参考写真 9月1日、開催中の日立市議会で、日立市の震災対策について検討を進めている日立市議会震災復興・防災対策特別委員会(佐藤三夫委員長)の中間報告が発表されました。それによると、震災で大きな被害を受けた公共施設の復旧・復興については、市役所本庁舎や市民運動公園中央体育館は、「建て替えが必要」などとしました。学校施設については、校舎が大きな被害を受け、児童が分散して授業を受けている市立水木小学校の早急な整備を求めています。
 震災復興・防災対策特別委員会は、5月臨時会で「東日本大震災後の復興計画の策定及び今後の防災対策の指針づくりに向けての早急な進捗を図るべく、議会の立場から積極的及び効率的な論詰を展開し、その内容を計画に反映させること」を目的として設置されました。その後、合計11回にわたり開催し、市内の各所、東海第二発電所、福島県沿岸部の被災状況を調査するとともに、今回の震災の課題の検証や執行部から説明を聴取し、9月議会で中間報告を取りまとめたものです。
 この特別委員会の議論は、今後の日立市の復旧・復興の方向性を示すものです。以下、中間報告の概要と井手よしひろ県議の見解を掲載します。
(写真は、大きな被害を受けた市民運動公園中央体育館)
公共施設の復旧・復興
日立市役所本庁舎の建て替え
 今回の震災では、防災拠点の重要性が改めてクローズアップされました。日立市においては、幸いにも消防拠点施設(消防本部)が新築整備されていたことから、ここに災害対策本部を設置して、震災後の対応に当たることができました。
 しかし、防災の拠点機能は本来、市役所本庁舎になければならないものです。
 その上、安心して使える状況にない現在の庁舎では、行政機能を分散せざるを得なかったことから業務が停滞してしまい、なにより市民が相談に訪れることもできない状況でした。
 震災前に実施された耐震診断では、すべての庁舎において耐震性能が不足しているとされており、今回の震災では倒壊こそしませんでしたが、その危険度は極めて高いものと判断せざるを得ない状況です。
 総合的に判断すると、市役所本庁舎については建て替えが必要と判断すべきという見解に至りました。
市民運動公園中央体育館の建て替え
 今回の震災によって大きな被害を受けた公共施設の一つであり、躯体を支える柱の大半が損壊するとともに、地盤沈下の影響による施設の傾きや基礎部の損傷なども懸念されています。
 年間利用者数が20万人を超えるこの施設は、市民生活に必要不可欠であるばかりではなく、また平成31年に茨城県での開催が決定した国体への対応なども考慮すると、建て替えが必要という見解に至りました。
 なお、建て替えの際には、日立市の復興と今後の発展を担う中心的施設と位置付け、規模や付加価値的な機能についても十分検討すべきという意見がありました。
学校・教育施設について
 日立市の学校・教育施設の耐震化の推進については、道半ばという状況です。日立市の未来を託す人材を育てるための良好な学習環境を備えた校舎と、災害時には避難所としての安全性と利便性が求められる体育館の耐震化促進について、率先して取り組むべきです。
 とりわけ、甚大な被害を受け、児童が分散して授業を受けなければならない状況となっている「水木小学校の早急な整備」を望むものです。
防災対策の強化
避難所運営方法の確立・市民との協働こよる災害対応
 今回の震災では、最大で69箇所の避難所が開設され、市職員はもとより地域の方々の大きな力によってその運営が行われました。検証を進めていく中で、行政とコミュニティとの関係、そして連絡・連携についての戸惑いなど数多くの課題が明らかになり、特に行政と地域コミュニティとの情報交換、役割分担の明確化など日頃からの連携強化が大切であるとの意見が多く出されました。また、避難所における高齢者や障害を持った方への対応、在宅の要援護者へのきめ細かな対応、学校で待機となった児童・生徒と家庭との連絡体制の確立など、いわば避難弱者ともいうべき方々への対応についてしっかりとした対策を講じるよう望むものです。
物資及び資器材の備蓄体制の早急な整備
 今回の震災において、物資及び資器材が不足したことは、まざれもない事実であり、そして大きな教訓となりました。
 この反省を踏まえ、市では避難所に配備する必要最低限の資器材確保に動き出したようでありますが、十分な数量を確保していただかなければなりません。
 また、放射線量に対する市民の不安が高まっている中、きちんと計測をして公表することは自治体の役割であり、これらに必要な設備や機器を備えること、断水によって飲料水や生活用水が不足したことを教訓にして、防災井戸の整備や地域の水資源の確認作業をすべきであるといった意見も多く出されました。
 さらに、緊急車両や公用車の燃料確保に苦慮した経験を踏まえ、燃料の備蓄体制の整備の必要性が改めて議論されました。
減災の視点で物事を考える必要性
 今回の震災では、経験したことのない地震の揺れとともに大津波が押し寄せ、沿岸部では甚大な被害が発生しました。
 日立市の地形を考えてみると、海岸部から山間部までの距離が短いことなども含め、避難手段の確保について、その重要性が改めて認識されたところです。自然の力による津波の発生は、防ぎようがありませんが、避難の手立てをあらかじめ講じておくことによって、人的被害等を減じることができます。こうした、いわゆる「減災の視点」で物事を考えることも防災対策の上では重要であり、このような観点から、避難道路の整備促進、特に海岸部を走る国道6号日立バイパスや国道245号、そしてそれらに繋がる沿岸地域からの避難道路の整備促進は不可欠なものです。
