1月16日開催された民主党大会において、小沢一郎幹事長は挨拶に立ち、検察との対決姿勢を露わにしました。この小沢代表の対応と鳩山首相の言動、さらに民主党自体の対応には、マスコミや国民から不審の声が寄せられています。
 17日付の新聞各紙の論調を、小沢幹事長の説明不足、鳩山首相の認識の甘さ、民主党自体の対応の異様さという3点から整理してみました。
【小沢幹事長の説明不足】
  • しかも、小沢氏から納得できる説明が尽くされたとは到底言い難い。4億円という個人資産はどうやって形成されたのか。不正な資金でないなら、なぜ偽装工作とも疑われるような複雑な会計処理をしたのか。ダム工事の下請け受注に絡んで、中堅ゼネコンの元幹部が供述しているという5千万円のヤミ献金疑惑についても、納得できる説明はなかった。小沢氏は改めて記者会見を開き、もっと具体的に説明すべきだ。(朝日新聞)
  • しかし、問題の土地購入の原資など事実関係については依然として不明なままだ。小沢氏は検察批判の前に、具体的な根拠を示して国民に説明を尽くすべきだ。また、潔白だと言うなら、東京地検の聴取にも堂々と応じればよい。(読売新聞)
  • 事件をめぐる小沢氏のこれまでの説明は説得力に乏しく不十分であり、このまま幹事長職にとどまろうとしても、国民の理解は得られまい。潔白を主張するのであれば、国会などの場で自ら進んで説明する責任をまずは最低限、果たすべきである。(毎日新聞)
【鳩山首相の認識の甘さ】
  • 鳩山首相は党大会のあいさつで「小沢幹事長を信じている。職務に全力を挙げるよう要請する」と述べた。強制捜査直後には、昨年の総選挙でみそぎが済んだと言わんばかりの発言までして、小沢氏を擁護している。自らの偽装献金事件に続いて、幹事長にかかわる疑惑で所属国会議員の逮捕者まで出したことに対し、首相の認識は甘過ぎる。大会前に会談した小沢氏に対しては、「どうぞ闘ってください」と述べたという。小沢氏におもねったとしか思えない。行政府の長として極めて不適切な発言だ。(読売新聞)
  • 一方で問われるのは、首相の姿勢だ。自身の政治献金虚偽記載問題で元秘書が起訴され、野党からの厳しい追及が予想される身だ。にもかかわらず、十分な党内調査も経ないまま「信じている」とあっさり小沢氏の続投を了承した対応は、安易に過ぎるのではないか。小沢氏に自発的な説明を促すことはもちろん、事態究明について自らが指導力を発揮すべき局面である。(毎日新聞)
  • 鳩山由紀夫首相も小沢氏との会談で「(検察と)どうぞ戦ってください」と理解を示した。行政府のトップである首相が、検察と対決する小沢氏を激励するかのような姿勢はきわめて異常である。(産経新聞)

【民主党の対応の異様さ】
  • そんな小沢氏に、鳩山首相は「信じています。どうぞ戦ってください」と話したという。党大会では、汚職事件の被告となっている鈴木宗男・新党大地代表が来賓としてあいさつし、持論の「国策捜査」批判をぶちあげ、会場から大きな拍手を浴びた。小沢氏が一個人として、一政治家として、検察と「戦う」のは自由だ。だが、首相や党が挙げて応援するかのような一枚岩ぶりは何とも異様だ。(朝日新聞)
  • 民主党内の議論も焦点だ。小沢氏の資金問題に関してはこれまでも党内の動きが鈍く、国民へ説明を求める声すらあまり聞かれなかったことは異常である。党大会でも首相、小沢氏に異を唱える声はほとんど聞かれなかった。実権を掌握する小沢氏の意向をおもんぱかり国会議員が一様に口を閉ざし、それが党の空気を一層、重苦しくする悪循環に陥っているのではないか。どれだけ自浄機能を発揮できるか、政権政党の体質が問われよう。(毎日新聞)
