130725nhk インターネットを使った選挙運動が解禁され、マスコミ各社はその効果について様々な検証報道を行っています。
 その代表的なものを列記してみたいと思います。NHKの調査では、立候補の9割がソーシャルメディア(SNS:facebook、twitter、LINEなど)アカウント作成やブログ、公式サイト等、ネット媒体を活用したとしています。
 しかし、全体の投票率は、前回57.92%から5.31%も低下し、52.61%となりました。平成4年参院選の50.72%に続くワースト3位となりました。ネット選挙解禁によって新たな投票行為を誘導する効果は乏しかったようです。
 さらに共同通信の調査は、ネット選挙解禁に関する厳しい現実を明らかにしています。参院選の投票日の21日に全国8万人を対象に実施した「出口調査」では、ネット上の情報を参考にしたいのは10.2%に止まり、参考にしなかったと回答した人が実に86.1%に達しています。
 また、調査の分母は少ないもののマクロミル社が全国の有権者2000人に行った調査では、有権者がネット上のどんな媒体から情報を取得したかを聞いた調査では、候補者や政党のネット上の情報に一切触れていなかった人が約7割と一番多くなっています。高いのがニュースサイトといった結果となりました。
 こうした分析の中で気になるのがNHKの対応です。NHKは“クローズアップ現代”などの番組で「検証“ネット選挙”」と題した報道を行っています。その主旨をNHKのホームページから引用すると
検証“ネット選挙”
NHKクローズアップ現代
 自民党が圧勝した参議院選挙。今回、新たにインターネットを使った選挙運動が解禁された。中でも党をあげて積極的に取り組んたのが自民党。インターネット上を飛び交う膨大な有権者の声などを分析するチームを独自に立ち上げ、選挙戦略に役立てた。“ネット選挙”の解禁は選挙をどう変えたのか。そして有権者の判断にどのような影響を与えたのか。選挙戦最前線の取材とNHKが独自に行ったビッグデータ分析などをもとに、“ネット選挙”の可能性と課題を多角的に検証する。

 それによるとNHKは、2800万件に上るtwitter情報=ビッグデータを分析し、様々な考察を加えています。もちろんtwitterが重要な情報媒体であることは否定しませんが、そもそも選挙運動にとってtwitterは“旬”なツールであったのか大きな疑問があります。twitterのビックデータ分析で、ネット選挙自体を語ることはあまりにも安直なような気がします。
 私も情報の発信者として、ブログ、facebook、twitterを活用しました。twitterは災害時などに一斉に、瞬時に情報を拡散する力は優れていますが、政策や主張、実績などをじっくりと発信する媒体ではありません。選挙に関して言えば、演説会の告知や「ありがとう」「感謝します」「よろしくお願いいたします」といった言葉の断片しか伝えられません。私も選挙時のtwitterへの投稿は、facebookやブログの記事を自動で流す設定にしているに過ぎません。
 NHKの番組では自民党のネットチームが取材の対象となっていましたが、自民党が主力においてのはtwitterではなく、安倍総理のfacebookであり、twitterやLINEは、そこへ誘導するツールであるといえたではないでしょうか。また、twitterの投稿数が共産党が断トツとの報道もありましたが、候補者数が他党に比べて格段に多いことや、組織的に投稿を候補者に義務づけたことなどを考慮すると、それは党毎の戦略の違いと解説する方が正しいのではないでしょうか。
 twitterという媒体だけからネット選挙の本質を見いだそうとしたこと自体に、NHKの報道の限界があったような気がします。逆に言うと、twitterのビックデータ分析が前面に出すぎており、それぞれの政党の特徴やネット戦略の方向性を視聴者に全く伝えきれていませんでした。

