参考写真 12月13日、厚生労働省は本来より2.5%高くなっている年金の「特例水準」に関し、来年(2012年)10月から年金額を引き下げ、3年間で元の水準に戻す方針を決めました。同日行われた民主党社会保障と税の一体改革調査会の役員会に報告し、了承されました。果たして、年金水準を引き下げるほど、高齢者の生活は豊なのでしょうか?
 実は、こうした議論と全く反対の厳しい状況が深刻化しています。
貧困率:50〜54歳を境に上昇、社会保障の担い手不足が鮮明に
 2011年版の「高齢社会白書」(内閣府)によると、65歳以上の高齢者人口が過去最高の2958万人(前年2901万人)に達し、総人口に占める割合(高齢化率)は23.1%(前年22.7%)に達しています。
 65歳以上の高齢者人口と15〜64歳の生産年齢人口で見た社会の支え手は、1960年には1人の高齢者に対して11.2人でしたが、昨年には2.8人にまで減りました。高齢者を中心とした医療費などの社会保障支出が膨張し続ける中で、社会保障制度を支える現役世代の減少は極めて深刻な問題となっています。
 他方で少子高齢化の進展は、高齢者の貧困という社会保障の根幹にも影響する問題を浮き彫りにしています。特に、高齢女性の貧困化は深刻です。
 内閣府の男女共同参画局が公表した資料によると、50〜54歳の年齢層を境に男女ともに貧困率(厚生労働省によると実質年収112万円以下の人々の割合)が上昇。一方で、高齢女性の貧困率は年齢が上がるほど、男性以上に悪化していることが明らかになりました。
 男女差が最も大きいのは70〜74歳。女性は男性に比べて1割近く貧困率が高くなっています。そして、この傾向は未婚や死別など夫を持たない女性でより高くなっています。
女性の単独世帯で深刻/離婚の増加や年金制度などが影響
 高齢者の収入は7割が公的年金だが、高齢者世帯のうち4割を占める女性の単独世帯は収入が他の高齢者世帯よりも圧倒的に低い状況にあります。
 実際のデータでも男性受給者の半数近くが年間200万円以上に集中するのに対し、女性受給者の多くは年間60〜80万円台に集中しています。
 この背景は1961年の国民皆年金制度の成立時にさかのぼります。当時の厚生年金は20年以上の加入が支給の要件。そのため会社勤務を数年で辞めて結婚した女性は、年金が掛け捨てになる恐れがあったため、一時金として年金を受け取る「脱退手当金」を選ぶ人が多くいました。
 また、1986年(昭和61年)に第3号被保険者制度が整備されるまで、サラリーマンの妻の国民年金は任意加入とされていました。
 こうした背景や離婚の増加など社会情勢の大きな変化が重なって、現在の年金の受取額を結果的に少なくしてしまったと見られます。
 今では低所得状況から抜け出すために非正規雇用として働く女性が増えていますが、65歳以上で働いている女性の4人に1人は、働いても暮らしが楽にならない「ワーキング・プア」であるとの指摘もあります。
 現在、IT(情報技術)の進歩で、コンピューター操作など、求められる職業能力も大きく変化しています。こうした点も高齢女性が雇用されにくい状況をつくっているのが現実です。
雇用の確保がカギに、スウェーデンでは女性が医療、福祉を支える
 ワーク・ライフ・バランス(仕事と家庭の両立)の先進国として知られるスウェーデン。1960年代に起きた急激な経済成長で労働力不足を招いたこの国では、労働力確保の観点から高齢者や女性の社会進出を積極的に推し進めました。
 自分の能力に適した雇用機会を行政も一体となって提供することで、社会参加に関する高齢者の満足度も高くなっています。
 女性や高齢者の社会進出が高まったことで、長期にわたる育児休暇の取得や保育所などの周辺環境も整備され、80年代半ば以降には出生率を回復させることに成功しています。
 そして、スウェーデンの就業人口の3割以上は医療、福祉分野などの公共機関で公務員として働いています。また、特に働く女性の割合が高いことでも知られています。
 北欧諸国では意図的に公共機関の規模を増やしており、ここでの女性の雇用率を高める労働政策が結果的に女性の貧困問題を解消しています。
 経済協力開発機構(OECD)の11年版の報告書によると、2005〜10年までの日本の貧困率は15.7%に達し、OECD加盟諸国の貧困率の平均11.1%を上回っています。
 また、高齢女性の貧困問題に加えて、20〜25歳の男性の貧困率が上昇している厳しい現実もあります。こうした状況下では、公明党がめざす「新しい福祉社会ビジョン」で掲げるように社会保障のセーフティーネット(安全網)機能を強化する必要があります。高度経済成長期のような急成長が望めない中での新たな社会保障制度の構築が急がれます。