  • 小沢氏とともに党大会で異彩を放ったのは、あっせん収賄罪などで係争中の鈴木宗男・新党大地代表だった。鈴木代表は来賓あいさつで「検察のリークで世論誘導されている」などと指摘し、取り調べの全面可視化の必要性を訴えた。検察批判のたびに会場からは「そうだ」という掛け声が飛んだ。小沢氏の政治資金問題を不問に付したまま、検察批判だけに傾斜するなら、与党として異様な姿である。(日経新聞)
  • 党大会で、小沢氏の続投方針に反対意見が出なかったのもきわめて残念だ。政治責任を不問に付していることは、党が自浄能力を欠くばかりか、政権運営に当たっての健全かつ正常な判断力を失っていることをさらけ出している。渡部恒三元衆院副議長は「国民のために身を引く判断もあるだろう」と述べた。首相も党大会で小沢氏の説明責任に言及したが、形ばかりの感をぬぐえない。事件を受けて小沢氏が幹事長の職務を輿石東参院議員会長に代行させる考えを示しているのも不可解だ。これまで同様、影響力を行使しようという考えのようだが、国民の反発を甘くみているとしかいいようがない。(産経新聞)
  • しかし、肝に銘じてほしいことがある。国民が衆院選で、民主党に託したのは何かということだ。それは、長く続いた自民党政権で疲弊した国民生活の立て直しであり、検察との対決のために多数を与えたわけではない。政権と検察との対決という異例の事態に国民を巻き込むようなことは絶対にあってはならない。(東京新聞)
  • そして、その民主党だが、代表である鳩山氏は小沢氏に幹事長続投を自ら要請したという。しかし、なぜ説明を促そうとしないのか。いや、それ以前に、外部の専門家を入れた調査チームを発足させ、土地購入問題の解明に取り組む気はないのか。いま小沢氏の政治姿勢だけでなく、民主党の自浄能力も厳しく問われている。(茨城新聞)

小沢幹事長続投―首相も党も一丸の異様
朝日新聞社説(2010/1/17))
 土地取引をめぐる政治資金規正法違反の疑いで元秘書の衆院議員ら3人が逮捕された小沢一郎・民主党幹事長が、辞任しないと表明した。鳩山由紀夫首相もこれを了承した。
 一切の説明を避けてきた小沢氏は、きのうの民主党大会でようやく疑惑について公に語った。土地購入に充てた4億円は個人資金を積み立てたもので、不正なお金ではないと述べた。
 さらに検察の捜査手法を批判し、「日本の民主主義は暗澹(あんたん)たるものになってしまう」「断固戦う」と対決姿勢をあらわにした。
 そんな小沢氏に、鳩山首相は「信じています。どうぞ戦ってください」と話したという。党大会では、汚職事件の被告となっている鈴木宗男・新党大地代表が来賓としてあいさつし、持論の「国策捜査」批判をぶちあげ、会場から大きな拍手を浴びた。
 小沢氏が一個人として、一政治家として、検察と「戦う」のは自由だ。だが、首相や党が挙げて応援するかのような一枚岩ぶりは何とも異様だ。
 しかも、小沢氏から納得できる説明が尽くされたとは到底言い難い。
 4億円という個人資産はどうやって形成されたのか。不正な資金でないなら、なぜ偽装工作とも疑われるような複雑な会計処理をしたのか。ダム工事の下請け受注に絡んで、中堅ゼネコンの元幹部が供述しているという5千万円のヤミ献金疑惑についても、納得できる説明はなかった。小沢氏は改めて記者会見を開き、もっと具体的に説明すべきだ。
 首相も党の幹部たちも、疑惑の中身がきちんと解明されないのに、なぜ手放しで小沢氏を支援するのか。
 何より、小沢氏が鳩山政権の最高実力者であるためだろう。政権交代の立役者だ。批判すれば、選挙で不利なことにならないか。安定した政権運営や夏の参院選での勝利には、小沢氏の力が欠かせないという思いもあるにちがいない。
 だが、そうした内向きの論理や思惑を有権者が納得してくれると考えているとすれば、ひどい思い違いではなかろうか。
