放牧場所に移動する牛たち
 5月11日、井手よしひろ県議はフェイスブックを通してご紹介いただいた酪農家・上野裕さん(農業組合法人新利根協同農学塾農場・理事)の牧場を訪れ、新たな発想で放牧経営に挑戦している現状についてお話をうかがいました。
 上野さんは、自身の祖父らが開拓した集落が限界集落になろうとしている現実を前に、放牧牧場が他産業と協働する「農業共栄圏」をつくることで農業や集落を守る暮らし方を提唱しています。「乳と蜜の流れる地プロジェクト」と題し、牛とミツバチを資源に他産業とコラボし、現代の理想郷づくりに挑戦しています。
 上野さんの牧場は乳牛を飼っています。通常、乳牛は牛舎に終日繋がれ、餌が与えられ、搾乳されます。しかし、上野さんは、その常識を捨てて、“放牧経営”を行っています。
 上野さんは、自身のブログで次のように綴っています。「ぼくの牧場は、多分、首都東京に最も近いところで、大真面目に放牧経営をしようとしている。ある意味狂っている(笑)。馬鹿で、馬鹿故に面白がってくれる人が増えつつある。放牧とは土地が地続きで無ければ成立しない。何故なら牛が歩いて移動できなければならないから。そして、広大な面積が必要となる。その面積、最低でも1日1頭1アール(30坪)。牛が30頭いれば30アール。草が再生するのに10日位かかるので、30アール✕10日=300アール。建売住宅地なら100軒くらい建つよね。けれど、実はこれは余りにもぎりぎりで直ぐ放牧地がぐちゃぐちゃに練られてしまうので、仮に面積を50%増やしてぎりぎり1日45アール。つまり4.5ヘクタール(13,500坪)は無くてはならない。幾ら田舎とはいえ、近隣でもこれだけの土地を地続きで集められるところは実は奇跡とも言える」。
 上野さんの牧場は、圏央道の稲敷東インターからわずか5分。成田線の特急も停車する滑河駅からも20分程度で到着します。こうした首都圏に直結する場所で、広い土地に恵まれて“放牧経営”に取り組むと、様々な化学変化が起こっていると言います。牛の排泄物を肥料に肥沃な牧草地が作られ、同時にレンゲの花のような植物が育てられます。その花の蜜を使って、ミツバチを飼い、蜂蜜を採取する。チーズやバターを作り農業の6次産業化を進める。農業体験、農村体験の場として活用する。等などその可能性は無限に広がっています。
 「乳と蜜の流れる地プロジェクト」には、具体的に次のような内容が検討されています。プロジェクトを具現化するNPOの立ち上げなど、上野さんの挑戦は今新たな展開を迎えています。
放牧された牛たち

「乳と蜜の流れる地プロジェクト」
1.我々は都市市民をいつでも迎え入れる農村の窓になる
2.農村の価値を発信し伝える
3.農村で起業する人々の足掛かりになる
4.都市と農村を繋ぐ祭りを催す
5.法人向けセミナーハウスを運営し主たる収益源とする
1.都市住民をいつでも迎え入れる農村の窓になる
 農村環境は、人が積極的に関わる事でその状態を維持して来ました。いわゆる里山と言われるその環境は人が介在する事でしか保てません。人の手を必要としない自然環境とは一線を画し、人と自然が共生しながら織り成して来た結果生まれました。
 その景観は在るがままの自然よりも柔らかく、寧ろ親しみ易く、日本人の原風景とも言えます。
都市住民はそう云った農村や農的空間に心惹かれながら、接点が無いのが殆どです。月に一度、もしかしたら週に一度、親類や友人に会いに行くように出入り出来る農村の需要が、求められていることを感じています。
それは、都市生活者には短期的な癒しであるかもしれませんし、構造的な都市生活者の未来への、不安なのかもしれません。
 しかし、農村は農村で、人口減少、高齢化、過疎化に悩み、此のままでは農村の維持・管理にも手が足りなくなる可能性が増しています。
 お互いに欠けている物を補いながら、お互いが良い関係を築く為の窓口の必要性が実は高まっています。
我々は、都市へは窓を聞き、農村には風を通す窓で在りたいのです。

