4月29日、内閣官房参与の放射線防護の専門家・小佐古敏荘東大大学院教授が、菅民主党政権の対応を「場当たり的」だと批判し、辞表を提出しました。
小佐古教授の内閣官房参与の辞任にあたって(辞任表明)の全文を、NHK「かぶん」ブログから掲載させていただきましたが、そのポイントは2つ。一つは、原子力災害対策を「法と正義」に則って行うこと、二つに「国際常識とヒューマニズム」に則って行うことです。
具体的には、「住民の放射線被ばく線量は、緊急時迅速放射能予測ネットワークシステム(SPEEDI)によりなされるべききですが、それが法令等に定められている手順どおりに運用されていない。法令、指針等には放射能放出の線源項の決定が困難であることを前提にした定めがあるが、この手順はとられず、その計算結果は使用できる環境下にありながらきちんと活用されなかった。また、公衆の被ばくの状況もSPEEDIにより迅速に評価できるようになっているが、その結果も迅速に公表されていない」と指摘しています。
さらに、後段では、4月19日、文科省が福島県内の小学校等での被曝量について『年間1〜20ミリシーベルト程度』との基準を決定したについて、「小学校等の校庭の利用基準に対して、この年間20mSvの数値の使用には強く抗議するとともに、再度の見直しを求めます」と、厳しく述べています。
小佐古教授の内閣官房参与の辞任にあたって(辞任表明)の全文を、NHK「かぶん」ブログから掲載させていただきましたが、そのポイントは2つ。一つは、原子力災害対策を「法と正義」に則って行うこと、二つに「国際常識とヒューマニズム」に則って行うことです。
具体的には、「住民の放射線被ばく線量は、緊急時迅速放射能予測ネットワークシステム(SPEEDI)によりなされるべききですが、それが法令等に定められている手順どおりに運用されていない。法令、指針等には放射能放出の線源項の決定が困難であることを前提にした定めがあるが、この手順はとられず、その計算結果は使用できる環境下にありながらきちんと活用されなかった。また、公衆の被ばくの状況もSPEEDIにより迅速に評価できるようになっているが、その結果も迅速に公表されていない」と指摘しています。
さらに、後段では、4月19日、文科省が福島県内の小学校等での被曝量について『年間1〜20ミリシーベルト程度』との基準を決定したについて、「小学校等の校庭の利用基準に対して、この年間20mSvの数値の使用には強く抗議するとともに、再度の見直しを求めます」と、厳しく述べています。
このブログでは小学校での被曝容量について考察してみたいと思います。福島県の小学校での年間20ミリシーベルトという数字は、政府が定めた飯舘村などを「計画的避難区域」に指定して避難を呼びかけた数字と同じ値です。子どもは放射線に対する感受性がおとなより高く、被曝限度を低く抑えるのが常識であることを考えれば、小佐古教授の言葉に重みがあります。
2017年前、国際放射線防護委員会(ICRP)は、原発事故など緊急時の一般人の被曝量を、年間20〜100ミリシーベルトにとどめるべきだと勧告しました。国は、この考えを取り入れ、一番厳格な『年間20ミリシーベルト』を採用したものです。
ICRP委員の甲斐倫明大分県立看護科学大教授は、毎日新聞(2011/5/1付け)で次のように語っています。「日本など各国が参考にしているICRPの勧告は、(甲状腺に蓄積しやすい)放射性がヨウ素については子どもへの影響を考慮しているが、空間線量全体としては、年齢の区別を設けずに、目安として示している。『年間20ミリシーベルト』という数値はもともと、放射線を扱う職業の人が生涯働いたとしても、他の職業に比べて健康を害する危険性が上がらないという上限値。この数値であれば、数カ月程度続く原子力災害の間、被ばくしても差し支えないとの考えから、緊急時に適用する住民の目安としてICRPの勧告に盛り込まれた。大切なことは、『20ミリシーベルト』が、安全と危険を分ける境界の値ではないということだ。事故収束後は、場所にかかわらず『年間1ミリシーベルト』に近づけていくべきだ。政府はという数値を、対応を取るかどうかの境界値ではなく、この数値を超えた学校から優先的に対応するという値であると説明すべきだったのではないか」と、『年間20ミリシーベルト』が“安全”と“危険”を分ける値ではないと強調しています。
