参考写真 茨城県では、平成18年に「茨城県IT戦略推進指針」を策定し、「県民一人一人がうれしいと実感できる情報交流社会」の実現を目指し、快適で安全・安心な県民生活の実現や、地域産業の活性化、電子自治体の推進、教育の充実を柱として、各種IT施策を推進してきました。
 茨城県のIT戦略の目標は、まさにこの「県民一人一人がうれしいと実感できる情報交流社会」という、そのテーマに全てが言い尽くされていると言っても過言ではありません。いかに、IT化によって経費が削減できようとも、事務処理が早く行えるようになっても、県民の皆さまが喜んでいただけるような、取組でなくては評価に値しないということです。
 この指針をもとに、茨城県では、公共施設や都市計画、防災等の情報を掲載するデジタル地図の共通基盤として、「統合型GIS」の運用を県と市町村が共同で開始したほか、「いばらきブロードバンドネットワーク(IBBN)」の利活用を進め、電子申請や電子入札といったシステムに加え、最近では県立3病院間で医療情報が共有できるシステムの整備が進められています。
 また、県庁内の情報システムの集約・統合化を進め総務省提唱の地域情報プラットフォーム仕様に準拠した「共通基盤システム」を全国に先駆け構築し、汎用機を廃止するなど、システムの最適化とコスト削減にも取り組んできました。
 一方、この間ITの分野では、高速なネットワークをiPhoneやiPod、各種スマートフォンなどの手軽な携帯端末の普及で、いつでも、どこでも使えるブロードバンド化やユビキタス化が急速に進展してきました。
 茨城県のブロードバンドサービスの世帯カバー率は、全国平均をやや上回り、昨年6月には「県のブロードバンド・ゼロ地域の解消を達成した取組」が評価され、総務省関東総合通信局長から表彰されました。
 こうしたIT環境の進展の中で、この2月9日には、県IT戦略会議が、知事に対して「未来につながる 地域につながる スマートいばらき」との提言書を提出しました。
 県は、これらをもとに6月には、来年度から5年間にわたる新たな「茨城県IT戦略推進指針」をとりまとめる方針です。
 私はこのIT戦略会議の提言を踏まえて、茨城県の新たなIT戦略に、3点の提案をしたいと思います。第1に自治体クラウドの推進、第2に医療分野でのITの高度利用、第3に住民の孤立化を防ぐツールとしてのIT活用の3点です。
 第1の自治体クラウドとは、「クラウドコンピューティング」の技術を自治体で活用することを意味します。英語で「雲」を意味するクラウドは、コンピューター同士がネットを介してつながった状態を、専門家が雲に見立てたことに由来しています。今まで、高額な機器やソフトウェアを一台ずつのコンピュータに組み込まなければならなかったシステムを、ネット上のサーバーに一括して整備することで、セキュリティの高いシステムを安く、迅速に整備することが出来ます。
 税の徴収システムや人事制度、予算管理システムなど、自治体業務のあらゆる局面で自治体クラウドを整備する必要があります。また、危機管理などの場面でも、クラウドはその実力を発揮します。
 例えば、口蹄疫で甚大な被害を受けた宮崎県。発生後に県が扱った情報は膨大で、表計算ソフトでの情報処理が間に合わなくなりました。そのような中、殺処分した約29万頭の家畜データの整理に、クラウドが威力を発揮しました。「通常、システムの導入には数カ月かかる」ところ、クラウドの利用を検討してから10日間で導入が完了しました。ネットにつながるパソコンがあればどこでも使え、刻々と変わる情報を職員間でスムーズに共有することができました。(富士通:「口蹄疫に対する防疫対策と復興支援に関わる、現場の被災情報整理にSaaS型システムが大きな力を発揮」)
 広島県安芸太田町は、民間企業が構築したクラウドシステム(日本ユニシス:SAVEaid)を活用し、災害情報の把握や住民の救護、被害の拡大防止などの災害対策を行っています。事前に全職員約160人の携帯電話のアドレス、住所を登録。災害発生時には、職員が携帯電話の専用サイトで、自身の安否、役場や現場への所要時間を打ち込みます。町の災害対策本部では各職員の現況などの情報をパソコンで一括把握。最寄りの災害現場へ向かうよう指示するなど機動的に対応できます。被災場所や避難施設に向かった職員が携帯電話やPCで被害の状況、救援活動の進ちょく状況をシステムに送信すると、対策本部のPCで情報や写真を地図上にリアルタイムで表示でき、救助ルート、復旧作業の優先順位などの指示も出しやすくなるといわれています。町の試算では、独自にシステムを構築すると費用は数千万円かかりますが、クラウドを利用すれば月額約13万円で済むとされています。
 こうした有効性の高い自治体クラウドを、県は市町村は協力して整備する必要があります。特に、市町村のニーズを明確に把握して、どのようなシステムから自治体クラウドの構築をスタートさせるか、早急に見極める必要があります。

