7月23日、75歳以上を対象とする後期高齢者医療制度の廃止に向け、厚生労働省が検討している新制度の骨格案が明らかになりました。
 それによると、自営業者や無職者(年金のみで生活している高齢者)は、国民健康保険(国保)への加入を基本とし、サラリーマンやその配偶者らは被用者保険(社会保険)に継続して入ることになります。
 この骨格案は、長妻厚労相主宰の「高齢者医療制度改革会議」に中間取りまとめ案として提示されました。高齢者医療制度改革会議は年末までに最終案をまとめる予定で、政府は2013年度から新制度に移行する考えです。
 民主党は、75歳以上を一律に別建ての制度に加入させる現行の後期高齢者医療制度は、年齢による区分に「差別だ」と批判してきました。そのため、新制度では高齢者の加入先を現役世代と同じく国保と被用者保険として形を整えました。
 しかし、同一制度内とはいえ、高齢者の医療費が別会計という要の部分は今と変わらず、「その実は目先を変えた微修正」との批判が既に出ています。
参考写真
 以下、新制度と現行制度の比較と、その欠点を整理してみました。
現行制度と同じ点
  1. 高齢者の医療給付費は、公費、現役世代からの支援、高齢者の自己負担は5:4:1の割合でそのままにする。
  2. 国保に加入する高齢者は、原則として、同じ都道府県で同じ所得であれば、同一保険料を支払う。

現行制度との相違点
  1. 75歳以上の保険制度をなくし、現役世代と同じ保険証にする。ただし、75歳(または65歳)以上の保険財政は別枠にして、今まで通り独立して運営する。
  2. 国保は世帯主がまとめて保険料を負担し支払う。被用者保険に移る被扶養者は負担なしとする。
  3. 高齢者も現役世帯と同じ制度に加入するため、医療を受ける時自己負担限度が一本化され、世帯の負担が軽減される。
  4. 国保・健康組合等に健康診査を義務づける。(現行制度では努力義務)

新制度の欠点
  1. 自公政権時代、後期高齢者医療制度に改正したのは、それ以前の老人保健制度では、同じ所得であっても保険料負担が異なっていたからである。そこで、同じ都道府県内では、同じ所得であれば同じ保険料にした。民主党政権の提案は、同じ所得であっても、国保に入っている人は所得に応じて保険料を出すが、被用者保険(組合健保等)の被扶養者は保険料を払わなくても良いことになる。旧老人保健制度の時に逆戻りをすることになる。
  2. 被用者保険の被扶養者は保険料を払わなくても良いと言っても、結果的に被用者保険にその負担は上乗せされ、企業を含めて負担増となる。
  3. 75歳以上の高齢者を別枠の医療保険にすることは「問題である」と指摘しているため、国保も被用者保険も年齢による区分をなくして、同じ保険証にすると提言している。しかし、75歳以上の人の財政運営は、現在とおなじく都道府県単位で別枠にして運営するとしている。保険証を現役世代と同じにしただけで、実態は変わっていない。何のための改革なのか?
  4. 将来は現役世代も含めて、都道府県単位の財政運営にすると主張しているが、旧老人保健時代と同じく、高齢者と現役世代の負担割合が不明確になる。知事会の同意が得られるかどうかも課題である。