国の原子力災害現地対策本部は、3月28日から3日間、福島県飯舘村や川俣町の、15歳以下の子供達946人を対象に、甲状腺の被ばく量を測定しました。そして、国の基準値の1時間0.2マイクロシーベルトに対して、最高でも0.07マイクロシーベルトで、子どもたちへの深刻な影響がないことを確認しています。
福島県内の学校などの測定結果は、13の保育園、幼稚園、小中学校で基準以上となり、屋外活動を1日1時間に制限することにしました。また、福島県内の5つの公園でも、基準以上の数値が測定されました。学校では、今後週一回程度の線量調査を続け、2回連続で基準を下回れば、通常の状態に戻す計画です。すでに、一部の地域では、表面の土を削って取り除くことも行われていますが、その削った土をどこで処分するかなど新たな課題も浮上しています。
茨城県での対応について言及すれば、ICRPの勧告の趣旨を活かすならば、『年間20シーベルト』という基準は、一層厳しく運用するべきだと考えます。まずは、学校での放射線量の測定がしっかり出来る体制を整備すること。その上で、全身CTスキャン一回程度の被曝量に相当する『年間10ミリシーベルト』程度の自主運用基準を定めて子どもたちの健康を守る姿勢を示すことが重要と提案します。
2017年前、国際放射線防護委員会(ICRP)は、原発事故など緊急時の一般人の被曝量を、年間20〜100ミリシーベルトにとどめるべきだと勧告しました。国は、この考えを取り入れ、一番厳格な『年間20ミリシーベルト』を採用したものです。
ICRP委員の甲斐倫明大分県立看護科学大教授は、毎日新聞(2011/5/1付け)で次のように語っています。「日本など各国が参考にしているICRPの勧告は、(甲状腺に蓄積しやすい)放射性がヨウ素については子どもへの影響を考慮しているが、空間線量全体としては、年齢の区別を設けずに、目安として示している。『年間20ミリシーベルト』という数値はもともと、放射線を扱う職業の人が生涯働いたとしても、他の職業に比べて健康を害する危険性が上がらないという上限値。この数値であれば、数カ月程度続く原子力災害の間、被ばくしても差し支えないとの考えから、緊急時に適用する住民の目安としてICRPの勧告に盛り込まれた。大切なことは、『20ミリシーベルト』が、安全と危険を分ける境界の値ではないということだ。事故収束後は、場所にかかわらず『年間1ミリシーベルト』に近づけていくべきだ。政府はという数値を、対応を取るかどうかの境界値ではなく、この数値を超えた学校から優先的に対応するという値であると説明すべきだったのではないか」と、『年間20ミリシーベルト』が“安全”と“危険”を分ける値ではないと強調しています。
国の原子力災害現地対策本部は、3月28日から3日間、福島県飯舘村や川俣町の、15歳以下の子供達946人を対象に、甲状腺の被ばく量を測定しました。そして、国の基準値の1時間0.2マイクロシーベルトに対して、最高でも0.07マイクロシーベルトで、子どもたちへの深刻な影響がないことを確認しています。
福島県内の学校などの測定結果は、13の保育園、幼稚園、小中学校で基準以上となり、屋外活動を1日1時間に制限することにしました。また、福島県内の5つの公園でも、基準以上の数値が測定されました。学校では、今後週一回程度の線量調査を続け、2回連続で基準を下回れば、通常の状態に戻す計画です。すでに、一部の地域では、表面の土を削って取り除くことも行われていますが、その削った土をどこで処分するかなど新たな課題も浮上しています。
茨城県での対応について言及すれば、ICRPの勧告の趣旨を活かすならば、『年間20シーベルト』という基準は、一層厳しく運用するべきだと考えます。まずは、学校での放射線量の測定がしっかり出来る体制を整備すること。その上で、全身CTスキャン一回程度の被曝量に相当する『年間10ミリシーベルト』程度の自主運用基準を定めて子どもたちの健康を守る姿勢を示すことが重要と提案します。
