9月7日、群馬県議会公明党議員団(福重隆浩県議、水野俊雄県議)が茨城県議会を訪れ、茨城県が日本で最初に取り入れた新たな資金調達の仕組みである「レベニュー信託」について聴き取り調査を行いました。これには、井手よしひろ県議も同席し、改めてレベニュー信託(レベニュー債)の今後の課題などについても意見交換しました。
参考写真 日本において地方債は、一般会計債と公営企業債の2種に大別されます。しかし、いずれも地方自治体の信用力によって債権が発行されているため、借入期間や資金区別が同じであれば、借入金利は同じであり、実質上の違いはありません。
 一方、アメリカにおける地方債は、一般財源保証債(General Obligation Bond)とレベニュー債(Revenue Bond)に大別されます。日本の地方債は、一般会計債にせよ公営企業債にせよ、一般財源保証債の範疇に入るものといえます。
 今回話題となっているレベニュー債は、「特定の事業から上がる収益によって、元利償還が保証される」仕組みです。
 このレベニュー債をエコフロンティアかさまの資金調達手法として、茨城県が検討を始めたきっかけは、平成22年6月の県議会総務企画委員会での、井手よしひろ県議の「茨城県においてもレベニュー債を研究してはどうか」という提案でした。
エコフロンティアかさまの財務問題
 エコフロンティアかさまは、県が関与する財団法人茨城県環境保全事業団が、茨城県笠間市福田地区に平成17年8月に開設した産業廃棄物の処理施設です。管理型の最終処分場とガス化溶融炉を持つ焼却施設をもっています。
 当初の資金計画においては、施設の建設資金の約80%(182億円)を金融機関から借入、10年間の事業期間で償還する予定でした。当然、従来の資金調達の枠組みであり、182億円の借入に対して、全額県の損失補償が付けられました。
 しかしながら、開業後、ゴミの減量化やリサイクル技術が進む一方で、長引く景気低迷で廃棄物処理をめぐる環境は大きく変化し、当初計画したゴミの量を確保することができず、売上高は当初見込みより大幅に減少し、25億円程度にとどまっていました。反面、借入返済金は年間約20億円であり、そのために資金収入不足が発生したため、県は単年度貸付を繰り返してきました。その年の赤字分を貸付、その次年度も赤字が増える構造が続き、貸出の累計は増加の一方。粉飾的な決算が続いていたといっても過言ではありません。
 このままの運営を続けていたならば、エコフロンティアかさまは営業状況は良くても、財務上破綻し、その負債は全て損失補償を行っている県が負わなくてはならいということになります。
資金計画に直しの2つの課題
 エコフロンティアかさまは、資金計画を見直すに当たって2つの大きな課題にぶち当たりました。
 その一つは、住民との協議により当初10年としていた事業期間を延長させるということです。最初の計画では10年で最終処分場は一杯になると見込んでいましたが、その計画は見事に破綻し、20年以上継続して使用できるようになりました。事業期間の延長を環境保全事業団と県は、地元笠間市の協力を受けて、懇切丁寧に地元の皆さまと協議しました。そして、平成22年11月に、事業延長を基本とする事業計画の見直しについて地元住民の理解を得ることが出来ました。
 もう一つの課題は、約145億円の借入金の返済計画の見直しです。「借入期間を大幅に延長し、県民の負担を無くすために県の損失保障を外す」という全く相反する二つの条件をクリアすることは、現状の資金調達の仕組みでは全く困難を極めました。
 この隘路を突破するヒントが、平成22年6月の井手県議の“レベニュー債導入提案”でした。井手県議は、当初、県が行う水道や工業用水、下水処理などの従来事業や太陽光、風力などの新エネルギー、ゴミ焼却場などの新規建設の財源に活用できるとの確信から、レベニュー債導入を検討するよう県財政当局に求めました。
 この提案に対して当時の財政課長は、次のように答弁しました。「資金調達については、昨今、県債の借入残高が急増しています。一般会計で1兆9000億円ということになろうとしています。その資金の調達をどう効率的に、合理的にやっていくかというのは、私どもにとって最大の課題です。昨年度(平成21年)中途から、民間の銀行の経験者の方を資金管理監というポストで採用させていただきまして、資金調達の多様化について、いろいろな研究を進めているところです」と、ゴールドマンサックなどの海外の投資銀行も含めた新たな資金調達方の研究を約束しました。
レベニュー信託の創設
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 レベニュー債は、アメリカにおいては地方自治体の資金調達の一般的な手法であり、長い実績の積み重ねと発行の枠組みが確立しています。一方、日本においては、全く枠組みもなく、類似の成功例も見あたりませんでした。
 これまでの売上を基にした事業計画では、145億円の借入残金を償還するためには約24年の超長期の融資を受けなくてはならいないことになります。日本国内の金融機関は、いずれも交渉の入り口で“無理!”との結論。全く新しい発想での取り組みが必要でした。そしてこれを可能としたのが、世界最大の投資銀行ゴールドマン・サックス社です。
 当時ゴールドマン・サックスの執行役員であった岡本三成氏をリーダーとするチームが、茨城県の財政担当者と四つに組んで、日本初のレベニュー債発行に向けての具体的な作業に取り組みました。一方、茨城県側責任者は、当時、茨城県環境保全事業団の理事長でもあった上月良祐副知事。県政のトップが意志決定の最前線にいたことが、レベニュー債実現の要因でした。
 レベニュー債の基本的な仕組みは、エコフロンティアかさまの将来の売上(産業廃棄物処理委託料)を基に、資金調達を行うというものです。今回のエコフロンティアかさまは資金の借換であったために、売上を一旦信託銀行に信託し、その信託受益権を売買し資金を調達するという手法を採用しました。
 レベニュー信託の償還期間については、コントロールド・アモチゼーション方式を採用し24年を基本としますが、売上げが好調な場合は繰り上げ償還が可能となる一方、最長10年間の繰り延べを可能としました。これにより、エコフロンティアかさまは経営の自由度が増し、資金調達に左右されず、安定的な経営が可能となりました。
 今回、石巻からの災害がれきを搬入できるのも、こうした経営のバックボーンが確立されたからとも言えます。