一刻も早くネット選挙の解禁を
参考写真 インターネットを使った選挙運動が、この夏の参院選から解禁される見通しになりました。1月15日までに、自民党は28日召集予定の通常国会に公職選挙法改正案を提出する方針を決めました。召集前に公明党との協議を開始し、自公両党で法案を作成し、昨年の特別国会に独自の法案を提出したみんなの党や日本維新の会にも協議を呼びかけ、最終的には与野党の共同提案で3月末までの成立を目指す見込みです。
 現行の公選法は、選挙期間中にネット上で選挙活動をすることを禁じている。しかし、各党は選挙戦の最中でも党首の遊説日程を掲載するなど、候補者への投票呼び掛けをしない範囲でネットを活用し、警察や選挙管理委員会も黙認をしている状況です。
 昨年末の衆院選では、維新代表代行の橋下徹大阪市長がツィッターを更新し続け、「逮捕されるかもしれない」などとつぶやいたことは大きな話題となりました。
 2010年には、公明党を含む与野党が選挙期間中のホームページとブログの更新を認める公職選挙法改正で合意しましたが、当時の鳩山首相の辞任に伴う混乱で頓挫した経緯があります。その後も民主党政権は、口ではネット選挙解禁を語るものの、実際には真剣に取り込もうとはせず、実現しないまま現在に至っています。
 現行の公選法では、投票依頼などの選挙運動のために利用する印刷物など(文書図画)について、認められたハガキやビラなどを除き「頒布(不特定または多数の人に配ること)」や「掲示」はできないと規定しています。配布可能な文書などを指定しているため、公選法が想定していないインターネット上の文書なども、この「文書図画」に当たるとして、掲載が認められていません。
 このため、各候補者は選挙期間に入る直前で一斉にホームページの更新やツイッターでの発信などをストップしています。
 しかし、パソコンや携帯電話などによるインターネットの利用率が約8割に上る時代にあって、こうした規定が実態にそぐわなくなっていることは否定できません。
 公明党は先の衆院選重点政策(マニフェスト)で「インターネットを使った選挙運動の解禁を実現します」と掲げている。安倍首相も「(今夏の)参院選までの解禁をめざしていきたい」と前向きな姿勢を示していました。
 選挙運動にインターネットを活用する大きなメリットは、候補者らが比較的お金をかけず簡単に自らの政策や主張を発信できることです。公選法で文書図画の頒布や掲示が厳しく制限されているのは、候補者の資金力などにかかわらず選挙の公平性を確保するためとされていますが、インターネットの活用は十分に、その要請を満たすことができます。
 さらに、インターネットを活用すれば、候補者側は話題性のあるテーマについて有権者にタイミングよく見解を示すこともできるし、政策分野別や年代別など有権者の関心に合わせて多様な情報を発信することも可能になります。
 メディア・ジャーナリストの津田大介氏はその著書「ウェブで政治を動かす!」の中で、政治の持つ二つの側面、政局と政策を明確に立て分けた上で、いわゆるマスコミが政局報道に力点を置き、本来国民生活により重要な“政策”を伝えてこなかったと指摘しています。その上で、インターネットのような新しい情報技術は、政策決定過程の透明化や、決定過程に大きな力を持つと指摘しています。選挙という、政治の大きな局面でネット情報は、有権者の判断材料を増やすとともに、有権者からの情報を候補者や政党に集約する機能も有し、ネット選挙を早期に解禁することが日本の民主主義を進める上でも重要な視点です。
ネット選挙の課題
 しかし、ネット選挙解禁には課題もあります。
 ネット選挙が活発なアメリカや韓国では、それまで以上に対立候補への誹謗中傷やイメージダウンを狙ったネガティブキャンペーンが横行しています。ブログやフェイスブックでは外部からの書き込みが可能なため、悪質な書き込みを監視する対策などが必要です。