 国会開会直前というタイミングで現職議員を含む小沢氏の側近3人を逮捕した検察の手法は確かに異例だ。検察当局にも国民への説明責任がある。しかし、首相と政権党が一丸となってその検察と「対決」するかのような構図は、国民の理解をはるかに超える。
 鳩山首相は、この異様さをどう考えているのだろうか。捜査の進展次第で政権が、党が重大な影響を受ける恐れがあるだけではない。事件はあくまで司法の場で決着をつけるべきことである。一方的に肩入れするかのような軽い姿勢は許されない。首相はこのけじめをはっきりさせるべきだ。


小沢幹事長発言 検察批判の前に説明を尽くせ
読売新聞社説(2010/1/17)
 民主党大会で小沢幹事長は、自らの資金管理団体による土地取引疑惑について潔白を強調し、検察当局と全面対決すると表明した。
 しかし、問題の土地購入の原資など事実関係については依然として不明なままだ。
 小沢氏は検察批判の前に、具体的な根拠を示して国民に説明を尽くすべきだ。また、潔白だと言うなら、東京地検の聴取にも堂々と応じればよい。
 地検は、小沢氏の秘書だった石川知裕衆院議員らに続いて、昨年の西松建設事件で逮捕した公設第1秘書を政治資金規正法違反容疑で再び逮捕した。
 小沢氏は党大会で、資金管理団体をめぐる事件について「記載の間違い」「形式的ミス」として、東京地検の捜査手法を厳しく批判した。その上で、「断固としてこのようなやり方について闘っていく決意だ」と述べた。
 自らの進退については、「何も職を辞する必要はない」と幹事長続投を表明した。だが、疑惑を晴らす努力をしない限り、国民の理解は得られまい。
 鳩山首相は党大会のあいさつで「小沢幹事長を信じている。職務に全力を挙げるよう要請する」と述べた。強制捜査直後には、昨年の総選挙でみそぎが済んだと言わんばかりの発言までして、小沢氏を擁護している。
 自らの偽装献金事件に続いて、幹事長にかかわる疑惑で所属国会議員の逮捕者まで出したことに対し、首相の認識は甘過ぎる。
 大会前に会談した小沢氏に対しては、「どうぞ闘ってください」と述べたという。小沢氏におもねったとしか思えない。行政府の長として極めて不適切な発言だ。
 党大会では、政権発足以来、最も困難な状況を迎えながら、国会議員や地方代議員からは、「政治とカネ」をめぐる問題について、批判は出なかったという。
 昨年の西松建設事件では、有識者による第三者委員会を設置し、独自に真相究明に取り組む姿勢を見せた。ところが、今回はそんな動きもまったく出ていない。
 首相と幹事長の政権トップ2人に政治資金にかかわる疑惑が指摘されている重大事を前に、民主党は黙したままでよいのか。
 このままでは、政治とカネの問題で自浄能力を示すことのできない政党とみなされるだろう。
 あすから始まる国会でも、予算審議促進を口実に、疑惑解明に後ろ向きな姿勢を取り続けることは許されない。


社説:小沢民主党幹事長 説明欠く続投は許さぬ
毎日新聞社説(2010/1/17) 
 民主党の小沢一郎幹事長は16日の党大会で政治資金管理団体「陸山会」の土地取引をめぐる事件に関し、幹事長職の続投を表明した。東京地検特捜部が私設秘書だった石川知裕衆院議員らを政治資金規正法違反容疑で逮捕したことに小沢氏は「断固として戦う決意だ」と検察当局との全面対決を宣言するという異例の事態に発展、鳩山内閣の屋台骨が揺らいでいる。
 党の要である小沢氏自身の疑惑が側近議員らの逮捕に発展したことは、さきの衆院選で国民が民主党に与えた信任を揺るがしかねない深刻な状況である。鳩山由紀夫首相は「小沢氏を信じている」と述べ、続投を了承した。このため、事件の推移が首相の政治責任と直結する構図となってきた。
◇首相も責任を共有
