先のブログ「子ども手当導入で“住民税”も増税に!?」で触れたとおり、政府は今月20日、子ども手当創設に伴う扶養控除と配偶者控除の廃止について、住民税も廃止対象に含めて検討することを明らかにしました。従来は所得税のみの控除廃止を検討してきたが、政府税制調査会後の会見で小川淳也総務政務官が「住民税だけの控除を残すのは徴税技術上、難しい」と発言したものです。
 所得税や住民税には、手取の給与から一定額を差し引いて(控除)して税金を計算する仕組みがあります。これを所得控除と言います。所得控除は、収入以外の要因で発生する税負担能力の違いを反映させるために設けられています。例えば、収入金額が同一の家計の場合でも、より多くの扶養家族がいる場合には、支出も増大します。このような家計に対して、税負担を軽減し、税収を公平化するために設けられている措置が所得控除です。
 民主党は衆院選のマニフェストで、子ども手当ての財源などに充てるために、配偶者控除と扶養控除を国税である所得税に限って廃止するとしていました。しかし、所得税と住民税は一体的に徴税されているために、所得税の控除を廃止しておいて、住民税の控除を残すことは事務手続き上非常に困難です。そこで、20日の小川総務政務官の「住民税だけの控除を残すのは徴税技術上困難」との発言が飛び出してきたわけです。
 こうした増税路線は、民主党の政権運営を見るとある程度は予測されてはいたものの、具体的な議論になってくるのが余りに早く、驚きを禁じ得ません。
 そこで、税制度に詳しい方に相談しながら、次のような条件で、所得税や住民税の配偶者控除、扶養控除、特定扶養控除が廃止された場合、どの程度増税になるか試算を改めて行いました。

 試算の条件は、(1)夫と妻、子2人の4人世帯、(2)家族構成は、夫:給与所得者、妻:給与収入103万円以内(配偶者控除対象)、子A:16歳〜22歳(特定扶養控除対象)、子B:16歳未満(一般の扶養控除対象)、(3)扶養控除廃止は民主党マニフェストに基づき、一般の扶養控除のみを廃止(特定扶養控除は存続)するものとした、(4)社会保険料控除は、給与収入×10%としました。
特定扶養控除は本当に守られるのか?
 その上、実はもう一つ、悪い予感がしています。それは特定扶養控除の廃止です。特定扶養控除とは、納税者が16歳以上23歳未満の子どもを持つ場合に適用される控除です。控除額は所得税で年63万円、住民税で年45万円。一般の扶養控除(所得税38万円、住民税33万円)よりも大きい控除となっています。高校や大学などの教育費に大きな出費がかかるために、税制面での支援を行うために設けられたのが特別扶養控除です。しかし、民主党は高等学校の無料化などを提案しています。扶養控除を無くすのに、特定扶養控除だけ残るのも税体系上バランスが悪いような気がします。そこで、子ども手当てや高等学校の無料化を行った後、配偶者控除、扶養控除+特定扶養控除の廃止を再来年からの税制改正で断行するのではと、ひとり危惧をしています。

増税論が一人歩き、民主党政権は何か狂っていないか?
(2009/10/28更新)
 10月24日の記事で、増税の最悪のシナリオとして「特定扶養控除」のハイについて触れましたが、その心配がたった3日間で現実のものとなりました。27日の政府税調会議で、財務省の古本伸一郎政務官は、「高校の授業料無償化を(養育のための)手当として整理できたら、特定扶養控除をまったく手を付けずに残していいのか、議論したい」と、特定扶養控除見直しについて言及しました。子ども手当てについても、高校無料化についても、その全体像が示されていない中で、増税の議論が一人歩きするのはゆゆしき事態です。
特定扶養控除 縮小も 政府税調検討
東京新聞(2009年10月28日)
 政府税制調査会は二十七日、高校生や大学生のいる家庭を対象とした所得税の「特定扶養控除」について控除額(六十三万円)の縮小を検討する方針を固めた。政府がもう一方で進める高校授業料の無償化政策が実現した場合、教育費の負担軽減という同じ政策目的を持つ同控除は見直す必要があると判断した。見直し内容によっては、負担が増える家庭が出る可能性がある。
 同控除についてはマニフェストで言及していないが、別の民主党の政策集で見直しの対象外と表明していた。同様に、税調は住民税の配偶者控除と扶養控除も見直す方針を明らかにしており、選挙前の方針から徐々に軌道修正を図っている。
 この日の税調で、財務省の古本伸一郎政務官が「高校の授業料無償化を(養育のための)手当として整理できたら、特定扶養控除をまったく手を付けずに残していいのか、議論したい」と問題提起した。特定扶養控除は、教育費がかさむ十六歳から二十二歳までの子どもがいる家庭を支援するため、所得から年間六十三万円を差し引く仕組み。十五歳までの子どもや高齢者のいる家庭を支援する「一般扶養控除」の三十八万円に比べ、額が大きい。特定扶養控除は二〇〇九年度に全国で五千億円の負担軽減につながる見込み。
 今後は、一〇年度に予定されている高校の授業料無償化と整合性がとれるように、特定扶養控除を大学生に相当する年代に縮小したり、一般扶養控除の三十八万円分だけ減額するなど、制度の縮小が議題になりそうだ。
 一方、この日の税調では、サラリーマンが収入から「経費」として差し引く「給与所得控除」に上限を設定する方針も確認。峰崎直樹財務副大臣は「来年度にも実現したい項目の一つだ」と表明。現在は、給与所得が高額なほど控除額が際限なく拡大していくように設計されているため、数千万円以上の給与収入がある人は適用を制限する方針だ。