参考写真 去る11月11日の行政刷新会議の「事業仕分け」で、医療用漢方製剤(漢方エキス製剤・煎じ薬)を健康保険から除外する、という案が出されました。
 現在、医師の7割以上が漢方薬を使用していて、国民の健康に寄与しています。また、全国の医薬部・医科大学でも医学教育の中に漢方教育が取り入れられ、日本東洋医学会で専門医教育も行われ専門家育成も進んでいます。
 漢方製剤のトップメーカー・ツムラの芳井順一社長は、12日の中間決算説明会で、この漢方薬等の市販品類似薬を保険適用外とする結論に関し、「漢方医学の現状を知らない人たちの議論。なぜこういうことになるのか分からない」と強く反発。民主党のマニフェストで、漢方医学を取り上げている矛盾を指摘し、「明らかにマニフェストと違う方針であり、漢方医学を知らない人だけの議論で、保険適用外の話が進められるはずがない」と一蹴しました。
 民主党の医療政策を取りまとめた「崖っぷち日本の医療、必ず救う!(民主党医療政策の考え方)」の中には、以下のような記述があります。
●統合医療の確立ならびに推進
 漢方、健康補助食品やハーブ療法、食餌療法、あんま・マッサージ・指圧、鍼灸、柔道整復、音楽療法といった相補・代替医療について、予防の観点から、統合医療として科学的根拠を確立します。アジアの東玄関という地理的要件を活かし、日本の特色ある医療を推進するため、専門的な医療従事者の養成を図るとともに、調査・研究の機関の設置を検討します。

 明らかに民主党の従来の主張と異なる事業仕分けの結論に、この事業仕分け自体がテレビのワイドショーと同じような、単なる国民へのパフォーマンスであることが理解できます。

耳を疑った「漢方除外」 臨床医の8割処方 現状把握せず
産経新聞(2009/11/29)
□ジャーナリスト、国際医療福祉大学大学院教授・黒岩祐治
 政府の行政刷新会議の事業仕分け作業で漢方薬が健康保険の適用から外されたと聞き、わが耳を疑った。今や、臨床医の8割近くが漢方薬を処方しており、もはや普通の薬となっている。にもかかわらず、漢方薬だけを取り出して除外するというのは、いったいなにを根拠にした発想なのだろうか?
 漢方薬は生薬、すなわち天然素材をベースにしていて、西洋医学の薬とは氏素性が違うことは事実である。しかし、漢方薬にはいくつかの誤解がある。「副作用がない」「即効性がない」などというのは間違った情報である。
≪父の肝臓がん劇的回復≫
 現に私の父は末期の肝臓がんであったが、漢方抗がん剤を処方されたことにより、劇的に回復し、がんを完治させることに成功した。そういう意味からしても、病院で処方される漢方薬は普通の医薬品であって、他の薬と区別することに意味はない。
 むしろ今、漢方をもっと普及させていこうというのが、医学界に起きている新しい流れである。中国の漢方薬に比べると、日本の病院で使用されているものはごくわずかだ。安全性、有効性が実証されたものに限られている。それをもっと増やしていき、本格的な漢方治療を西洋医学の中に組み込み、融合させていこうというのである。それは誰あろう、民主党のマニフェストの中に書かれた内容なのである。
 「統合医療の確立ならびに推進」という項目だてまでして、最初に書かれているのが「漢方」である。長妻昭厚生労働大臣は、確か胸にマニフェストを常時携帯されているはずではなかったか。事業仕分け作業の中で、全く逆の結果が出てしまったことをどう見るのだろうか?
 漢方薬を健康保険適用から外すというのは、明らかに財務省の思惑である。仕分け作業の中では「市販品類似薬を保険対象外」とされていて、漢方薬という言葉は出てこない。しかし、財務省主計局が提出した論点ペーパーには「湿布薬・うがい薬・漢方薬などは薬局で市販されており、医師が処方する必要性が乏しい」とされていて、漢方薬もターゲットになっていることは間違いない。
≪マニフェストと矛盾≫
 財務省が漢方薬の今日的意味を把握していないことは明らかである。医師が通常の医薬品として、漢方薬を処方しているという現状を全く把握していない。
 しかし、だからこそ、政治主導の真価の発揮しどころである。幸い、仕分けの結論にも「どの範囲を保険適用外とするかは今後も十分な議論が必要」とされているから、意思表示さえしっかり行えば問題はない。マニフェストにもうたっているのであるから、長妻大臣は臆(おく)することなく、堂々と漢方薬の保険適用除外には反対の姿勢を表明するべきである。
 この仕分け作業は、実は財務省のシナリオ通りに進んでいるのではないかという疑念の声が出ている。その疑念を払拭(ふっしょく)できるかどうかは、この問題への対応にかかっているといえるだろう。(寄稿)

漢方薬保険外に4万人以上の反対署名 厚労省に提出へ
産経新聞(2009/11/29)
 政府の行政刷新会議の事業仕分けで医師が処方する医療用漢方薬を「公的医療保険の適用外」とする方向で結論を出したことについて日本東洋医学会(寺沢捷年(かつとし)会長)が4万人以上の反対署名を厚生労働省に提出することが28日、分かった。保険外になれば医療用漢方薬を病院で処方することができなくなるためで、製薬業界も「漢方医学の現状を知らない人の議論だ」と反発を強めている。
 「公的医療保険の対象として湿布薬、うがい薬、漢方薬など薬局で市販されるものまで含めるべきか。見直すべきではないか」
 今月11日の行政刷新会議に提出された、財務省の論点ペーパーに沿って行われた議論の結果、市販類似薬は「保険外」の判定となった。市販類似薬の範囲については「議論が必要」と結論を先送りしたものの、漢方薬が「保険外」となれば医師の処方はできなくなる。保険診療と保険外診療を併用する混合診療は、原則禁止だからだ。
 判定について、日本東洋医学会の寺沢会長は「重要な治療手段となった漢方薬を医師の手からもぎ取る暴挙。民主党のマニフェスト(政権公約)には『漢方を推進する』と書かれており、国民に対する裏切り行為だ」と指摘。同学会が24日からホームページ上で反対署名を募ったところ、27日までに4万人の署名が集まった。30日にいったん締め切り、12月1日に厚労省に提出する予定だ。製薬会社、ツムラの芳井順一社長も12日の決算説明会で「漢方医学の現状を知らない人の議論だ」と批判した。
 日本漢方生薬製剤協会が平成20年11月に行った調査によると、医師の約8割が「西洋薬で効果のなかった症例で漢方薬が有効」などの理由で、漢方薬を処方した経験があるという。