 また、候補者と偽る「なりすまし」行為も懸念されます。候補者本人の情報であることを裏付ける仕組みなどを確立しなければ、有権者に混乱を招く可能性もあります。
 国政レベルの選挙であれば、マスコミがネット情報の修正に一役買ってくれることもありますが、地方選挙ではネットでの悪宣伝が、候補者に致命的なダメージを与えることも想定できます。
 ネット選挙の解禁は時代の要請です。課題を一つ一つ乗り越え、着実に前進させていくことが重要です。
若者と政治つなぐ鍵に、意識変化で投票率向上に期待
 若者にとって、インターネットは身近な情報収集手段となっています。このため、ネット選挙の解禁は若者の政治参加を促す鍵としても期待されています。
 若者の投票率は他の世代に比べて低い傾向が続いています。このことは若者の政治に対する関心の低さを表しているとみることもできるが、若者が政治に関与する機会が少なく、投票先を判断するだけの情報を十分に得られない実態を示しているとも考えられます。
 ネット選挙を解禁すれば、若者が選挙情報を得る手段は大きく広がる。政治や選挙に対する意識が変わり、投票率の向上にもつながるとの期待は大きくなっています。
 同時に、入手した情報を適切に判断する力を身につけることも大事です。例えば、英国ではシティズンシップ(市民)教育に関する教科が中等教育段階で必修となっており、米国では小学校の段階で情報源の重要性を教え込み、自分の意見を決める判断力の訓練が行われています。日本では、こうした取り組みが十分に行われているとは言い難く、ネット上の不確かな情報を峻別する能力を育てなければなりません。
障がい者の権利保障を、選挙情報の収集など制約多く
 ネット選挙の解禁は障がい者にもメリットがあります。
 目や耳などに障がいがある人は、情報を得ること自体が健常者よりも難しい場合があります。全国盲ろう者協会は「選挙に関する情報提供のチャンネルが増えること自体は望ましい」と一定の評価をするものの、障がい者が利用しやすい環境整備を伴わなければ「絵に描いた餅になる」と指摘しています。
 先の衆院選では、国政選挙で初めて選挙公報が各都道府県の選挙管理委員会のホームページに掲載されましたが、政見放送を含め、障がい者に配慮した形で選挙情報を提供すれば、障がい者の情報収集手段の拡大につながります。
 また、話すことができないろうあ者の場合、選挙で応援したい候補者がいても現状ではメールなど文字による投票依頼は規制されているため、改善を求める意見があります。どのような形なら認められるのか、選挙への参加という視点から検討が必要です。
 現在の制度でも、障がい者はあらゆる面で多くの制約を受けています。音声で聞ける選挙公報のさらなる普及や、政見放送への字幕表示や手話通訳設置の義務化など、進められる対策から実施に移していくべきです。
 インターネットを効果的に活用していくとともに、障がい者の権利保障を前進させる必要があります。
重要さ増す政党の役割、求められる情報の発信・集約力
 インターネットの活用で、政治と有権者との“交流”が拡大することは、民主主義を前進させることにつながります。これまで拾い上げることが難しかった多様な意見を政治に反映することができるようになるからです。
 そこで重要さを増してくるのは政党の役割です。
 議会制民主主義において、主権者である国民の声を基に政策を決定し、政治を動かす役割を担っているのは政党です。政党には、国民に対し的確な情報を発信する力とともに、国民からの情報を集約し政策にまとめ上げる力が、これまで以上に求められることになります。
 政党に対して「有権者との接点が少なすぎる」との指摘が目立っているが、インターネットは政党や政治家が有権者とのコミュニケーションを深める重要なツール(道具)になり得る可能性を秘めています。
 国民のニーズ(要望)の多様化や、人口減少、高齢化などの社会構造の変化を受け、政治の“かじ取り”が国民生活などに与える影響はますます大きくなっています。
 政党には国民と真摯に向き合う姿勢が問われているのです。