参考写真 小沢一郎民主党幹事長に関する検察審査会の議決に関して、インターネットのブログやツイッターなどでは、「検察審査会で民主党の小沢一郎が起訴相当となった。検察が徹底的に調べ上げ、検察内部でも二分していたが嫌疑不十分で不起訴になった。しかし、抽選で選ばれたズブの素人が、たった数回の審査会で決めてしまう…。こんなこと冷静に考えたら、実に恐るべき“闇”の審査会である…」といった声に代表される否定的な意見が目立ちます。そうしたものの極論は、「コレ新聞やテレビで取り上げなかったらおかしい。メンバーについても報道するべき」との、本来、一般市民の代表として審査にあたった委員への批判にまでエスカレートしています。
 しかし、こうした批判は、いずれも検察審査会の意義を誤って認識している結果に他なりません。
 警察審査会の議決の目的は、小沢一郎幹事長を有罪にすることではないのです。「直接的証拠と情況証拠があって、被疑者の共謀共同正犯の成立が強く推認され、上記5の政治資金規正法の趣旨・目的・世情等に照らして、本件事案については被疑者を起訴して公開の場(裁判所)で真実の事実関係と責任の所在を明らかにすべきである。これこそが善良な市民としての感覚である」とあることを、冷静に受け止める必要があると思います。
 そして、もう一度冷静に検察審査会の議決の全文を読んでみると、今回の審査会の意見は実に正鵠を得ていることを理解できるはずです。この辺の分析は「極東ブログ」を一読していただけると、さらに良くご理解いただけるのではないでしょうか。
小沢一郎氏を起訴相当とした検察審査会の議決
極東ブログ(2010/4/26)
 私が渦中で思ったことが、論点を整理しわかりやすく表現されているという点で、きれいなまとめになっていると思った。
 私が気にしていたのは、「1 直接的証拠」の2点である。日本人は証言について、口から出任せでなんとでも言えると考えがちだが、法のプロセスでは証言は審議の上、事実として扱われる。というか、事実とは証言のことである。くどいようだが、日本人は物的な証拠のみを事実として考えがちだ。
 今回の件で、この2点の事実から、法の専門家から見てで公判が維持できるかというのが一番の関心事だった。小沢氏の政治資金規正法の収支報告違反という点で、小沢氏本人の共謀共同正犯が成立するかというと、そもそも政治資金報告書を提出するのは会計責任者であって政治家本人ではないので、私の印象ではその筋での立件は困難ではないかとも思っていた。実際に検察の判断としても無理という結論になった。疑わしきは罰せずということでもあり、妥当な判断だろう。
 他方、私の一市民の感覚としては、政治資金規正法の帳簿の記法が単式であればこういう、カネの入出を相殺するような報告もありえるだろうが、複式で記載すれば奇妙なカネの出し入れは明確になり、政治資金規正法の趣旨からすれば多いに疑問が残るところとなるはずで、議決書で「政治資金規正法の趣旨・目的は、政治資金の流れを広く国民に公開し、その是非についての判断を国民に任せ、これによって民主政治の健全な発展に寄与することにある」と明記されているのも同意できる。
 今回の議決書で、ずいぶん踏み込んだものだなと思ったのは、法の専門家からの判断が出ていてなお、状況証拠が深く勘案されている点だった。私なりの結論からすれば、これも簿記形式の問題に帰してしまうのだが、仮に複式簿記的に見れば、これらの疑念があることはいかんともしがたい。

小沢氏起訴相当の議決書(全文)

平成22年東京第五検察審査会審査事件(申立)第10号
申立書記載罪名 政治資金規正法違反
検察官裁定罪名 政治資金規正法違反
議決年月日 平成22年4月27日
議決書作成年月日 平成22年4月27日
議決の要旨
審査申立人 (氏名) 甲
被疑者 (氏名)小沢一郎こと小澤―郎

