参考写真 2月6日、愛知県知事選挙と名古屋市長選挙、さらに名古屋市議会の解散の賛否を問う住民投票のいわゆる「トリプル選挙」が投開票されました。結果は、大方の予想どうり、知事選で大村氏が、名古屋市長選で河村氏がダブルスコアー以上の圧勝。住民投票も、圧倒的多数で名古屋市議会の解散が決まりました。
 主役は河村たかし(前)市長。自ら市長報酬を800万円に半減し、猛暑の中を住民投票を求める署名活動で46万人を集め、知事選挙に自民党を離党した大村氏を擁立し、そして自ら辞職の道を選び、トリプル選を演出。市民税・県民税の減税、県と市が一体となった中京都構想、議員報酬の大幅カットなど、作詞・作曲・歌・振り付けまでも完璧に演じきったと言っても過言ではありません。
 このトリプル選が示した、名古屋市民・愛知県民の意志は2つあると思います。
 一つは、社会保障の維持や子ども手当ての充実などの財源として、大増税路線をひた走る「民主党政権へのノー」ということです。愛知県は、一昨年の衆院選で民主党が15小選挙区すべてを制した「民主王国」。「政権交代以来、政治の変化が実感できない有権者の失望といらだちが河村氏への追い風を呼んでいるのではないか。菅内閣の今後の求心力にも影響しよう」と、毎日新聞は社説で指摘しています。
 所得税や住民税、消費税を増税する前にやることがある。「人件費の削減や議員給与の削減といった徹底した行財政改革を行えば、住民税を10%下げられる」との訴えは、民主党政権とは正反対の政策です。それを有権者は熱烈に支持したということです。この民意を民主党政権は謙虚に受け止める必要があります。
 二つに、地方議会の改革の必要性です。このトリプル選の結果に対して、朝日新聞は「名古屋選挙…次は、働く議会を作ろう」との社説を掲げました。至極妥当な主張だと賛成します。この社説は、「議員は高い報酬を得ながら地域の暮らしにどう役立ってきたのか、多くの市民に実感させられなかった」と、地方議会に寄せられた有権者の厳しい判断を分析しています。この結果に対して、地方議員がどのようなリアクションを起こすかが重要です。
 地方議員が議会の本会議や常任委員会などの出席するのは、年間120日程度。いわば週休4日です。これで、年間1000万円以上の報酬を得る都道府県や政令市の議員が、それで一生懸命働いていると説明しても、有権者には響かないでしょう。
 そこで、私は“通年議会”の開催を提案したいと思います。そうすることによって、今までの本会議や常任委員会、県内外の調査活動にプラスして、会派間、議員同士の意見交換や討論会、議会報告会や専門家からの公聴会などなど、議論し、首長に提案する場をもっともっと増やすことが出来ます。首長の暴走や専決処分の乱発なども、一掃することが出来ます。
 その上で、批判の多い“政務調査費を全廃”してはどうでしょうか。調査に必要な費用は、経費として申請し、実費で清算すればよいのです。一般のサラリーマンでも、出張の際は“出張伺い”を提出し、実費を後日“出張精算書”で清算しています。同じ仕組みで、議員の活動も充分充実させることが出来ると思います。
 トリプル選の残したものを、地方議員も真摯に受け止めて、議会改革、議員改革に取り組むことが重要です。
 2月7日付けの毎日新聞、朝日新聞、読売新聞の社説は、それぞれ違う視点からトリプル選を総括していて、興味深い記事となっています。3紙の社説をそのまま掲載させていただきます。

名古屋ショック 既成党の埋没は深刻だ
毎日新聞社説(2011/2/7)
