参考写真 東日本大震災から丸2年目を迎える今年。その代えがたい震災の教訓を生かして、障がい者や高齢者の防災対策の整備を前進させる1年にしたいと思います。
 地震や津波などが発生すると、高齢者や障がい者、妊婦、乳幼児などは1人で避難することは困難です。こうした災害弱者は「災害時要援護者」と位置付けられています。
 政府の「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」によると、災害時要援護者は、介護保険で要介護3以上(自力歩行などが困難)の居宅生活者や身体障害(1、2級)の人、一人暮らしの高齢者などが対象になっています。
 東日本大震災でも犠牲者の多くが高齢者でした。今後も高齢化や一人暮らし世帯の増加で、要援護者はますます増えていくことが予想される。首都直下地震や、東海・東南海・南海地震の三連動地震などに備え、その対策は緊急課題といえます。
 政府は市区町村に対し、同ガイドラインを参考に、要援護者が避難する際の優先順位などの方針(全体計画、災害時要援護者名簿、個別計画)を策定するよう求めています。
 しかし、消防庁が昨年7月に公表した直近の調査結果によると、個々の要援護者に対して、「誰が」「どこに」避難させるかを具体的に定める「個別計画」を策定している市区町村は、全体(1742団体)のわずか28.8%(501団体)にとどまっているのが現状です(2012年4月1日現在)。
 この個別計画を策定途中の市区町村は58.9%(1026団体)あるものの、いまだ着手していないところが12.3%(215団体)に及んでいます。
 また、この調査によると、要援護者の名簿を整備しているところは64.1%(1117団体)です。災害は、いつ襲ってくるか分かりません。要援護者の犠牲を最小限に抑えるために、個別計画の策定や名簿の整備を早急に進めるべきです。
参考写真 ただ、名簿の取り扱いについては、個人情報保護の観点から民生委員や自治会長など限定した人が管理している場合が多いが現実です。仮に民生委員などが被災すると、要援護者を救助したくても情報がなく、対応できない事態も想定されています。
 個人情報の取り扱いは当然、慎重であるべきですが、その上で、命を守るためには、消防団など防災関係機関を含め情報の共有化をある程度広げることも早急に検討すべき課題といえます。
 個人情報保護の壁を克服し、その後の避難所生活を支援していくためにも、障害者の情報を警察や消防や自衛隊や福祉機関などが連携して「要支援者名簿」の共有化に取り組んでいくことが重要です。個人情報保護法が逆に要支援者支援の大きなボトル・ネックとなっています。
 たとえば、緊急用の人工呼吸器やそのバッテリーへの補助を、人工呼吸器を装着している方にお知らせいようとしても、「個人情報に属する情報は開示できない」と、その情報を開示していただくことはできませんでした。これは大震災発生時も変わりません。災害現場に駆けつけるのは警察や消防や自衛隊の方々でさえ、障害者や支援が必要な方がどこにいるかを把握しているわけではありません。
 一方、民生委員や自治体の福祉行政担当者は障害者の情報を正確に把握しています。反面、民生員や行政の関係者は、現場に駆けつけ障害者を救出するだけの能力や権限がありません。
 繰り返しになりますが、自治体が中心となり、警察・消防・自衛隊・地域自治会などの連携のもとに、障害者救援をじんそく迅速に行うための条例制定や個人情報保護の柔軟な運用に取り組むことが必要です。
 福島県点字図書館長の中村雅彦氏は、月刊誌「第三文明」1月号に「向こう三軒両隣の精神〜あと少しの支援でノーマライゼーションの社会をつくる〜」という以下のような記事を寄せています。
向こう三軒両隣の精神〜あと少しの支援でノーマライゼーションの社会をつくる〜
福島県点字図書館長の中村雅彦氏(第三文明:2013/1号)
 障害者の個人情報を扱う管理者を事前に設定し、守秘義務を徹底し、限られた範囲で運用していけば、障害者の信頼や安心感は得られると思います。また、ありとあらゆる個人情報を「要支援者名簿」に記載する必要はありません。たとえば、障害者自身の家庭環境や生活状態などは、災害救援時には不要な情報だと思います。本人の自由意思のもとに情報公開の範囲を柔軟に設定できるようにすれば、法改正の必要なく、個人情報保護に配慮した障害者救援が可能になるのです。
 法の運用や条例を変えることができれば、地域社会のあり方も自然に変わっていきます。地域に「声かけ」や「あいさつ」などの心の触れあいも生まれ、かつて日本のどこにでも存在していた「向こうよみがえ三軒両隣の精神」が蘇ってきます。
 つまり、人と人の絆が強まり、地域活性化につながっていくのです。
 実は個人情報保護の課題を克服していくことは、地域社会の魅力や底力を引き出していくことにも通じるのです。

 また、縦割り行政の壁も越えなければなりません。福祉の現場が中心となって作る「災害時要援護者名簿」に難病患者が入っていない事例が、県内市区町村にも散見されます。難病対策は都道府県事業のため、市区町村には、障害者の認定がない限り、患者の情報が入らないのです。難病患者の情報の共有化ができていません。都道府県と市区町村との情報共有をどう図るか、喫緊の課題です。
 先程の人工呼吸器の問題にしても、ALSなどの難病患者の情報が地域では共有できていません。停電などのアクシデントの対応には、一分一秒の猶予もないのです。
 こうした視点を重視し、地域に安心・安全のネットワークを広げていきたいと思います。