「釜石の奇跡」に学ぶ、防災教育の重要性
参考写真 今回の東日本大震災は、東北沿岸部に甚大な津波被害をもたらしましたが、岩手県釜石市では、以前から行っていた防災教育により、市内の小中学生のほぼ全員が、津波被害を受けることなく、「釜石の奇跡」と言われています。釜石市は、津波被害により、死者・行方不明者が1239人(6月17日現在)に上りました。その中で、市内の小中学生約3000人のうち、99.8%が難を逃れました。
 釜石市では2005年から、群馬大学大学院の片田敏孝教授(災害社会工学)とともに津波防災教育に取り組み、2008年度には、文部科学省の「防災教育支援モデル地域」に選定されました。
 片田教授らが徹底したのは(1)想定を信じるな(2)ベストを尽くせ(3)率先避難者たれ―の三原則でした。実際、地震発生直後には、先生の指示より早く避難を始めた生徒や、事前に決めていた避難場所を危険と判断し、率先して高台に避難・誘導した生徒がいるなど、防災教育に基づく行動が奇跡を生んだのです。
 また、生徒の親で亡くなった人数と、市内全体で亡くなった人数の割合を比較しても、前者の方が少ないという結果が報告されています。釜石市の取り組みは、子どもを通じ、家庭や地域社会への防災意識の向上につながった、注目すべき事例だったのではないでしょうか。
 その一方で、宮城県石巻市のある小学校では、生徒の約7割が死亡・行方不明になりました。石巻市教育委員会から、防災危機管理マニュアルで津波時の避難場所を決めておくよう指示があったにもかかわらず、具体的な避難場所を決めていなかったことなどが問題視されています。
 巨大津波が襲った東北の三陸地方では、過去の大地震による津波被害の経験から、ハードの整備強化に力を入れてきました。釜石市では2009年に、約30年の月日をかけて防波堤を建設。岩手県宮古市田老地区は、日本でもトップクラスの防潮堤を完成させるなど、津波への対策は万全かのように思えましたが、想定外の被害に見舞われました。
 当然ながら、防災教育だけがすべてではありません。不測の事態に備えたハード・ソフト両面にわたる対策の重要性はいうまでもありませんが、どれだけ万全の対策を施しても、想定外の災害は起こり得るというのが、今回の最大の教訓だと痛感します。
 ハード面の防災対策を講じつつも、地域の実情に応じた防災計画とともに、日ごろから個々人の防災意識を高めていく施策が求められています。
公明、モデル事業の予算化主張
 公明党は、防災教育の導入や地方自治体のハザードマップの見直し、学校耐震化を進めるとともに、民主党政権により10年度末で打ち切られた「防災教育支援モデル地域事業」の検証、予算化の必要性を主張。同事業については、予想される首都直下型地震、東海・東南海・南海地震に備え、来年度予算案、震災の復旧・復興のための補正予算案で、それぞれの地域を対象に予算化すべきと訴えています。
 茨城県では、大きな津波は来ないという安全神話が存在しました。確かに、今回の震災でも津波の犠牲者は一人もありませんでした。しかし、海沿いの地域では、根拠のない先入観を捨てて、子どもたちの命を守る体制を整備すべきです。
 公明党は、地域の実情にあった防災教育や、今回の震災の検証を踏まえた防災対策の推進に全力で取り組んで参ります。