平成23年4月29日内閣官房参与の辞任にあたって(辞意表明) 内閣官房参与 小佐古敏荘平成23年3月16日、私、小佐古敏荘は内閣官房参与に任ぜられ、原子力災害の収束に向けての活動を当日から開始いたしました。そして災害後、一ヶ月半以上が経過し、事態収束に向けての各種対策が講じられておりますので、4月30日付けで参与としての活動も一段落させて頂きたいと考え、本日、総理へ退任の報告を行ってきたところです。
なお、この間の内閣官房参与としての活動は、報告書「福島第一発電所事故に対する対策について」にまとめました。これらは総理他、関係の皆様方にお届け致しました。
私の任務は「総理に情報提供や助言」を行うことでありました。政府の行っている活動と重複することを避けるため、原子力災害対策本部、原子力安全委員会、原子力安全・保安院、文部科学省他の活動を逐次レビューし、それらの活動の足りざる部分、不適当と考えられる部分があれば、それに対して情報を提供し、さらに提言という形で助言を行って参りました。
特に、原子力災害対策は「原子力プラントに係わる部分」、「環境、放射線、住民に係わる部分」に分かれますので、私、小佐古は、主として「環境、放射線、住民に係わる部分」といった『放射線防護』を中心とした部分を中心にカバーして参りました。
ただ、プラントの状況と環境・住民への影響は相互に関連しあっておりますので、原子炉システム工学および原子力安全工学の専門家とも連携しながら活動を続けて参りました。
さらに、全体は官邸の判断、政治家の判断とも関連するので、福山哲郎内閣官房副長官、細野豪志総理補佐官、総理から直命を受けている空本誠喜衆議院議員とも連携して参りました。
この間、特に対応が急を要する問題が多くあり、またプラント収束および環境影響・住民広報についての必要な対策が十分には講じられていなかったことから、3月16日、原子力災害対策本部および対策統合本部の支援のための「助言チーム(座長:空本誠喜衆議院議員)」を立ち上げていただきました。まとめた「提言」は、逐次迅速に、官邸および対策本部に提出しました。それらの一部は現実の対策として実現されました。
ただ、まだ対策が講じられていない提言もあります。とりわけ、次に述べる、「法と正義に則り行われるべきこと」、「国際常識とヒューマニズムに則りやっていただくべきこと」の点では考えていることがいくつもあります。今後、政府の対策の内のいくつかのものについては、迅速な見直しおよび正しい対策の実施がなされるよう望むところです。
1.原子力災害の対策は「法と正義」に則ってやっていただきたい
この1ヶ月半、様々な「提言」をしてまいりましたが、その中でも、とりわけ思いますのは、「原子力災害対策も他の災害対策と同様に、原子力災害対策に関連する法律や原子力防災指針、原子力防災マニュアルにその手順、対策が定められており、それに則って進めるのが基本だ」ということです。
しかしながら、今回の原子力災害に対して、官邸および行政機関は、そのことを軽視して、その場かぎりで「臨機応変な対応」を行い、事態収束を遅らせているように見えます。
とりわけ原子力安全委員会は、原子力災害対策において、技術的な指導・助言の中核をなすべき組織ですが、法に基づく手順遂行、放射線防護の基本に基づく判断に随分欠けた所があるように見受けました。例えば、住民の放射線被ばく線量(既に被ばくしたもの、これから被曝すると予測されるもの)は、緊急時迅速放射能予測ネットワークシステム(SPEEDI)によりなされるべきものでありますが、それが法令等に定められている手順どおりに運用されていない。法令、指針等には放射能放出の線源項の決定が困難であることを前提にした定めがあるが、この手順はとられず、その計算結果は使用できる環境下にありながらきちんと活用されなかった。また、公衆の被ばくの状況もSPEEDIにより迅速に評価できるようになっているが、その結果も迅速に公表されていない。
初期のプリュームのサブマージョンに基づく甲状腺の被ばくによる等価線量、とりわけ小児の甲状腺の等価線量については、その数値を20、30km圏の近傍のみならず、福島県全域、茨城県、栃木県、群馬県、他の関東、東北の全域にわたって、隠さず迅速に公開すべきである。さらに、文部科学省所管の日本原子力研究開発機構によるWSPEEDIシステム(数10kmから数1000kmの広域をカバーできるシステム)のデータを隠さず開示し、福島県、茨城県、栃木県、群馬県のみならず、関東、東北全域の、公衆の甲状腺等価線量、並びに実効線量を隠さず国民に開示すべきである。