 第2には医療分野での活用です。医師の偏在など、茨城県の脆弱な医療基盤を補完するために、ネットを活用した電子画像の伝送、テレビ会議による診療支援・研修会・症例検討会の開催などを行えるようなIT環境を整備する必要があります。
 また、WEBベースのカルテシステムやレセプトシステムを開発することは、地域の医療資源をなお有効に活用することに、大きなメリットなります。さらに将来的には、医療支援ロボットなどを活用した遠隔医療の研究にも資すると考えます。
(例えば、NEC電子カルテシステム:MegaOak-SyntheScope

参考写真 第3の視点は、住民の孤立化を防ぐツールとしてのIT活用です。今年2月、私ども公明党議員会では、厳冬の北海道白老町を現地調査しました。白老町では、総務省の補助金を活用して高齢者用の携帯電話“らくらくホン”を活用した見守り・買い物支援システムの実証試験が続けられています。このサービスは、独り暮らしの高齢者を中心にらくらくホンを配布し、携帯電話のボタンを1つ押すだけで、地域の支援ボランティアとの相談や、119番通報を簡単に行うことができる緊急通報機能を提供しています。また、携帯電話の内蔵センサーから自動通知される歩数情報や、GPSなどにより探知できる位置情報を安否確認に活用し、いつでも・どこでも高齢者の安全の確保と生活を支える見守りサービスが提供されています。
 また、岐阜県内のケーブルテレビ事業者は、「買い物弱者」とされる高齢者や障害者らを支援するため、デジタルCATVの双方向性の特徴を生かした「買い物の実証実験」を行っています。パソコンや携帯電話などを使わず、使い慣れたテレビのリモコン操作で選んだ商品がスーパーから配達される仕組みでです。買い物はテレビのリモコンを操作し、画面から希望する商品を選ぶだけで、種類や数量などは開発したシステムで自動的に大垣市内のスーパーに発注され、運送会社が配達する仕組みです。
 無縁社会といわれる日本社会の構造変化の中で、こうしたITの活用は、行政の積極的な取組が必要となる分野であります。

 また、どうしても指摘しておかなければならないことは、こうしたIT戦略上の取り組みは、かならず県庁それ自体の制度の改革、改善と同時並行ではならないと言うことです。
 私は、青森市の情報政策監や佐賀県の情報企画監を務めたヨム・ジョンスン氏のお話を伺ったことがあります。ヨム氏は韓国籍を持ち、韓国と日本の行政分野のIT化に非常に造詣が深い方です。ヨム氏がどうしても明日までに転出届を出さないと、韓国の住民票が抹消されてしまうと言うことになった時、国際電話で対応を韓国の役所の窓口に問い合わせると、韓国にいようと、日本にいようと、どこにいてもインターネットにつながりさえすれば、その場で手続きが出来ると言われたそうです。早速、ヨム氏は、韓国の電子申請ポータルサイトに接続し、国民IDや暗証コードを入力すると、すでに、国民IDから必要な情報はほとんど検索され、転出先の住所を入力するだけで、一瞬のうちに手続きが完了したと言います。さらに、驚いたことに、「転出届けを出したならば、同時にやるべき手続きが7つあるが、それらを自動で処理して良いか」と尋ねられました。その内容を見てみると、運転免許証の住所変更、年金や医療保険の住所変更、子どもの学校の転校処理などが、同時に処理できてしまう仕組みになっていました。
 つまり、韓国における行政事務の電子化とは、単なる事務処理をコンピュータで行うという次元のものではなく、その事務処理自体の改革、改善と一体になっているということです。
 この改革無くして、茨城県のIT化も、県民にとって利益になるものではありません。

 新たな「茨城県IT戦略推進指針」を策定するにあたって、こうした視点を議会の場で、知事や情報課担当者にアピールしていきたいと思います。