2つの風ロゴ

南三陸ホテル観洋女将・阿部憲子
あべ・のりこ
気仙沼市出身。東洋大学短大ホテル観光学科卒業後、水産業、観光業を営む「阿部長商店」入社後、1977年、初代女将に就任。2014年1月には全国のホテルや旅館を対象にした第39回「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」「人気温泉旅館ホテル250」に選出。
(第三文明2014年4月号から抜粋)


「津波てんでんこ」をもっと広めたい
140422abe 今あらためて思うことは、先人の教えを守ることの大切さです。
 父の教えがあったからこそ、スタッフを守り、地域貢献ができました。多くの人の話を開いても、「大きな地震があったら少しでも高いところに」という、先人の教えを守った人たちの多くが助かりました。
 東北には「津波てんでんこ」という言い伝えがあります。津波が来たら自分の命は自分で守るために、それぞれがてんでんばらばらに高台に逃げろ、という教えです。当然家族の安否は気になりますが、それぞれを信じて自分の命は自分で守ることが大事です。それが被害を最小限に食い止めることになるのです。この教えは津波以外でも同じだと思いますので、日本中で広まってほしいと思います。
そして、ライフラインも寸断された中で生き抜くためには、身一つでも生き残ってみせるという気持ちの強さが大事です。心が折れたら、なかなか立ち直れません。
 だからこそ、日々の心構えと準備が大事なのだと思います。
震災を風化させないで
 今の願いは、多くの方々に気楽に東北に遊びに来てもらうことです。それが町の復興復旧につながります。
 現在、創価大学の学生さんがインターンとして当ホテルで研修をされています。学ぶ意欲も高くすばらしい学生さんで驚いています。こうした若い人が来てくれることは、私たちにとっても大きな励みです。
 震災から一年ほどたったころに思ったことは、復興復旧はなかなか進まない、けれども風化だけは早そうだ、ということでした。
 だからこそ今、私たちは、震災を風化させないために「語り部バス」を運行しています。スタッフが当時の様子や自分の思いを語りながら、被災地をバスで案内するのです。きっかけは、次のようなことでした。他地域からお越しになられたお客さまが、フロントで受け付けをするときにタクシーの予約を依頼したにもかかわらず、スタッフが行き先を確認すると口を濁されることがよくありました。被害が大きい地域を見に行きたいけれども、それは不謹慎だと思われていたのでしょう。しかし、私たちはむしろ、一人でも多くのお客さまに被災地を見ていただき、津波の恐ろしさと東北の現状を知ってほしいのです。遠慮など全く必要ありません。参加されたお客さまから「話が開けてよかった」「今度は家族や友人を連れて来るよ」と言っていただくことは、本当にうれしいことなのです。
 3・11の事実と経験と教訓を、広く長く伝えることが、私たちの使命です。1000年に一度の災害は、1000年に一度の学びなのですから。