 事件をめぐる小沢氏のこれまでの説明は説得力に乏しく不十分であり、このまま幹事長職にとどまろうとしても、国民の理解は得られまい。潔白を主張するのであれば、国会などの場で自ら進んで説明する責任をまずは最低限、果たすべきである。
 もともと次期参院選に向けた決起大会と位置づけられていた党大会は現職議員逮捕の衝撃で、異様なものとなった。小沢氏は検察当局とのあくなき対決姿勢と闘争心をあらわにし、「党大会に合わせたかのように逮捕が行われ、到底、容認できない」とまで言い切った。一方で、首相も早々に小沢氏の続投支持を大会で表明した。政治的に小沢氏と運命を共にする意向を示したにも等しい、重い発言である。
 検察当局との全面対決に政治生命をかけた小沢氏と、次期参院選を控え、小沢氏抜きの政権運営は立ち行かないと判断したとみられる首相が結束を強調した形である。しかし、このまま小沢氏が続投するにはあまりにも多くの疑問が解明されておらず、小沢氏の説明も不足していると言わざるを得ない。
 石川議員らの逮捕容疑は土地取得資金の4億円を報告書に記載しなかったことなどだ。だが、重要なのはその原資が「胆沢(いさわ)ダム」下請け工事受注をめぐるゼネコンからの裏献金ではないか、との疑惑が持たれている点にある。「陸山会」をめぐり、中堅ゼネコン「水谷建設」元幹部が「1億円を小沢氏側に渡した」と供述したとされている。家宅捜索を受けた大手ゼネコン「鹿島」はダム工事の元請けだ。
 小沢氏は16日、記載をしなかったことについて「形式的ミス」としたうえで4億円の原資について「積み立てた個人の資金」と説明、裏献金疑惑を全面否定した。だが、石川議員は意図的な虚偽記載である点は捜査当局に認めているという。仮に「積み立てた」資金とすれば、どのように形成されたかの説明も小沢氏からはされていない。取得経緯をめぐり、多くの疑問がつきまとう。
 それだけに、小沢氏自らが国民が納得できるよう、説明する責任がある。そもそもこれまでも、機会は十分にあったはずだ。あれだけ検察を批判しながら捜査に配慮して説明を拒むこともあるまい。18日召集の通常国会では、むしろ進んで国会で証人喚問にのぞむべきであろう。
◇自ら証人喚問に応じよ
 一方で問われるのは、首相の姿勢だ。自身の政治献金虚偽記載問題で元秘書が起訴され、野党からの厳しい追及が予想される身だ。にもかかわらず、十分な党内調査も経ないまま「信じている」とあっさり小沢氏の続投を了承した対応は、安易に過ぎるのではないか。小沢氏に自発的な説明を促すことはもちろん、事態究明について自らが指導力を発揮すべき局面である。
 民主党内の議論も焦点だ。小沢氏の資金問題に関してはこれまでも党内の動きが鈍く、国民へ説明を求める声すらあまり聞かれなかったことは異常である。党大会でも首相、小沢氏に異を唱える声はほとんど聞かれなかった。実権を掌握する小沢氏の意向をおもんぱかり国会議員が一様に口を閉ざし、それが党の空気を一層、重苦しくする悪循環に陥っているのではないか。どれだけ自浄機能を発揮できるか、政権政党の体質が問われよう。
 党大会で民主党は次期参院選に向け、単独過半数の獲得を目指す活動方針を採択した。同党は自民党の組織票の切り崩しや候補の発掘に全力を注ぎ、各種世論調査で民主党支持率は自民党を大きく上回る。小沢氏は幹事長業務の多くを輿石東参院議員会長に委ねることで、収拾を図ろうとしている。
 だが、このまま正面突破が可能と首相らが考えているのであれば、あまりにも危機感に乏しい。政権交代を実現し、政治の刷新を国民から期待される鳩山内閣がゼネコン絡みの旧態依然の疑惑の渦中にあることを、首相らはより深刻に受け止める必要がある。事件をめぐり通常国会が混乱し予算案などの審議に支障を来すことがあれば、結果的に影響を被るのは国民の生活である。
