日本が世界に誇る高度な技術力を生かして「21世紀型の経済成長」の原動力にしていくことが、日本の未来を開くカギを握っています。なかでも注目される「医療・介護」「環境」「農業」の各分野での胎動を、2011年元旦号の公明新聞の記事より紹介します。

医療・介護
臓器などの再生が実用化。介護ロボット産業の振興を
 医療・介護分野では、再生医療の発展が目覚ましく、介護ロボットの実用化も始まりました。共に将来、世界的な市場になることに期待が集まっています。
 “夢の医療”と称される再生医療は、大学の医学部とバイオベンチャー企業などが連携し、心筋・角膜・食道などの再生に着手しており、その産業化が急がれています。
 再生医療とは、患者自身の細胞を用いて、病気などで損傷を受けた臓器や組織を再生させる医療のこと。ドナー(臓器提供者)不足などが克服でき、移植時の拒絶反応がないという利点がある。従来は治療が難しかった疾患への対応なども期待されています。
 中でも、目への実用化が比較的早くなりそうだ。例えば、(株)セルシードは現在、目の角膜を再生する培養角膜の安全性や有効性を確認する治験をフランスで実施するとともに、製造販売の準備を進めています。
 介護においては、介護施設の人材確保と在宅介護の負担軽減が大きな課題です。そうした中、介護ロボットの開発は朗報といえます。
参考写真 筑波大学発のベンチャー企業「サイバーダイン」社のロボットスーツHALは、特に有名です。昨年4月より、(財)茨城県科学技術振興財団からの委託を受け、サイバーダイン社と茨城県立医療大学が中心実施機関となり、県内の医療福祉機関との協力により、実生活への普及に向けロボット研究開発推進事業を行っています。茨城県内の医療福祉施設に配置され、各施設で行われる実証試験の結果を基にスタンダードマニュアルが作成されてます。
 また、つくば市内の独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)は、(株)知能システムと共同で、アザラシ型メンタルコミットロボット「パロ」の研究開発を行い、現在一体35万円で販売するなど、実用化されています。
農業
どこでも生産「植物工場」。付加価値つけブランド化も
参考写真 衰退の一途をたどるかに見える日本の農業。しかし、発想を転換すれば一大成長産業に化ける可能性を大いに秘めた“有望株”でもあります。
 天候により生産量が安定しないのが農業の宿命だが、この常識を覆す試みが各地の「植物工場」で始まっています。
 一見すると倉庫やオフィスビル。だが、その建物の中では衛生管理を万全にした環境の中で“野菜たち”が整然と栽培されています。育てられる作物は異常気象などによる影響を受けません。必要な設備さえ整えば、農地がなくても、どこでも農作物生産ができることが植物工場の利点です。
 技術革新が進み、設備稼働に掛かるコスト高などが解消されれば、近くの植物工場で生産された無農薬でおいしい野菜や果物が食卓をにぎわす場面も増えるかもしれません。
 アイデア次第で、農作物や農村を“ブランド”に磨き上げる道もあります。生産するだけで付加価値の少ない農業に、加工・流通・販売のノウハウを掛け合わせることで“稼げる農業”を実現できるからです。
 減反田を活用した飼料用米で育てたブランド豚の生産、加工、販売を一体化し成功している山形県酒田市の平田牧場、サクランボを売りにした観光農園など魅力あふれる観光戦略展開で、年間約1万人の観光客を160万人と飛躍的に伸ばした山形県寒河江市、減収で悩む高齢農家(約100軒)が負担なく年間5500人程度、農村体験希望者を受け入れ、農村活性化につなげている長野県上田市の信州せいしゅん村などの事例があります。
 各地で今、農産物直売所もにぎわっています。生産者の顔が見えるかたちで比較的安く農産物を購入できるイメージがあるからです。食の安全・安心を求める消費者ニーズにどう応えていくのか。農業の“伸びしろ”はこの点も大きなカギを握っています。

環境
多彩な技術力を生かし、低炭素社会構築をリード
 地球温暖化を防止する「低炭素社会」への転換は、わが国の最優先課題。この転換を多彩な技術力で世界をリードし、経済成長へつなげることが重要です。
 例えば、二酸化炭素(CO2)削減効果に加え、経済効果も高い太陽光発電。その普及が世界各国で進んでいます。
 米独のほか、中国などが生産力を強化し、わが国は劣勢にありますが、三洋電機が光を電力に変える(セル変換)効率世界一の太陽電池の量産化を実現。住宅の屋根など限られた設置面積でも、より多くの発電量が得られるようになりました。今年2月から欧州で発売する予定で、太陽光発電の世界的なシェア拡大へ期待が高まっています。
 自動車分野では日産の電気自動車(EV)「リーフ」が登場。昨年4月の三菱「アイ・ミーブ」に続く、国内2車目の量産EVです。エコカー市場ではハイブリッド車が先行するが、EVとの市場争いがいよいよ本格化します。
 EVは電気モーターだけで走行し、CO2などの排気ガスを出さないのが特長です。フル充電時の走行可能距離は「リーフ」が200キロ、「アイ・ミーブ」が160キロ。EV普及への課題とされる充電設備については、日産と三菱で共用化を進める動きが報じられるなど、利用環境の整備も急ピッチで進んでいます。
 世界的な評価の高い廃棄物処理では、滋賀医科大学と滋賀県内の電気機器メーカー「草津電機」が、使用済みの注射器や手術で使ったゴム手袋などの医療廃棄物を水とCO2に分解する「非燃焼型医療廃棄物処理機」の実用化に成功しました。医療廃棄物を焼却せずに処理するシステムとしては世界初となる快挙です。
 従来の焼却処理と比べCO2排出量を30%以上削減できるほか、処理段階で懸念される感染被害などの危険性を抑える効果も期待されています。