参考イメージ 生活保護の受給者は、今年8月の時点で、全国で215万人余りと、国民のおよそ60人に1人の割合に上っています。その予算は今年度3兆7000億円と、この10年間で5割も増えています。
 なぜ、これだけ生活保護受給者が増えいるのか。その要因の一つとして挙げられるのが高齢化の進展です。生活保護受給世帯で最も多いのが高齢者世帯となっています。
 一方、近年いわゆる働ける世代の生活保護受給者も増えています。景気回復が本格化しない現状にあって、失業者や非正規雇用で働く人が増加し、そのまま生活保護になってしまうケースが指摘されています。
 それに加えて、生活保護に至らずとも、ぎりぎりの生活している“生活保護予備軍”ともいうべき人が数多くいます。ワーキングプワーと呼ばれる年収200万円以下で暮らす人などは、400万人以上にのぼるという研究者の指摘もあります。
 このような現状のもと、今国会では、生活保護法の改正案と生活困窮者自立支援法案という2つの法律が成立しました。この2つは、生活に困っている人たちの支援を充実する一方、生活保護の不正受給への対策を強化するという内容になっています。
 まず支援法は、生活保護予備軍ともいえる人たちを支援する新らたな仕組みを作ります。まず、自治体ごとに、総合相談窓口を設けて、一人一人の状況に応じた自主支援プランを作成します。また、職を失って家賃が支払えなくなった人への住宅支援や、仕事に復起させるための就労支援、塾などに通えない子供たちに学びの場を提供する教育支援など、個々の状況に応じたサービスを提供することにしています。こうした取組みは、生活保護の瀬戸際対策ともいえます。
 すでに生活保護を受けている人には、保護から脱出しやすい仕組み作りをめざします。具体例として「就労自立給付金」制度を作ります。働いて得た収入の一部を積み立てて、生活保護が終了した時点で受け取れるようにします。現在は、働いて収入があれば、その収入分だけ保護費が減らされてしまいます。これでは就労意欲を削いでしまいます。保護費を減額しないかわりに、その分を積み立てておくことにします。
 生活保護法の見直しには、保護対象を審査を厳格する方向性が盛り込まれました。生活保護について、受給していない人に感想を聞くと、「苦労して国民年金を積み続けた者より、若いころから年金保険料を支払わず生活保護を受けている人の方が金額が多いのは納得できない」「生活保護を受給しながら、酒を飲んだり、パチンコに興ずる姿は許せない」といった声が良く聞かれます。特に不正受給者は全体からみれば、極く一部にもかかわらず、生活保護制度自体の信頼をゆるがしていることは否定できません。そこで、今回の改正では、不正受給に対する罰則の強化や不正がないかをチェックするための自治体の権限拡大が盛り込まれました。
 また、昨年人気お笑いタレントの実母が生活保護を受けていて話題となったことなどを受けて、親族に扶養を求める手続きも強化されました。親族が扶養できるとみられるのに断わった場合は、その理由の報告が求められます。
 こうした生活保護制度の見直しは、充分ではないとの意見もあります。改善どころが改悪との批判もあります。さらに、親族に扶養を求める手続きが強化されれば、生活保護が必要なのに申請それ自体をためらい、結果的に生活情況がよりひどくなってしまう懸念があります。
 「窓口で申請をはねる『水際作戦』の法制化だ」との指摘を受け、公明党は口頭申請も認めるよう働きかけました。
 支援法では、就労や教育支援などの仕組み書き込まれましたが、その財源は自治体まかせで、国の補助金の裏付けもありません。
 自立支援の方向性は明確になりましたが、財源を絞る政府の姿勢は一弾とあからさまになっているのも事実です。
生活困窮者に地域の支援が不可欠
 では、生活保護に至らぬよう生活に困っている人をどう支援するか、生活保護に陥った人ができるだけ早くぬけ出せるようにするか、それは生活に困窮する人をしっかりとサポートす制度をどのよに構築するかとい問題に帰着します。
埼玉県生活保護受給者チャレンジ支援
 その先進的な事例として埼玉県の例がよく上げられています。
 埼玉県では、就労、住宅・教育を3本柱として、地域の民間団体と協働した取組みが進んでいます。活動の主体者は教育OBや民間企業を定年退職した140人を超える支援員です。支援員が生活に困っている一人ひとりの自宅を訪問して、目標が達成されるまで粘り強く支援を継続します。地元の中小企業や介護施設、ボランティアなども協力しています。中小企業や介護施設が技能訓練や就労体験を受け入れているのです。また、600人を超える大学生が、子供たちに勉強を教えたり、兄弟のように相談相手になったりしています。
 こうした取組みを始めて3年あまり。これまで5000人を超える人が支援を受け、就職したり進学したりしています。
 生活保護を担当する自治体の担当者(ケースワーカー)は1人で70人から80人以上の被保護者や相談者をかかえ、事務処理だけで手一杯です。広く地域の方々を巻き込んだ体制づくりが、どうしても必要になっています。
参考:埼玉県生活保護受給者チャレンジ支援事業