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 こうした視点で見ると、7月18日に公表されたビッグデータ分析のベンチャー企業であるユーザーローカル社の分析結果は、非常に当を得たものであったと評価します。
 ユーザローカル社の分析では、各政党のセット戦略の特徴を見事に分析しています。
各政党のソーシャルメディア活用度調査を発表。ネット選挙解禁で政党のLINE利用が活発化
ユーザーローカル
 自民、公明、みんなの党がSNSでファンを多く獲得していることがわかります。SNSのうちでは、LINEがもっとも多いファンを獲得しています。個別の特徴としては、みんなの党はtwitterのファン比率が高く、twitterユーザーとの親和性が高いことがうかがえます。自民はFacebookページでの割合が高い結果となりました。公明党は全政党中もっともLINEの友だち(ファン)を多く獲得していることがわかります。

 さらに、参院選挙後の様々な識者の分析では、ITビジネスアナリスト・顧客視点アドバイザーである大元隆志氏の「ネット上の接触よりリアルへの誘導が得票へ繋がる」が、正鵠を得た主張だと思います。
 少し長い引用になりますが、以下ご紹介します。
ネット上の接触よりリアルへの誘導が得票へ繋がる
人と人とのリアルの接触が大切

ITビジネスアナリスト・顧客視点アドバイザー・大元隆志氏
 では、どうすべきだったという点だが、選挙は「人と人とのリアルな繋がり」で「得票」へと繋がるのではないかということだ。今回選挙報道で印象的だったのは、石破茂氏の顔の黒さだった。ネットではこの顔の黒さを笑う人も居るようだが、この顔の黒さは石破氏がどれだけ街頭演説に駆けずり回ったのかという立派な証拠では無いかと思う。今年は記録的な猛暑でもあり、これだけ日焼けしてでも、有権者一人一人に声をかけ、握手をし、声が枯れるまで演説を行っていたのではないかと思う。
 「調べる」ことに適したネットでは政策を具体的に書くべきだと思うが、接触する時間が限られたリアルの演説の場では、複雑な政局より「どれだけ熱意」を伝えることが出来たが有権者の心を揺さぶるのではないかと思う。
 その熱意を判断するために、表情や声、汗の量、総合的な内容で人間は人を判断する。ネットで著名人とのツーショットを見せられても「投票」しようとは思わないが、目の前で「この人頑張ってる」と思えたなら「投票してみよう」と思えるのではないか、少なくとも私は有権者の一人としてそう感じる。(もちろん政策の内容も考慮するが)
 惜しくも落選してしまった、三宅洋平氏が17万票も集めた理由も実はここにあると思う。「伊藤ようすけ氏」はネットの外へ出ようとしなかったが、三宅洋平氏はネットも活用したが、ライブを通じて有権者とリアルに接触する場を作っていた。いわば「選挙のO2O」である。
 ネット選挙解禁はあくまでも「ネット」というツールが一つ増えただけで、「人との接触」を大切にした人が結果成功を収めた。ネット選挙が大きく成果を出さなかった背景には「ネットでの認知獲得」の手法を選挙に用いたのが失敗だったのではないかと思う。
<中略>
 この「一時的」な絆を、三宅氏のようにライブ活動の場に誘致するなどして「リアルな場」で接触することで「弱い絆」へ変える。ネットは機会獲得のツールであると割り切り、リアルの場で熱意を伝え、得票へとうながすことが、ネット選挙を活かす方法では無いだろうか。
 結果として、「ソーシャルメディアの集客方法」が応用され、大きな成果を出すに至らなかった今回のネット選挙。一番の勝者は臨時収入を手にしたソーシャルメディアコンサルタントと広告代理店だったのではないだろうか。

 大元氏の言葉を借りるまでもなく、NHKはなぜ今時twitterを分析の媒体として選んだのだろうか?大手のコンサルに多額の税金(正確には受信料)が流れたのは残念です。
参考:NHK“クローズアップ現代”「検証“ネット選挙”」
参考:ユーザーローカル、各政党のソーシャルメディア活用度調査
参考:ネット上の接触よりリアルへの誘導が得票へ繋がる人と人とのリアルの接触が大切:大元隆志氏