参考写真 山中伸弥京大教授のノーベル医学・生理学賞の受賞は、今年一番の明るい話題と言えます。この山中教授の口癖は「まだこの技術は完成していない。1人の患者さんの命も救っていない」という言葉です。iPS細胞が臨床の場で活用されるまで、山中教授を中心とする研究者の努力が続くことになります。
 iPS細胞とは、筋肉や神経、肝臓など、体のあらゆる組織や臓器の細胞に変化することができ、また、ほぼ無限に増やすことができる細胞で、「万能細胞」とも呼ばれています。
 たとえば、iPS細胞から神経細胞や心筋細胞などを作り出すことで、パーキンソン病や心疾患、脊髄損傷、糖尿病などの患者に移植する再生医療が大きく進展し、薬の開発にも応用が可能となります。
 また、難病の発症原因や治療法の発見にもつながることが期待されています。
 しかし、実際に治療に使うiPS細胞を患者自身の細胞から作製して移植する場合、倫理的な問題や拒絶反応は回避できる反面、1000万円を超える莫大な費用と半年以上の時間がかかってしまい、実用的ではありません。
 また、第三者が提供する体細胞でiPS細胞を作製する場合には、拒絶反応が起きないように、血液の輸血に血液型(A型、B型、AB型、O型など)と同様に、HLAホモドナー(多くの他人に移植できるHLAという白血球の型をもっ提供者)を見つける必要があります。しかし、白血球の形は非常に多いために、多くのHAL型を調べなくてはなりません。140人のHLAホモドナーがいれば、ほぼ90%の日本人を力パーできますが、そのためには20万人もの日本人のHLA型を調べる必要があり、費用は約60億円にのぼります。
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 こうしたことから、いま注目されているのが、白血病治療などに有効な「さい帯血」の存在です。公的バンクに保存されているさい帯血からは、HLAのドナー情報がわかるうえ、良質なiPS細胞を作ることができると言われています。
 つまり、iPS研究にさい帯血を活用することによって、あらかじめ多くの人が使えるiPS細胞を作り、備蓄することが可能になるのです。
 そもそもさい帯血を日本の医療の中に、位置づけたのは公明党の戦いでした。15年前、さい帯血といっても、その言葉さえ知る人は少ない状況でした。
 NPO法人「さい帯血国際患者支援の会」理事長の有田美智世さんは、当時を振り返って語っています。「お腹の中で赤ちゃんの命を育んできた『さい帯血』は、命のお母さんと言えます。この『さい帯血』を使って行うさい帯血移植などの造血幹細胞移植は、白血病など、重い血液の病気に苦しむ患者さんが最後に希望を託す治療法です。しかし、こうした治療法や、さい帯血を供給するさい帯血バンクに法的な根拠がなかったため、患者さんに最適な移植を提供するには、どうしても法整備を急ぐ必要がありました」。
 2012年5月。有田さんは、「さい帯血移植」について早期に法整備してほしいという要望書を手に、公明党に協力を求めました。
 それを受けて、まずさい帯血法整備推進プロジェクトチーム(PT)を設置。関係者からの意見聴取や視察を重ね、6月には野党4党による法案を国会に提出。9月6日に国会議員が全員賛成する全会一致という形で可決・成立したのが「造血幹細胞移植推進法」です。
 この法律は、白血病など重い血液の病気に苦しむ患者さんに対して、造血幹細胞移植をより安全に、よりその患者さんに合った形で行うための法律です。さらに、第35条には、さい帯血の研究目的の利用が定められています。このことによって、さい帯血ドナーのHLA型の情報を認識したり、さい帯血そのものをiPS細胞ストックの作製に活用することができるようになったのです。
 「さい帯血から生まれるiPS細胞はとても優秀で、さまざまな細胞に変わる力をもっている」と、山中教授は語っています。これまで、さい帯血を提供してくださるお母さんは、造血幹細胞移植の治療に使うことを承諾してくださっていますが、当時はiPS細胞研究はまだ実現していなかったため、iPS細胞の研究やその造血幹細胞からiPS細胞を作ることには、明確な同意をしていないのです。
 また、さい帯血は半永久的に保存が可能であるにもかかわらず、さい帯血パンクでは保存から10年を経過したさい帯血は破棄することになっています。この『造血幹細胞移植推進法』によって、移植には用いられないけれど、品質の良いさい帯血を使ってiPS細胞治療などの研究が一層進むことが期待されています。iPS細胞の開発・作製によっていま、さい帯血の新しい可能性が開かれようとしています。
 山中伸弥教授は、「さい帯血という宝の山をiPS細胞という違う形で患者のために使わせてもらいたい」「なんとしても移植可能なレベルのiPS細胞第1号をつくらなければならない」と、再生医療におけるさい帯血の可能性と研究の重要性を改めて強調しています。
 また、現行の制度では、国立の研究機関で働く知的財産管理者などの大半が非正規雇用となっています。研究を支え、進めていく専門技能をもっ職員の長期雇用が確保されないと、研究全体に影響が及ぶことから、こうした研究者の雇用環境の早急な整備について、公明党再生医療推進PTは11月に実態調査を実施。検討が進められています。
 すでに、2012年の春から山中教授の研究を支援する活動を進めてきた有田さんは、「多くの方の命を救うことにつながった、あのさい帯血の署名のときと同じように、保存されたさい帯血がiPS細胞の研究に必ず役立つよう、私たちもいままで以上に全力で支援を進めていきます。こうしたいのちのリレーが、政治の場でも着実につながっていることは、とても心強いですし、医療行政を動かすパワーにしていきたい!」と再生医療推進の政治への期待を述べています。