2.農村の価値を発信し歴史と文化の灯を点し続ける
 古くからの集落で在れ、開拓地で在れ、先人の築いた歴史の上に我々は存在しています。同時に農村に住む事はその歴史、文化(伝統ある祭りや、芸能、民話や言い伝え等)の継承者でもあります。
 しかし、その自覚が、農村では急速に薄れています。継承者である若者流出と共に、文化や歴史が急速に失われ、親世代は農村に子弟を居続け させることを不安がり、むしろ都市へ送り出す事に躍起になっているとさえ見えます。
 都市住民を呼び込む事は、農村の価値を農民が再発見する事に必ずなる筈です。

3.農村で起業する人々の足掛かりになる
 農村は閉鎖的で、縁故無しでの基盤造りには相当の困難が予想されます。また職業も農業以外は考えてこられませんでした。それでは現代の社会情勢から考えて間口が狭過ぎます。又、農村生活を希望する人が、試しに出入りする事すら躊躇させてしまっては、機会の喪失であると言わざるを負えません。
 農業以外の仕事の可能性を探りながら、農村コミュニティに間接的にでも触れ、将来そこで暮らしたり、都市向けの農村ビジネスを創造するイメジを膨らます場所が求められています。
 都市向け農村ビジネスの例として
・牛と人・動・植物の関わりを観察しながら解説する「里山ネイチャースクール」
・ジャムやピクルスやパジノレペスト等の保存食やチーズ作り等の此処でしか出来ない料理・加工食品教室
・子供と参加する夢のツリーハウス製作や、本格大工さんから教わる家造り教室
・憧れのカヌー製作教室と自作カヌーでの川遊び教室
 昔に比べSNSなどを使い、これらのセミナーの受講者を募集をすることは容易です。農村・里山環境ならではの穏やかな空間でそれらを楽しむ事は、行為そのもの魅力と相まって、必ず都市住民を惹きつけ、リピーターをうむ事でしょう。更に、多様な講師が多様な教室を同一空間で行う事で、相互に乗り入れが起こる可能性もあるでしょう。
 また、食材やその他材料の調達を地域に求めれば、住民との交流も自然に起こり、ますし、その口利きは、我々元からの住民が関わる事でよりスムーズに行く筈です。
 この牧場を、新しい農村の形・価値・文化・希望を模索する場所として提供したいのです。

4.都市と農村を繋ぐ祭りを催す
 開拓地であるこの集落は、困難な開拓で、あったゆえに祭りを興す余裕すらありませんでした。時代は移り変わり、集落は寂れ、初代達は年老い、若者の流出は止まりません。
 開拓の苦労をねぎらい、先人を弔い、農村と都市の粋を造り、農村の過去と未来、を繋げ未来に共に進むために、祭りを興し共に語り合う場にしたいと考えています。

5.法人向けセミナーハウスを運営し主たる収益源とする
 部、課単位の小規模なセミナーは都内ホテルでの開催が通例であり会場の評価は高くない物と思われます。従って、交通の便がよく(新宿から車で90分)、魅力ある会場の潜在的な需要は非常に高いと思われます。
 農業、食品関連企業、に留まらず、美しい農村景観や新鮮な空気は、何物にも代えがたい魅力を持っと思います。
 また新しい産業形態として、観光化、遊園地化では無く、農業経営を維持しながら農村を維持するにはうってつけの業態と思われます。具体的な施設規模やセミナーハウスとしての施設設備は、農業ドリプラ等の協力企業と相談し詰めて行き、使い勝つ手の良い物を作り上げようと考えています。
【特徴】
・広々とした、緑の放牧地を背景にした癒しの空間
・調理実習など多彩なプログラムが可能
・BBQ場、ピザ用石窯有り
・新宿より車で約90分
新利根協同農学塾農場
茨城県稲敷市市崎2381
TEL:0299-79-2024
URL:http://blog.livedoor.jp/kurumiruku2009/