 地殻変動を感じさせる異変である。愛知県知事選、名古屋市長選、同市議会解散の是非を問う住民投票が同じ日に重なる「トリプル投票」が行われた。いずれも市民減税を掲げ支持を訴えた河村たかし前市長の陣営が勝利し、「河村旋風」の猛威をみせつけた。
 統一選を前に中央政党の推す候補があえなく敗れる様子は、民主党をはじめとする既成政党の埋没ぶりを物語った。政令市として初のリコールによる議会解散も自治の歴史に刻まれる事態だ。政党や地方議会への重い警告と受け止めねばならない。
 フタを開ければ河村氏の狙い通りの審判だった。2月にもともと予定されたのは愛知県知事選だが、これをトリプル投票に仕立てあげたのが河村氏だ。10%の市民減税をめぐり対立した市議会へのリコール運動を主導して住民投票を実現、自らも任期半ばで辞任しての出直し選で、決戦の舞台を用意した。
 その戦略が皮肉なことに古巣、民主党を直撃した。知事選は大村秀章前衆院議員(自民党を離党)が河村氏が代表を務める地域政党の推薦を受け、民主党推薦の官僚OBらを制した。市長選も、河村氏が前民主党衆院議員らをしりぞけた。
 地方選で苦戦続きの民主党だが、愛知はさきの衆院選で15小選挙区すべてを制した「民主王国」だけに、深刻だ。政権交代以来、政治の変化が実感できない有権者の失望といらだちが河村氏への追い風を呼んでいるのではないか。菅内閣の今後の求心力にも影響しよう。
 自民党もふがいない。知事選は事実上の分裂選挙となり、市長選は候補を擁立できなかった。大阪でも、橋下徹府知事が主導する地域政党が台風の目となりつつある。政治が迷走する中で、2大政党がかすむ現状の裏返しでもある。
 「旋風」のもうひとつのエネルギー源は、地方議会への住民の不満だ。議員報酬半減を主張する河村氏は名古屋市議会と激しい対立を演じてきたが今回の投票から、住民の市議会への強い不信感が裏付けられた。大都市での署名集めなど高いハードルを越えての住民の「不信任」を改革に二の足を踏む多くの地方議会は他山の石と受け止めるべきだ。
 一方で、市議会との対決路線をひた走り、解散を主導した河村氏の手法も危うさをはらむ。
 市民減税の行方は最終的に、解散に伴う名古屋市議選で決せられる。河村氏の下で地域政党は候補を擁立するが、対立勢力を攻撃し続けるばかりでは市政の歯車は回らない。
 減税と市財政の健全化をどう両立させるかなど、河村氏はより踏み込んで住民に説明すべきである。


名古屋選挙…次は、働く議会を作ろう
朝日新聞社説(2011/2/7)
 衝撃的な結果である。
 愛知県知事選、名古屋市長選、議会解散の是非を問う同市の住民投票の投開票がきのうあった。河村たかし前市長の率いる勢力がそろって勝利した。いったん辞めて再立候補した市長選、市民に呼びかけた住民投票、連動させた知事選でも盟友を押し上げた。
 これまで票をたばねてきた政党や労組、業界は、大きく力を失ったように見える。いまやこうした組織を見限った個人が、河村氏へ吸い寄せられていった、という図である。
 河村氏は「市民税減税が政策の1丁目1番地」と強調する。だが、街頭でみるかぎり、議員報酬半減の提案をはじめ、徹底した議会との対決姿勢が強く市民に受けていた。
 政権交代後の混迷もあり、社会の閉塞(へいそく)感は強まっている。市民は、議会と激突する河村氏に喝采を送った。
 市民の側から「議会を守れ」という運動がほとんど広がらなかったのが象徴的である。むしろ特権にあぐらをかいていた議員が攻撃され、右往左往するさまが格好の見せ物になった。
 議員は高い報酬を得ながら地域の暮らしにどう役立ってきたのか、多くの市民に実感させられなかった。
 山口県防府市長が議員定数半減を提案したのをはじめ、議会と対決する首長が各地に現れている。リコールの要件を緩めたり、住民投票をやりやすくしたりする地方自治法改正の動きが進んでいるが、現状では対立を激化させる道具にならぬか心配だ。
