発表した。県は広域水道の事業で、同ダムの暫定水利権を活用して県南・県西地域の一部に給水している。県は、国に負担金の返還を求めることも視野に、今後、関係自治体と協調する構えだ。
 橋本知事は、前原国交相の発言に対し、「今後、関係1都4県と連携、協調して対応したい。もし中止になれば、国に対し負担金の全額返還を求めていく」とコメント。
 また、取材に対し「勝手にやめたでは済まされない。まず中止の理由を聞かなければならない」と述べた。さらに、一方的な中止の場合、負担金の返還について法的手段を取ることにも含みを持たせた。
 同ダムは総事業費4600億円のうち昨年度末までに事業費ベースで約7割を執行。県は治水91億円、利水101億円の計192億円を負担した。事業には本県ほか栃木(治水のみ)、埼玉、群馬、千葉、東京の1都5県が参画している。
 負担金返還については、特定多目的ダム法に利水の負担金の還付規定があるものの、治水の負担金については規定がない。現状では、同ダム中止による関係自治体の負担金の扱いは、まったく不透明な状況という。
 県は、同ダムの暫定水利権(毎秒約0.5トン)などで利根川から取水し、県南・県西地域の10市町に給水。給水人口は約50万人(計画ベース)で、今後も水需要の増加が見込まれるとしている。県は同ダム完成による安定した水利権の必要性を強調している。
 前原国交相の建設中止表明を受けて、群馬県の大沢正明知事も同日、「事業の目的と必要性、地元住民や関係市町村の意見を聞くことなく建設を中止としたことは言語道断で極めて遺憾」と批判した上で、「国と地方の協議の場を早急に設置するよう強く求める」とのコメントを出した。
 地元の長野原町議会は同日、「国の政策として推し進めてきたことを今更中止など到底受け入れられない」などと建設継続を求める意見書を可決し、鳩山由紀夫首相らに提出する予定だ。
 また、千葉県の森田健作知事は同日の会見で、建設推進の立場から、前原国交相に早期に現地を視察するよう求めた上で、「それでも中止なら、少なくとも県が出したお金は返してもらうのが筋だ」と述べた。埼玉県の上田清司知事は「ルール無視だ。中止はあってはならないこと」と反発している。