JA中央会ビル 5月14日、政府の規制改革会議の農業ワーキング・グループ(WG)が取りまとめた農業改革案が、波紋を呼んでいます。この改革案は「農業改革に関する意見」と題され、農業委員会、農業生産法人、農業協同組合(農協)の見直しを柱として掲げています。政府は6月に改定する成長戦略に反映させる考えですが、慎重な意見も多く、自民、公明の与党両党は議論を深めていく方針です。
 「農業改革に関する意見」の中で、農地の売買などの許可権を持つ農業委員会の改革では、農業委員の選任を選挙制度から市町村長の選任制に一元化します。農業生産法人については、議決権を有する出資者の2分の1超は農業従事者と定め、2分の1未満は制限を設けないこととします。
 農協は、全国農業協同組合中央会(JA全中)が各地の農協組織を指導する「中央会制度」の廃止や、生産者の農産物を集荷・販売する全国農業協同組合連合会(JA全農)の株式会社化を進めようとしています。中央会は、農業振興のシンクタンク(政策研究機関)などとして再出発を図るとしています。
 日本の農業は、農業生産額の減少や農業従事者の高齢化進展、耕作放棄地の増加などの構造的な問題に直面しています。政府は農業改革として、こうした課題を克服し、魅力的で競争力のある農業をつくり、“成長産業化”の実現をめざすことにしています。規制改革会議の立場からは、意欲ある農家や新規参入者、企業などが積極的な事業展開を図っていけるよう、現在の規制や制度の見直しを進めるべきという意見が提言の背景にあります。
 この提言に対して、5月23日の公明党農林水産部会の会合では、各団体からの不安や戸惑いの声が相次ぎました。全国農業会議所は、農業委員会での選挙制度の廃止について、「農業・農村現場の実態を無視したもの」との見解を示しています。
 また、JA全中の萬歳章会長は「極端な内容の提言で、現場の農家に不安が広がっている」と主張しています。JA全中は今年4月、農業・農村を取り巻く課題を踏まえ、食料自給力の向上による生産量拡大や、農家の所得最大化などを目標とする自主改革計画「JAグループ営農・経済革新プラン」を独自に発表しています。

茨城県知事も改革案に否定的な見解
 一方、茨城県の橋本昌知事も、29日の定例記者会見で提言に対して否定的な考えを表明しました。
 橋本知事は、「全農の株式会社化などが提言されていますが、ども(地方自治体)が、農協と一緒にやっているもので、例えば、地産地消といった事業もあります。こうした事業は、株式会社化などされたときにうまく機能するか不安です。あるいは、原子力事故のときの損害賠償といったことについても、農協という組織があったからうまくいったのではないかと考えています。これから地域社会を維持していくために、農協、あるいは郵便局、あるいは生協、社会福祉協議会といったものが果たしていく役割というのは大変大きなものがあるのではないかと考えています。そうした点で、今回の検討の方向性については、もっともっと慎重に議論していくことが必要ではないかと思っています」(発言の趣旨)と語りました。
 さらに、委員の中に農業経験者が少ないことを指摘して、「農協制度というものは、ある意味、これまで大変大きな役割を果たしてきました。これを変えるということは、日本の農業をどうするのかということにもつながっていく思っています。そのために、もう少し慎重な議論、当事者の意見も加味しながら結論を得ていくことが必要」と語りました。
 さらに、「(茨城県のブランド牛の)常陸牛も2220頭だったのが、10年ちょっとで、8000頭まで増やすことが出来ました。こうしたことなども県が全農と一緒にやってきたからできたわけです。では株式会社でできるかというと(採算を考えると)なかなかできないと思います。そういった点で、全農とか農協の果たした役割というものは相当大きいものがあるのではないかと思っています」と、重ねて農協組織の重要性を強調しました。