また、文部科学省においても、放射線規制室および放射線審議会における判断と指示には法手順を軽視しているのではと思わせるものがあります。例えば、放射線業務従事者の緊急時被ばくの「限度」ですが、この件は既に放射線審議会で国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告の国内法令取り入れの議論が、数年間にわたり行われ、審議終了事項として本年1月末に「放射線審議会基本部会中間報告書」として取りまとめられ、500mSvあるいは1Svとすることが勧告されています。法の手順としては、この件につき見解を求められれば、そう答えるべきであるが、立地指針等にしか現れない40−50年前の考え方に基づく、250mSvの数値使用が妥当かとの経済産業大臣、文部科学大臣等の諮問に対する放射線審議会の答申として、「それで妥当」としている。ところが、福島現地での厳しい状況を反映して、今になり500mSvを限度へとの、再引き上げの議論も始まっている状況である。まさに「モグラたたき」的、場当たり的な政策決定のプロセスで官邸と行政機関がとっているように見える。放射線審議会での決定事項をふまえないこの行政上の手続き無視は、根本からただす必要があります。500mSvより低いからいい等の理由から極めて短時間にメールで審議、強引にものを決めるやり方には大きな疑問を感じます。重ねて、この種の何年も議論になった重要事項をその決定事項とは違う趣旨で、「妥当」と判断するのもおかしいと思います。放射線審議会での決定事項をまったく無視したこの決定方法は、誰がそのような方法をとりそのように決定したのかを含めて、明らかにされるべきでありましょう。この点、強く進言いたします。
2.「国際常識とヒューマニズム」に則ってやっていただきたい
緊急時には様々な特例を設けざるを得ないし、そうすることができるわけですが、それにも国際的な常識があります。それを行政側の都合だけで国際的にも非常識な数値で強引に決めていくのはよろしくないし、そのような決定は国際的にも非難されることになります。
今回、福島県の小学校等の校庭利用の線量基準が年間20mSvの被曝を基礎として導出、誘導され、毎時3.8μSvと決定され、文部科学省から通達が出されている。これらの学校では、通常の授業を行おうとしているわけで、その状態は、通常の放射線防護基準に近いもの(年間1mSv,特殊な例でも年間5mSv)で運用すべきで、警戒期ではあるにしても、緊急時(2,3日あるいはせいぜい1,2週間くらい)に運用すべき数値をこの時期に使用するのは、全くの間違いであります。警戒期であることを周知の上、特別な措置をとれば、数カ月間は最大、年間10mSvの使用も不可能ではないが、通常は避けるべきと考えます。年間20mSv近い被ばくをする人は、約8万4千人の原子力発電所の放射線業務従事者でも、極めて少ないのです。この数値を乳児、幼児、小学生に求めることは、学問上の見地からのみならず、私のヒューマニズムからしても受け入れがたいものです。年間10mSvの数値も、ウラン鉱山の残土処分場の中の覆土上でも中々見ることのできない数値で(せいぜい年間数mSvです)、この数値の使用は慎重であるべきであります。
小学校等の校庭の利用基準に対して、この年間20mSvの数値の使用には強く抗議するとともに、再度の見直しを求めます。
また、今回の福島の原子力災害に関して国際原子力機関(IAEA)の調査団が訪日し、4回の調査報告会等が行われているが、そのまとめの報告会開催の情報は、外務省から官邸に連絡が入っていなかった。まさにこれは、国際関係軽視、IAEA軽視ではなかったかと思います。また核物質計量管理、核査察や核物質防護の観点からもIAEAと今回の事故に際して早期から、連携強化を図る必要があるが、これについて、その時点では官邸および行政機関は気付いておらず、原子力外交の機能不全ともいえる。国際常識ある原子力安全行政の復活を強く求めるものである。