2004年の年金改革で、公明党などの与党が「年金100年安心プラン」と銘打った改革も効果が確実に現れているようです。
 6月3日、厚生労働省は社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)年金部会に、公的年金の財政検証結果を示しました。政府が取り組む経済再生が進んだ場合、現役世代の手取り収入に対する年金の給付水準(所得代替率)は、今後100年にわたって、政府が2004年の年金制度改正で約束した50%を超えると試算しました。ただ、保険料を納める労働力人口が減るため、水準自体は14年度の62.7%からは下がっていき、約30年後には12ポイント程度低下することになります。
 年金財政検証は法律に基づいて5年に1度実施。今後100年間の財政見通しを確かめ、年金制度見直しの基礎資料とすることになっています。
 検証では、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)と死亡率の将来推計で、高位、中位、低位の3通りを設定。物価や賃金の上昇率、年金積立金の運用利回りといった経済前提も8ケースを想定しました。
年金の所得代替率
 出生率、死亡率をともに中位と設定するなど、最も標準的なケース(経済ケース:E、人口:中位)を見ると、厚生年金受給世帯の夫婦(40年加入、妻は専業主婦)のモデル的な年金月額は14年度時点で21万8000円(給付水準62.7%)ですが、50年後の2043年度には24万4000円(50・6%)となります。給付水準が低下するのは、少子高齢化でも年金財政を持続させるため、年金の支え手の減少を年金額改定に反映させ、増額幅を賃金や物価の伸びよりも抑制する「マクロ経済スライド」が実行されるためです。
 このケースでは2044年度でスライドは終了、以降の給付水準は50.6%で固定されるとみています。
 2009年の前回検証では、最も標準的な「基本ケース」の場合、給付水準は09年度の62.3%から38年度に50.1%へ低下すると試算していました。近年、合計特殊出生率が持ち直していることから、最終的な給付水準は前回検証より0.5ポイント改善しました。

 厚生労働省の公的年金財政検証では、年金給付額の抑制や保険料収入増加につながる制度改正を行った場合の影響も試算しています。保険料納付期間の延長などによって、制度安定化の効果が表れ、現役世代の手取り収入に対する給付水準(所得代替率)も改善するとの結果が出ました。厚労省は制度改正に向けた検討に着手します。
 2013年成立の社会保障制度改革のプログラム法には、年金制度改正の検討課題が列挙されています。今回はこれを踏まえ、(1)保険料納付期間延長(2)パート労働者への厚生年金適用拡大(3)「マクロ経済スライド」と呼ばれる年金額抑制策の強化――という3つの制度改正を仮定した試算を行いました。
 現行で最長40年となっている国民年金保険料納付期間を45年に延長した場合、標準ケースでの最終的な給付水準は現役世代の手取り収入比57.1%となり、現行制度よりも6.5ポイント改善します。各自の選択で、保険料納付期間をさらに2年延長し、受給開始年齢も2年遅らせる制度を利用する人については、給付水準は68.2%に上がります。
 厚生年金の適用拡大に関しても、週20時間以上働くパート労働者約220万人が新たに加入すると、給付水準は51.1%(現行制度比0.5ポイント増)に上昇。年収70万円以上の労働者約1200万人が新たに加入する場合では、57.5%(6・9ポイント増)となります。
 また、物価や賃金の伸びよりも年金増額幅を抑制する「マクロ経済スライド」の効果を高めた場合についても試算。物価上昇率が低い局面でもマクロ経済スライドを発動するように制度改正すれば、後世代の給付水準改善につながることを示しました。特にマイナス成長が長期にわたって続くケースでは、効果が大きいとしています。

【マクロ経済スライドとは】経済情勢の変動に応じて年金の給付水準を自動調整する仕組み。保険料の上限を決めた2004年の年金制度改正で、決められた財源の範囲内で給付をやりくりするために導入されました。
 発動した場合は、現役人口の減少分などを毎年度の年金額改定に反映させることで、年金の増額幅を物価や賃金の伸びよりも抑制します。デフレ経済下で発動が遅れたましたが、2015年度から実施される見通しです。