政労使会議 政府と経営者、労働者の各代表による初めての「政労使会議」9月20日に初めて開催されました。今年年末から来年初めにかけての勤労者の所得=賃金をいかに増やすか、その戦略をまとめる予定です。
日本の賃金は20年上昇せず
 自公連立政権による経済再生策の効果で、景気回復が進んでいます。内閣府が発表した今年(2013年)4〜6月期の国内総生産(GDP)の改定値は、実質で前期(1〜3月期)比0.9%増になった。年率換算では3.8%増と、8月発表の速報値(年率2.6%増)から、大幅に上方修正した格好だ。
 実体経済の現状を示す数多くの指標が改善している中で、上昇の動きが鈍いのが賃金です。
 中小企業の行ける今年夏のボーナスが2年ぶりに増加していることから、賃金改善の兆しは明確にあります。しかし、問題は各企業が定める基本給(所定内給与)を含む賃金に及んでいない点です。
名目賃金の国際比較 賃金の伸び悩みは、主要先進国では日本特有の現象です。1991年からの20年間で見た名目賃金の伸びが、日本は横ばいなのに対し、米国などの主要
国は一貫して右肩上がりでアップし続けています。この間、日本経済は2004年度に上場企業の連結決算ベースで純利益が2期連続で最高益を更新したこともありましたが、所定内給与は増加しませんでした。
 背景の一つに、賃金水準の決定に対する各国の姿勢の違いがあるといわれています。欧州では伝統的に、労働阻合が使用者側に賃金引き上げを強く求める傾向があります。過度な賃上げ要求は、会社経営にも悪影響を与えるほどです。比較的労働組合の圧力が弱い米国では、使用者側の判断で賃上げしやすい半面、整理解雇が頻繁に実施されています。欧米の失業率が高い傾向にあるのはこのためです。
 一方、日本企業は使用者側と労働者側の双方が経済状況を考慮しつつ、賃金水準を議論する企業文化があります。日本の労使関係は、2008年のリーマン・ショック後に世界各地でみられたような極端な失業率悪化を食い止めたとの評価もあります。しかも、長期間にデフレの悪影響は、賃上げの必要性について使用者側と労働者側で認識のズレを生みました。景気回復といっても、経営は明るさを取り戻し始めたばかりです。使用者側が賃上げに踏み切るためには、景気の力強さや確かさを見極めたい心理も働きます。
 ただ、厳しい景気低迷期を乗り越えてきたのは、労働者側も変わらりません。「必ず経営が好転し、賃金も上昇する」と信じたからこそ、歯を食いしばってきたからです。賃上げを巡る双方の立場には、まだ開きがあります。
期待される「政労使会議」の役割
政労使会議で挨拶する安倍首相 賃上げを進めるためには、労使が賃上げの必要性を共有できるかが焦点です。
 そこで、期待されているのが政労使会議です。この政労使会議の役割の一つは、賃上げが経済に必要不可欠との認識を労使間で醸成してもらうことです。政府には適切な経済分析の提供に加え、賃上げしやすい政策の実施が求められます。
 家計の消費支出の盛り上がりは、持続的な景気回復の鍵です。家計の所得好転で消費が刺激されれば、企業収益の伸びを通じた経済の好循環につながります。
 公明党が先の参院選重点政策で「デフレ経済下の10年間で減少した平均給与10%分を取り戻し、さらなる世帯収入の向上をめざす」と訴えたのはそのためです。
 初会議では使用者側から賃金体系を底上げするベースアップ(ベア)実施に前向きな発言も出され、協議が来年の春闘に早速影響を与える可能性も出てきています。
 会議で非正規雇用の待遇改善や、大企業と中小企業における労働者の待遇格差改善など幅広い課題を含めた議論が行われるかも焦点になります。生産性向上による企業の収益を確実に賃金上昇に反映させるための「賃金の配分に関するルール」作りが進むかもボインです。
 景気回復が広がるにつれ賃上げ要求は高まっています。日本銀行(日銀)によると、日本企業が保有する現金と預金は6月末で約20兆円で、直近の1年で8%近く増えています。内部留保は「日本企業が労働者への利益配分に消極的だとする批判の根拠」(9月21日付け「読売新聞」社説)にもなっています。
 こうした中で最も懸念されるのは経済成長が再び足踏みし、労使が賃上げのタイミングを逃しかねない点です。
 しかし、今回の景気回復は、個人消費や企業の設備投資が堅調に伸びていることに加え、運輸や金融などの非製造業部門が主導する回復が顕著であり、「これまでの典型的なパターンとは異なる景気回復」(黒田日銀総裁)です。急激な景気減速の可能性は、ほぼないといえるでしょう。
 ようやく訪れた賃上げの機会を、誰もが実感できる景気回復の第一歩にできるかの正念場を迎えているのです。