 同時に、検察当局も捜査に関する小沢氏らの批判にこたえる必要があるのではないか。捜査の節目では一定の説明を国民に対し行うことを、改めて求めたい。


小沢幹事長続投で理解を得られるのか
日本経済新聞社説(2010/1/17)
 民主党は与党になって初の定期党大会を開いた。
 小沢一郎幹事長の資金管理団体の土地購入を巡る政治資金規正法違反(虚偽記載)容疑で、元秘書の石川知裕衆院議員らが逮捕された余韻が冷めやらぬなか、小沢氏の去就が最大の関心事となった。小沢氏は検察当局との対決姿勢を鮮明にし、幹事長を続投する意向を表明した。
 鳩山由紀夫首相(党代表)はあいさつで「小沢幹事長を信じている。臆することなく、自らの潔白を証明し、職務の遂行に全力をあげるよう要請する」と述べた。
 しかし小沢氏は説明責任を果たしているとは言い難く、元秘書らが3人も逮捕された政治責任は免れない。幹事長続投で有権者の理解を得られるのか。首相は政権発足4カ月にして大きな危機に直面した。
 小沢氏は大会で約10分間、所信を述べた。石川議員の逮捕に関しては「大会に合わせたかのように逮捕が行われ、とうてい容認できない。断固として戦っていく決意だ」と、検察の対応を強い口調で批判した。
 焦点の土地購入資金については「積み上げてきた個人のお金。何ら不正なお金は使っていない」と説明するにとどめ、くわしい内容を示さなかった。弁護士を通じ、銀行口座などの情報を検察に提供しているとして、任意の事情聴取に応じる必要はないとの意向をにじませた。
 小沢氏は当面、この問題への対応に力を入れるため、幹事長職を輿石東幹事長職務代行に委ねる意向も示した。選挙の公認権などの実権を維持しつつ、記者会見などを避ける狙いがあるならば、納得できない。
 小沢氏は検察の事情聴取に応じるべきであり、記者会見などでも説明責任を果たすよう重ねて求めたい。
 小沢氏とともに党大会で異彩を放ったのは、あっせん収賄罪などで係争中の鈴木宗男・新党大地代表だった。鈴木代表は来賓あいさつで「検察のリークで世論誘導されている」などと指摘し、取り調べの全面可視化の必要性を訴えた。
 検察批判のたびに会場からは「そうだ」という掛け声が飛んだ。小沢氏の政治資金問題を不問に付したまま、検察批判だけに傾斜するなら、与党として異様な姿である。
 昨年暮れには首相の元公設第1秘書が政治資金規正法違反(虚偽記載)罪で在宅起訴された。民主党は党のナンバー1とナンバー2が「政治とカネ」の不祥事を抱えるという異常事態に陥っている。政治不信を高めぬためにも、党として事実関係の解明に取り組む必要がある。


小沢幹事長 続投は受け入れられない
産経新聞主張(2010/1/17)
 資金管理団体「陸山会」の土地購入事件で側近3人が逮捕された民主党の小沢一郎幹事長が「自分は法令に違反していない」と、幹事長続投の意向を表明した。
 土地取引をめぐる複雑な資金操作に対する小沢氏本人の関与が疑惑の核心だ。会計責任者らの逮捕は、政治的かつ道義的責任が明白であり重大であることを示している。
 それをまったく認めようとせず、開き直る姿勢は受け入れられない。政治的生命を失うと判断したためなのだろうが、情けないとしかいいようがない。
 小沢氏は16日の党大会のあいさつで、「この日に合わせたかのような逮捕が行われた。到底このようなやり方を容認できない」と、検察当局と全面対決する考えを表明した。政権党の幹事長ともあろう人物が自らに嫌疑をかけられたことに対し、検察を真っ向から批判した例はないのではないか。
 鳩山由紀夫首相も小沢氏との会談で「(検察と)どうぞ戦ってください」と理解を示した。行政府のトップである首相が、検察と対決する小沢氏を激励するかのような姿勢はきわめて異常である。