 また、一般家庭及び公共施設における太陽光発電の設置促進など、自然エネルギーの活用による電力不足への対応や、今回の震災とは直接的に関連はしませんが、近年問題となっているゲリラ豪雨などの被害を減ずることが期待できる雨水貯留槽の設置促進などについても、取り組まれるよう望むものです。
災害時の情報伝達手段の確保充実
 今回の震災では、津波発生の情報伝達において防災行政無線の重要性が再認識された一方で、多くの課題も明らかになりました。
 いち早く津波情報が発信されたことにより、幸いにも人的被害は発生しませんでしたが、沿岸部の屋外放送塔が被害を受け、戸別受信機の絶対数の不足と市民がその使い方に不慣れであったという問題点も明らかになりました。
 これらの反省点も踏まえ、屋外放送塔の適正な配置や戸別受信機の早急な普及が望まれます。
 また、震災直後からの停電によって情報の入手が困難になる中、コミュニティFM放送(FMひたち)から非常に多くのかつ身近な情報を得ることができました。
 そして、電気の復旧後はケーブルテレビ(J−WAY)による情報発信が有効に機能しました。被害が広範囲にわたった今回のような大震災において、全国や県域の情報もさることながら、地域情報を発信できる手段の確保の重要性が再認識されたところです。
 今後は、こうした地域情報の重要性を認識し、これらの運営基盤の強化にも配慮されるよう望むものです。
災害に強いライフラインの構築
 今回の震災では、電気・ガス・上下水道といったライフラインが寸断され、これらの大切さを改めて認識することになりました。とりわけ命に直結する上水道については、10日間にわたり断水し、我々の日常生活に大きな不便をもたらしました。
 上下水道施設の普及は文化的生活のバロメーターであり、高い普及率を誇る日立市の上下水道施設は市民の誇りでもあります。
 しかし、一方でその歴史は古く、施設の老朽化が進んでいるため、耐用年数経過後も延命化するなどして使用してきましたが、施設の更新そして耐震化が課題となっていたところです。この震災によってその課題が正に現実のものとなり、大きな被害となってしまいました。
 市民に安全で安心な水を安定的に供給し、上下水道施設を維持管理していくためには、施設の耐震化を進めていくことが必要になってまいりますが、高普及率を誇るがゆえにその資産は膨大で、更新には多大な費用がかかることは明らかです。
 これらの更新にあたっての財務確保については、事業の効率化・特定財源の確保により一層努めるとともに、将来に負担を先送りすることは極力避け、受益者負担の視点も念頭に置きながら検討することを望むものです。
原子力災害対策への体制整備と今後の取り組み方
 今回の大震災の被害の中で、未だ方向性の見えないものが、福島第一原子力発電所の事故による影響です。
 東海第二発電所が真近に立地する日立市において、この問題は極めて重要な事項であり、現地調査を含め、集中的に議論をしてきました。
 我々は国策として進められてきた原子力政策を信じ、原子力施設の安全神話を胸に抱いてきました。しかしそれは脆くも崩壊し、原子力災害では想定外のことが起こり得るということを前提に判断をしなければならない状況になったのです。
 さらに、今回の経験からすべての市民が電力の大切さと、原子力災害の深刻さを同時に味わうこととなってしまいましたが、原子力発電に代わる有力な代替手段がない現状においては、発電所が再稼動することを想定しておかなければならない状況におかれています。
 今後、日立市の姿勢として、原子力災害協定等を遵守することはもとより、今回の震災の影響による課題など懸念される事項等については災害協定等の中で明らかにするよう強く要請していくべきです。
 さらには、東海第二発電所の現地視察時にも説明がありましたが、地震対策・津波対策について万全を期すとともに、国の安全基準や再稼動に向けた指針、ストレステスト等の状況についての十分なる説明と、安全と安心の確保方策について強く求めるべきです。
 また、現在は立地、隣接市町村として区別されている原子力施策等に対する考え方についても、日立市の場合は東海村と同一の敷地内にあるというような認識を常に持つことが必要であり、今回の災害では20キロ圏内、30キロ圏内という基準で物事が取り決められたという事実も踏まえ、現実的な基準の制度化を国に対して求めていくべきです。
 東海第二発電所に近接する自治体として、このような点を十分に認識され、毅然とした姿勢で臨んでいただくよう委員会として強く望むものです。
新エネルギー基地整備に関する提案
 茨城港日立港区においてLNG基地の整備計画が進められています。日立市にとっては、将来に向けたこの大きなプロジェクトを考えるとき、今後の復興のシンボルとして、LNG基地の整備とパイプラインの敷設のみにとどめず、日立市としてLNGを使った発電など、夢のある活用策を検討しても良いのではないかと思います。
井手よしひろ県議の見解
 日立市議会震災復興・防災対策特別委員会の中間報告に関して、検討の方向性には概ね賛成です。しかし、その財源確保について、より具体的な検討・提案が必要です。
 また、東海第2発電所について、「原子力発電に代わる有力な代替手段がない現状においては、発電所が再稼動することを想定しておかなければならない状況におかれています」との報告は、この発電所が「東海第2発電所」を指すのであれば、再稼働を前提に議論を進めるのは、いささか早計であると考えます。東海第2発電所の現状を詳らかに考察し、場合によっては再稼働も容認できないと言った毅然たる姿勢が望まれます。予断無き冷静な議論を望みます。