参考写真 NHKが全国1,783のすべての自治体を調査した結果、引き取り手がなく、自治体によって火葬・埋葬された人=無縁死した人は、2008年だけで3万2千人にものぼることが分かりました。3万2千人の無縁死のうち、警察でも自治体でも身元が分からなかった身元不明者は1000人にのぼります。この1000人は、「行旅死亡人(こうりょ・しぼうにん)」と呼ばれ、国が発行する官報には毎日のように「行旅死亡人」の記事が掲載されています。遺体の引き取りを親族に呼びかけるこの官報記事には、性別、身長、所持品等、亡くなった人の情報が、わずか数行のっているのみです。死因には「飢餓死」「凍死」の文字が目立ちます。家族や会社とのつながりを失い孤立して生きる人たち。いま日本社会は「無縁社会」とも言える状況に突入しています。
 また昨年、にわかにクローズアップされた高齢者の所在不明問題は地域のつながり、人間関係の希薄化を浮かび上がらせました。
参考写真 一昨年、内閣府が60歳以上の高齢者を対象に行った調査によると、一人暮らし世帯では「2〜3日に1回」以下しか会話をしない人が男性で約4割、女性でも約3割に上りました。一人暮らしの高齢者が家庭や地域とのつながりを持てず、社会的に孤立しやすい環境に置かれています。
 国立社会保障・人口問題研究所が推計した世帯の将来推計では、従来、家族のかたちとして最も多かった「夫婦と子」の世帯は、既に2006年には単身世帯にそのトップの座を譲っているとみられます。単身世帯は今後も増え続けます。2030年には1824万世帯に達する見込みです。この年には高齢男女や中高年男性の単身世帯が目立つようになり、50、60歳代男性の4人に1人は単身世帯との予測もあります。
 中高年男性の単身世帯増の背景には未婚化が挙げられています。こうした人たちが高齢世代になれば、配偶者がいないだけでなく、子どももいないわけで、いわゆる家族の支え合いを一層困難にします。単身世帯の6割は孤独死を身近に感じ、不安を覚えています。
 無縁社会の進行を放置していいはずなどありません。単身世帯が急増していく日本社会で、支え合う仕組みの再構築が必要になっています。
 こうした、従来の社会保障制度の枠組みでは想定できない新たなリスク(危険)に対応するため、私ども公明党は「新しい福祉」の構築に全力を挙げています。
参考:公明党「新しい社会福祉ビジョン」中間報告
 そして、この「新しい福祉」のキーワードは、"ソーシャル・インクルージョン"という言葉ではないかと考えています。
 ソーシャル・インクルージョンとは、文字通り「社会的包み込み」を意味します。安心して生活することを困難にする問題を取り除き、年齢性別などを問わず人々が社会参加を続けることを可能にする取り組みです。日本は今、高齢社会・人口減少社会の到来で将来に対する見通しが不透明さを増す中、格差の拡大、雇用の二分化、社会的引きこもりの増加、高齢単身世帯の増加などの課題に直面しています。
 すでに、神奈川県では、平成14年にこのソーシャルインクルージョンの考え方をもとにした「地域福祉の推進についての基本指針」を策定しています。
 このソーシャルインクルージョンを実現するために、今、県も総力を挙げて、地域福祉の総合的戦略を策定する必要があります。
 高齢者の孤立が深刻化する中で、地域見守りネットワークの構築と体制強化は重要です。
 地域包括支援センターを中心に、関係機関が連携し、地域全体で高齢者を支えるネットワークを強化することを提案します。
また、先程述べたように、人感センサーによる安否確認など、情報通信技術を活用した地域での見守りや、外出、買い物などの生活支援サービスの充実も必要です。
 うつ対策も重要です。有効な治療法である「認知行動療法」の普及や県立「こころの医療センター」によるアウトリーチ診療など積極的な取組が期待されます。
 児童虐待防止対策も急がれる課題です。都道府県に「緊急強化基金」を創設し、児童相談所や市町村の支援体制を強化、児童福祉司などの追加配置を進めることを提案します。
 DV被害者には、一時保護するための民間シェルターへの財政支援なども重要な課題です。
 結婚を希望する単身者への結婚支援活動は、今後益々県の事業として拡充する必要があると思います。
 そして、ソーシャルインクルージョンを実現するため活動するNPOやボランティア、地域コミュニティを強化するための財政的、人的な支援がどうしても必要だと確信します。
 「無縁社会」への対応を、ソーシャルインクルージョンの考え方から、どのように行っていくか、舵取り役としての県の立場は重要です。
参考:NHK「無縁社会」プロジェクト