 小沢氏はこの日も「裏献金をもらったり隠したり、ウソの報告は一切していない」と記者団に語った。これに対し、政治資金規正法違反(虚偽記載)容疑で逮捕された石川知裕衆院議員は、土地購入に充てた資金について「わざと記載しなかった」と犯意を認めていることが報じられている。
 これは小沢氏の説明が虚偽であることを示しているのではないか。検察当局は自らの存在をかけて今回の土地疑惑を徹底して解明しなければならない。
 党大会で、小沢氏の続投方針に反対意見が出なかったのもきわめて残念だ。政治責任を不問に付していることは、党が自浄能力を欠くばかりか、政権運営に当たっての健全かつ正常な判断力を失っていることをさらけ出している。
 渡部恒三元衆院副議長は「国民のために身を引く判断もあるだろう」と述べた。首相も党大会で小沢氏の説明責任に言及したが、形ばかりの感をぬぐえない。
 事件を受けて小沢氏が幹事長の職務を輿石東参院議員会長に代行させる考えを示しているのも不可解だ。これまで同様、影響力を行使しようという考えのようだが、国民の反発を甘くみているとしかいいようがない。


小沢氏対決宣言 国民を忘れていないか
東京新聞社説(2010/1/17)
 民主党の小沢一郎幹事長が党大会で、自らの資金管理団体の土地購入をめぐる事件で、検察との対決を宣言した。潔白というなら対決するのも結構だが、何より国民のことを忘れてもらっては困る。
 民主党にとっては昨年の政権交代後、初めて開く党大会だった。
 本来なら達成感や高揚感に満たされるはずだが、大会前日に党所属の石川知裕衆院議員らが逮捕されたことを受け、緊張感が漂う。
 あいさつに立った小沢氏は「大会に合わせたかのように逮捕が行われ、とうてい容認できない。断固として(捜査当局と)戦っていく決意だ」と検察批判を展開した。
 党大会での幹事長発言は通常、党の活動報告や予算・決算、活動方針案の説明であり、検察との対決宣言は極めて異例で、異様だ。
 鳩山由紀夫首相は党大会前、小沢氏に「どうぞ戦ってください」と支持する考えを伝えた、という。
 小沢氏が潔白で、疑惑を解きたいなら、あらゆる機会を通じて、堂々と国民に説明すればいい。
 記者会見の場を設けたり、不当な疑惑を受けたと言うなら、国会の政治倫理審査会に審査を申し出るのが筋だ。
 説明が正当で、十分に納得のいくものなら、国民は小沢氏を支持し、批判の矛先を検察の捜査方法に向けるだろう。
 しかし、肝に銘じてほしいことがある。国民が衆院選で、民主党に託したのは何かということだ。
 それは、長く続いた自民党政権で疲弊した国民生活の立て直しであり、検察との対決のために多数を与えたわけではない。
 政権と検察との対決という異例の事態に国民を巻き込むようなことは絶対にあってはならない。
 自民党など野党側は、小沢氏ら関係者の証人喚問や参考人招致を求める構えを示している。鳩山首相の偽装献金事件も追及材料だ。国会の場で「政治とカネ」の問題の究明を図るのは当然である。
 とはいえ、あすから始まる通常国会の最重要案件は二〇〇九年度第二次補正予算案、一〇年度予算案と、その関連法案だ。
 小沢氏は、自らの疑惑を晴らすためにも、国民生活への影響を回避するためにも、喚問要求などに進んで応じるのも手だろう。
 野党側も、喚問などの実施を審議の条件にするような旧来型の国会戦術はとるべきではない。
 与野党の党利党略で国会が混乱し、国民生活に深刻な影響が出るようなら、本末転倒である。


石川議員ら逮捕 もう沈黙は許されない
茨城新聞論説(2010/01/17)
 小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体「陸山会」による2004年の土地購入をめぐり、東京地検特捜部は政治資金規正法違反容疑で元私設秘書で衆院議員の石川知裕容疑者の逮捕に踏み切った。さらに西松建設違法献金事件で公判中の公設第1秘書と別の元私設秘書の2人も逮捕され、通常国会を目前にした永田町は激震に見舞われた。
