今、日本の大きな課題として、突然クローズアップされてきたTPPについて整理しておきたいと思います。
 TPPとは「環太平洋戦略的経済連携協定(Trans-Pacific Partnership)」の略称で、太平洋を囲む諸国間の貿易自由化を目指す経済的枠組みのことです。
2006年に4カ国からスタート
参考写真 2006年にAPEC(アジア太平洋経済協力)参加国のニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイの4ヵ国が発効させており、2015年をめどに各国間の関税を全廃する方向で協議が行われています。TPP加盟国間の取引は工業製品や農産品、金融サービスなど全品目の関税が原則的に100%撤廃されます。
 現在はアメリカ、オーストラリアなども参加を表明しており9カ国で協議を行っており、アメリカは2011年11月に同国で開催されるAPECまでに妥結を目指しています。
 日本は、今回の横浜でのAPECを機会に、TPP参加に向けて交渉を始める意向を表明する予定でしたが、民主党内の意見のとりまとめが出来ず、結局、政府の方針では、TPPへの「協議を開始する」という表現にとどまりました。
 この協議への参加という日本の曖昧な態度を、TPP参加の9カ国が、評価するかによって、日本の今後の立場が大きく変化します。カナダがやはり一時TPPへの参加の意向を表明しながら、小麦の自由化問題がネックになって足踏み状態に陥っています。今年3月から始まったTPPの交渉は、各国政府の規制の調和、環境、労働など分野別にルール作りがすでに始まっていて、すでに3回の交渉が行われています。今回、日本が参加方針を明確に示せなかったことで、恐らく、具体的なルール作りの交渉では、カナダなどとともに「オブザーバー」の地位にとどまる事になり、ルール作りに実質的には関われないと見られています。
省庁によって大きく異なるTPP参加のメリット、デメリット試算
 EPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)などの二国間の取り決めでは関税に例外規定を設け、自国の産業の保護を図ることも比較的容易です。しかしTPPは原則として例外を認めない多国間貿易自由化の協定のため、日本の工業製品の輸出には有利に働く一方、コメをはじめ国内の農業・漁業は壊滅的な打撃を受けると反発する声も上がっています。
 日本がTPPに参加した場合、どの程度の影響が出るかという試算では、内閣府、農林水産省、経済産業省の3省庁の結果が大きく異なっています。
 内閣府は、日本のTPP参加によりGDPが2.4兆円〜3.2兆円増えるという数字を出しています。
 経済産業省は、日本がTPPに参加しない場合、すでに自由貿易協定で先行している韓国に遅れを取り、日本のGDPは2020年までに10.5兆円も減少すると予想しています。とくに自動車、機械産業、電気電子の3つの主要な産業で影響が大きいとしています。
 農水省は深刻な影響のおそれ農林水産省はTPPにより関税が撤廃された場合、安価な外国産の農産物が国内市場に大量に流入し、国内の農業が深刻な影響を受けると試算しています。
 農水省の試算によれば、価格が4分の1の外国産米が輸入された場合、新潟コシヒカリなどのような競争力のあるコメを除いて約90%が外国産米に置き換わる可能性があるといいます。この場合のコメの生産減少は1兆9700億円に上るという予測です。飲用の牛乳の約20%、バター、チーズ、脱脂粉乳はほぼ全量が外国産になり、牛肉も安価な和牛など国産牛の約75%が外国産になるとみられています。食料自給率は現在でも40%と極めて低い値なのですが、TPPの実施により15%に下がると予測しています。今後食料自給率を上げていこうとしている我が国にとって、これはショッキングな数字です。
 この試算は主要農産物19品目について、全世界を対象に直ちに関税を撤廃したという前提で、極端すぎるという意見もありますが、農水省は結果にはそれほど違いがないという立場です。
 全国農業協同組合中央会は、TPP参加は農業への影響が大きすぎるとして反対を表明しており、政権与党の民主党内にも慎重なグループが出来ています。
国内産業の保護の視点を忘れるな
 公明党の石井啓一政務調査会長は10月31日、NHKの「日曜討論」に出演し、「国内の産業を、いかに守り強化するかの議論をしなければならない。日本の長期的な国家戦略が問われるテーマであって、腰を据えた議論が必要なはずだが、そうした議論を与党も政府もやっているように見えない。APEC(アジア太平洋経済協力会議)議長国だから(参加する)という安易な対応は慎むべきだ」と力説しました。
 一方で、今後の国内産業の在り方については、「国際競争力の強化と国内産業の保護を両立させなければいけない。日本経済の強化という意味では自由貿易は進めるべきだ。一方で、食料の安全保障という面もあり、日本の農業を守るのは大切なことだ」と指摘しました。
 また、党内にTPPに関するプロジェクトチームを設置し議論を深めています。
 TPPに加われば、対米輸出では日本は有利になるでしょう。しかし国を開くためには農業問題への対応が不可欠となります。韓国は先んじて国を開く際、農業を救うために巨費を投じています。日本もTPP参加に当たっては農業漁業への手厚い政策が必要になるでしょう。