不起訴処分をした検察官 東京地方検察庁 検察官検事 木村匡良
議決書の作成を補助した審査補助員 弁護士 米澤敏雄

上記被疑者に対する政治資金規正法違反被疑事件(東京地検平成22年検第1443号)につき、平成22年2月4日上記検察官がした不起訴処分(嫌疑不十分)の当否に関し、当検察審査会は、上記申立人の申立てにより審査を行い、検察官の意見も聴取した上次のとおり議決する。

議決の趣旨
本件不起訴処分は不当であり、起訴を相当とする。

議決の理由
第1 被疑事実の要旨
被疑者は、資金管理団体である陸山会の代表者であるが、真実は陸山会において平成16年10月に代金合計8億4264万円を支払い、東京都世田谷区深沢所在の土地2筆を取得したのに

1 陸山会会計責任者A(以下Aという。)及びその職務を補佐するB(以下Bという。)と共謀の上、平成17年3月ころ、平成16年分の陸山会の収支報告書に、本件土地代金の支払いを支出として、本件土地を資産としてそれぞれ記載しないまま、総務大臣に提出した。

2 A及びその職務を補佐するC(以下Cという。)と共謀の上、平成18年3月ころ、平成17年分の陸山会の収支報告書に、本件土地代金分過大の4億1525万2423円を事務所費として支出した旨、資産として本件土地を平成17年1月7日に取得した旨それぞれ虚偽の記入をした上総務大臣に提出した。

ものである。

第2 検察審査会の判断

1 直接的証拠
(1)Bの平成16年分の収支報告書を提出する前に、被疑者に報告・相談等した旨の供述
(2)Cの平成17年分の収支報告書を提出する前に、被疑者に説明し、被疑者の了承を得ている旨の供述

2 被疑者は、いずれの年の収支報告書においても、その提出前に確認することなく、担当者において収入も支出も全て真実ありのまま記載していると信じて、了承していた旨の供述をしているが、きわめて不合理で不自然で信用できない。

3 本件事案について、被疑者が否認していても以下の状況証拠が認められる。
(1)被疑者からの4億円を原資として本件土地を購入した事実を隠蔽するため、銀行への融資申込書や約束手形に被疑者自らが署名、押印をし、陸山会の定期預金を担保に金利(年額約450万円)を支払ってまで銀行融資を受けている等の執拗な偽装工作をしている。
(2)土地代金を金額支払っているのに、本件土地の売主との間で不動産引渡し完了確認書(平成16年10月29日完了)や平成17年度分の固定資産税を買主陸山会で負担するとの合意書を取り交わしてまで本登記を翌年にずらしている。
(3)上記の諸工作は、被疑者が多額の資金を有しておると周囲に疑われ、マスコミ等に騒がれないための手段と推測される。
(4)絶対権力者である被疑者に無断でA・B・Cらが本件のような資金の流れの隠蔽工作等をする必要も理由もない。
これらを総合すれば、彼疑者とA・B・Cらとの共謀を認定することは可能である。

4 更に、共謀に関する諸判例に照らしても、絶大な指揮命令権限を有する被疑者の地位とA・B・Cらの立場や上記の情況証拠を総合考慮すれば、被疑者に共謀共同正犯が成立するとの認定が可能である。

5 政治資金規正法の趣旨・目的は、政治資金の流れを広く国民に公開し、その是非についての判断を国民に任せ、これによって民主政治の健全な発展に寄与することにある。
(1)「秘書に任せていた」と言えば、政治家本人の責任は問われなくて良いのか。
(2)近時、「政治とカネ」にまつわる政治不信が高まっている状況下にもあり、市民目線からは許し難い。

6 上記1ないし5のような直接的証拠と情況証拠があって、被疑者の共謀共同正犯の成立が強く推認され、上記5の政治資金規正法の趣旨・目的・世情等に照らして、本件事案については被疑者を起訴して公開の場(裁判所)で真実の事実関係と責任の所在を明らかにすべきである。これこそが善良な市民としての感覚である。

よって、上記趣旨のとおり議決する。

東京第五検察審査会