 土地購入資金4億円の出し入れを政治資金収支報告書に記載しなかったのは、石川議員が任意聴取で供述したような「単純ミス」ではなく資金調達の経緯を隠すためで、この資金の中にはダム工事の下請け参入で小沢氏の影響力を頼ったとされる水谷建設の裏献金が含まれている疑いが強い。検察はそうみている。
 石川議員に自殺や証拠隠滅の恐れもあり、小沢氏が任意聴取に応じない中で国会日程をにらみながら、裏献金疑惑が絡んだ虚偽記載の悪質性を明らかにするには逮捕が必要と判断したようだ。民主党への打撃は計り知れない。鳩山由紀夫首相は厳しい政権運営を迫られるだろう。小沢氏の幹事長辞任論も出始めた。
 小沢氏は民主党大会で続投を表明。「何ら不正なカネは使っていない」と訴え、土地購入資金について「個人資金」と説明した。だが事件についてそれ以上は触れず検察批判に終始した。これで国民に向け説明したと胸を張られても困る。西松事件以来、何度も政治資金の透明性を強調し訴えた「潔白」は根底から覆されようとしている。もう沈黙は許されない。検察聴取に応じるのはもちろん、あらためて国民への説明に臨み、自らの政治責任も含め一定のけじめをつける時だ。
 捜査の焦点は今後、小沢氏の関与に移る。そこで、聞きたい。陸山会の事務担当だった石川議員は、小沢氏本人から土地購入資金の現金4億円を受け取ったと供述している。事実なら、どういうカネか。「積み立ててきた個人資産」と言ったが、問題はその出所だ。
 さらに土地代金支払いの直後に金融機関から受けた4億円もの融資。うち2億円の返済などの際、小沢氏本人が金融機関の担当者と会ったり関係書類に署名したりしたことが分かっている。資金調達の経緯を隠ぺいするための偽装工作の一つというのが、検察の見立てだ。状況から、何のための融資かは聞かされていたはずだが、どうか。
 石川議員は、電話やメモで小沢氏とやりとりをしたと関係者に話していたという。具体的にどんなやりとりをしたか。経理処理について尋ねることはしなかったのか。
 たとえ、石川議員が容疑を認めている虚偽記載や裏献金にかかわっておらず、一切知らなかったとしても、ここまでの混乱と不信を招いた責任についてはどう考えているのか。西松事件の時に事務所ぐるみで証拠隠滅をしたとの石川議員元秘書の証言まで飛び出し、批判や疑問が−民主党内からはあまり聞こえてこないが−渦巻いている。そして、その民主党だが、代表である鳩山氏は小沢氏に幹事長続投を自ら要請したという。しかし、なぜ説明を促そうとしないのか。いや、それ以前に、外部の専門家を入れた調査チームを発足させ、土地購入問題の解明に取り組む気はないのか。いま小沢氏の政治姿勢だけでなく、民主党の自浄能力も厳しく問われている。


小沢一郎民主党幹事長の党大会での挨拶<全文>
読売新聞(2010/1/16)
 本日、私は党務報告を申し上げる予定だったが、皆様ご存じのような事態になりましたので、今までは捜査中ということも考慮いたしまして、私も物を言わずにできるだけ静かにしておったわけでありますけれども、現職の国会議員が逮捕されるという事態にまで立ち至りましたので、私はこの機会に、皆様にそして国民皆様に今までの経緯とそして私の考え方、今後の決意について申し上げたい。このことを党大会としてふさわしいことではございませんけれども、皆様のお許しをいただきたい。
 私の政治団体に関係する問題は昨年の春、総選挙の前に起こりました。私の秘書の大久保(隆規被告)が、ある日突然呼び出しを受けて、その場で逮捕、強制捜査ということになった。それ以来、今日までずっと捜査が続いていたようだが、昨日、きょう、石川議員と同時に私の事務所におりました者も逮捕されるということになりました。