 だが、忘れてはいけない。こんな議会を許してきたのもまた市民である。4年前の統一地方選で市議選のあった全国の15の政令指定都市のうち、名古屋市の投票率は最低の39.97%だった。平均より10ポイント近く低かった。
 冷静に考えてみよう。議員報酬を半減させたところで、浮くお金はせいぜい6億円だ。小さいとは言えないが、河村氏がいう10%減税に必要な200億円に遠く及ばない。
 では行政改革で財源が本当に生み出せるのか。市民サービスが削られないか。いまこそ行政への監視が必要なときだ。市民の代表である議会を攻撃するだけでは結局、市民が損をする。
 住民投票で議会解散が決まり、3月に出直し選挙がある。報酬問題について市民の判断はもう明らかだろう。
 次は議会にどのような人材を送り、どう再生するか、である。
 各党、各候補者に知恵を問いたい。地域政党を率いる河村氏も「壊す」の次に「作る」方策を見せてほしい。
 全国の有権者も考えよう。あなたの街の議会もふがいないかもしれない。だが、攻撃し、個人で留飲を下げるだけでいいか。議会は社会が連帯し、公の問題に取り組む場所だ。主権者として、議会をもう一度働かせよう。


トリプル投票 危うさ伴う愛知の劇場型政治
読売新聞社説(2011/2/7)
 知事選・市長選・住民投票を連動させる名古屋市の河村たかし前市長の戦略が奏功した。河村氏には、今回の結果におごることなく、独善的な行政運営を慎むよう求めたい。
 河村氏は、自らの辞職に伴う出直し市長選で再選を果たした。愛知県知事選では、河村氏と二人三脚を組んで住民税減税や「中京都」構想を訴えた大村秀章・前衆院議員が初当選した。
 前市長と対立してきた名古屋市議会の解散の是非を問う住民投票でも、賛成が過半数を占め、市議会の解散が決まった。河村氏が主導した議会解散請求(リコール)運動が実ったものだ。
 河村氏の“3連勝”は、「市民税減税の恒久化」を掲げる一方で、これに反対する市議会を「悪役」に見立てる選挙戦術が的中した結果と言える。背景には、高すぎる市議報酬に対する市民の強い反発もあったようだ。
 しかし、住民に受けの良い政策だけを前面に押し立て、議会との対立を際立たせることを通じて支持を集めるという「劇場型」の政治には、危うさが伴う。
 河村氏は、減税の財源は行政改革による歳出削減で捻出している、と主張している。
 だが、地方交付税を受け取り、市債残高を増やす一方で、減税を恒久化することは、将来世代へのつけ回しにならないか。冷静な論議が求められる。行革の効果に関する検証も欠かせない。
 「中京都」構想も、具体像が見えていない。その功罪に関して、地に足のついた議論が必要だ。
 名古屋市議会の出直し選挙は来月行われる。河村氏は、自らが代表を務める地域政党から多数の候補を擁立し、定数75の過半数を占めることを目指すという。
 市議会には本来、市長と一定の緊張関係を保ちつつ、建設的な議論を通じて、市政の一翼を担う責任がある。各候補はその自覚を持って選挙に臨むとともに、有権者も、候補の資質と政策を慎重に見極めてもらいたい。
 民主党は、愛知の15衆院小選挙区を独占しながら、知事選と県都市長選で推薦候補が無所属の河村氏らに敗れた。深刻な結果だ。
 民主党は昨年の参院選以降、衆院補選や茨城県議選で敗北を重ねている。菅政権の失政や首相の指導力の欠如で、国民が政権交代に幻滅していることの表れだ。
 菅政権は、小手先の政権浮揚策に走らず、過去の過ちを認めて政権公約を見直すべきだ。それが態勢立て直しの一歩となろう。