参考写真 今、地方自治のあり方が問われています。
 2000年4月施行の地方分権一括法で機関委任事務が廃止され、国と地方自治体は「上下」から「対等」関係になったといわれています。しかし、現実は自治体の財政基盤は弱く、国による規制も多いのが現実です。地方交付税の大幅減額と特例的地方債の増大は、結果的に地方自治体の財政を大いに硬直化させています。自治体は、本当の意味でのさらなる分権の推進を、強く政府に迫っています。
 この国と地方の綱引きとは別に、地方議会による基本条例の策定や、住民投票の活用による地方行政への直接参加拡大など自治体の中でも改革の動きが活発化しています。一方、昨年来の鹿児島県阿久根市や名古屋市のように、首長と議会が鋭く対立し、首長と地方議会議員を住民が直接選ぶ二元代表制の意義まで問われる事例も顕現化しています。
 こうした中、政府は今国会に地方自治法改正案を提出します。そのポイントを、2月16日付けの公明新聞の記事をもとに論点整理しました。

 政府は昨年1月から地方行財政検討会議で地方自治法の抜本見直しを開始、現在、地方自治法改正案を準備しています。今国会に提出予定の改正案は、(1)議会と長の関係、(2)住民投票制度の創設、(3)国等による違法確認訴訟の創設――など6分野で、検討会議が速やかな制度化を求めた項目が対象にされています。
国との関係/地方の違法を正す訴訟を創設 
 まず、国と自治体の関係では「国等による違法確認訴訟」の創設が挙げられます。自治体が違法な事務処理をした場合に、国が是正を求める訴訟です。
 自治体が法令に違反して行政サービスを低下させた場合、議会が是正に動き、住民も監査請求や訴訟で争うことが出来ます。また、国も自治体に是正を要求できます。しかし、自治体がそうした批判を放置した場合、違法状態は続き、現実にそうした事例もあったことから、国の是正要求・是正指示に応じない自治体を、国が訴える違法確認訴訟が考えられました。
議会と首長/再議制度と専決処分を改革
 県知事や市長など自治体の首長と地方議会議員は、ともに住民の直接選挙で選ばれます。そのため、首長と議会がともに「住民の支持」を背景に激しく対立し、話し合いを困難にする事態も起こりえます。
 鹿児島県阿久根市の場合、市長が議会を招集せず、議会が議決すべき事項を市長が代わって行う専決処分の制度を乱用して、議会抜きの行政運営を進めました。その結果、住民が市長をリコールし、別の市長を選びました。
 また、名古屋市では、市長支持派の住民が市議会の解散請求に基づく住民投票を成功させ、来月、市議会議員選挙で市民の判断を問うことになりました。
 地方自治法の改正案では、二元代表制の原則の上に、首長の拒否権である再議制度を広げました。その一方で専決処分を限定的に規定し直しています。
 再議制度のうち一般再議は、首長が議会の議決した議案に異議がある場合、議会に再び審議をするよう求める制度で、議会が3分の2の多数で再び議決しないと廃案になります。一般再議の対象は条例と予算の議決に限られていますが、この対象を広げました。また、専決処分は議会が不承認としてもその効果が続く現行制度を改め、不承認の場合は補正予算の提出など必要な措置を取ることを義務付けます。
 これらの改正は、首長と議会の対立を先鋭化させることを避け、良識ある調整に求める手法と評価できます。
会期と審議/“通年議会”も新たな選択肢に
 地方議会の議員は、地域の有力者だけではなく、主婦やサラリーマンなどさまざま住民から選ばれることが望ましい姿です。しかし、多彩な議員が地域の実情に応じて存分に活動するには、現行の定例会・臨時会の制度では難しいとの指摘があり、地域性を生かした独自の会期設定が求められています。
 改正案は、定例会・臨時会の現行制度を、条例によって「通年の会期」へ変更可能にします。自治体が「通年の会期」へ移行を決めた場合、条例で1月中に招集日を決め、翌年の招集日前日までを会期とします。その上で、会議を開く定例日(毎月1日以上)も条例で決めます。ただし、首長が出席義務を負うのは、定例日の審議と議案審議に限られます。
 改正案には盛り込まれませんが、休日・夜間の議会開催や議会審議の公開、議員同士の議論など、審議のあり方に関する柔軟な対応も求められています。
住民の参加/法律で住民投票を制度化
 改正案のうち、全国知事会など地方6団体が強く反発している改正案は、住民投票制度の創設です。現在、自治体が政策課題について住民投票で賛否を聞く場合、議会がその都度、住民投票条例をつくります。投票結果も議会審議の参考にされるにすぎません。
 これは、地方自治も国政と同様、代表民主制が基本になっているからです。住民の声がストレートに自治体を動かす制度としては、条例の改廃や事務監査、議会の解散、首長のリコールなどの直接請求が地方自治法で定められていますが、個々の政策決定について住民の投票を認めた規定は存在しません。政策決定は、選挙で選ばれた議員が決定することが前提であり、今の住民投票には法的効果はなく、諮問的な役割しかありません。
 しかし近年、住民の多様な意識を行政に反映させるよう求める声も強くなっています。そこで政府は、代表民主制を根幹とした上で、その補完として投票結果に法的な効果を認める住民投票制度を創設することを検討しています。その結果、交通施設など大規模な公の施設の設置について、住民投票を認める方針を決めました。どの施設について住民投票に付すかは議会が条例で決めるため、大規模施設が全て住民投票の対象になるわけではありません。
 住民投票に対し、数の力で少数者の意見が封じられる、柔軟な解決策の選択が困難になる、などの批判も根強く残っているのも勘案しなくてはなりません。