 私どもの事務所も、もちろん収支報告にあたりまして、計算の間違いやら、あるいは記載の間違いやら、あったかと思います。しかしながら、このような形式的なミスにつきましては、今までのほとんどのケースで、報告の修正あるいは訂正ということで許されてきたものであります。それにもかかわらず、今回の場合はなぜか、最初から逮捕、強制捜査という経過をたどって、今日に至りました。
 私はこの点につきまして、何としても納得の出来ない気持ちでおります。そしてさらには、最近の報道で土地の購入にあたりまして、私どもが不正の資金を入手して、その購入に充てたというような報道がなされていると聞いております。
 私どもはこの資金について、なんら不正なお金を使っておる訳ではありません。
 このことについて、実は今月の初め頃だったでしょうか。
 検察当局から、私の方に弁護士を介して、このお金はどういうものですか、という問い合わせがありました。
 私は別に隠し立てするお金ではありませんでしたので、はっきりとこれは私どもが積み立ててきた個人の資金でございまして、金融機関の名前、支店名もはっきりと申し上げて、どうぞ検察当局でお調べくださいと、そう返答いたしておったのでございます。
 そして、その翌日あるいは翌々日だったかと思いますが、検察当局から、その預金口座の書類は入手したと、そういう返答が弁護士を通じてありました。
 従いまして、私は、これでこの資金についての疑いは晴れたと考えて、安心してよかったなと思っていたところでございました。
 それがまた突然、きのうきょう、現職議員を含む3人の逮捕ということになりまして、本当に私は驚いております。
 しかも、意図してかどうかは分かりませんけれども、わが党の、この党大会の日に合わせたかのように、このような逮捕が行われている。私はとうていこのようなやり方を容認することできませんし、これがまかり通るならば、日本の民主主義は本当に暗たんたるものに将来はなってしまう。私はこのことを私個人のことでうんぬんよりも非常に憂慮いたしております。
 そういう意味におきまして、私は断固として、このようなやり方、このようなあり方について毅然として、自らの信念を通し、そして闘っていく決意でございます。
 お昼前に鳩山総理ともお話しを致しました。
 そして、ただいま総理から大変力強い言葉を頂きました。私はこの総理のお気持ちを支えにいたしまして、今後とも与えられた職責を全力で果たしていくと同時に、当面、こういう権力の行使の仕方について、全面的にきちんと対決して参りたい、そのように考えております。
 ただ、当面はこのことにつきまして、私も力を入れ、時間をさかなければならないことが多くなるかと思いますので、当面の間は表向きの仕事につきましては輿石幹事長職務代行にお願いする機会が多くなることと思いますけども、是非とも皆様のご了解を賜りたいと思います。
 いずれにいたしましても、本当に国民の皆さんの力で、ようやく日本に議会制民主主義が定着しようとしている矢先でございます。私は本当に40年の政治生活の中で、日本に議会制民主主義が、政権交代可能な本当の民主主義が定着すること、それのみを願って今日までがんばってきました。今年は参院の通常選挙も予定されております。これに勝利することがわが党の、鳩山政権の基盤を盤石にすると同時に、日本の議会制民主主義を定着させることになると信じております。
 どうか皆さん、当面、この戦いに力を注いで参りたいと思いますが、いずれにしても夏の参院の通常選挙、互いに力を合わせて、本当に日本に、国民の生活が第一の政治を、そして議会制民主主義の確立のために、みんなで力を合わせて、がんばろうではありませんか。どうぞよろしくお願いします。ありがとうございました。