住基ネットを活用し、年29億円の経費を大幅削減
 年金受給者の「現況届」の廃止に向けた検討が、総務省と社会保険庁の間で行われています。これは、住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)を活用した経費削減策の一つで、2006年度の実施をめざしていまする。
 「現況届」とは、国民年金や厚生年金などの公的年金受給者に対して、生存確認のために年1回の提出が義務付けられているものです。社会保険庁から郵送された用紙に氏名や生年月日などを記入して返送することになっています。現在の対象者は約2500万人にも達しています。
 「現況届」の廃止に向けた検討は、2002年12月に成立した「行政手続きオンライン化法」が契機となってスタートしました。住基ネットと社会保険庁のコンピューターを接続することによって、市町村に死亡届が提出されれば年金支給を自動的に止めることができるようになります。
 「現況届」の印刷や郵送にかかる経費は年間29億円強。死亡確認ができなかったことによる年金の過払いは2002年度だけで約93億円に上りました。また、過払いに対する返還請求コストも小さくないのが現状です。「現況届」の廃止が実現すれば、これらの事務経費の大幅削減や、過払いの解消につながります。
 このため公明党の桝屋敬悟氏は、4月16日の衆院厚生労働委員会で、住基ネットの活用による「現況届」の早期廃止を強く主張しました。社会保険庁の薄井康紀運営部長は、総務省との検討状況を踏まえ、「システム開発に2年程度かかるとして、(平成18年度を目標に準備を進めたい」と答弁しました。更に、坂口力厚労相は、「IT(情報技術)を使って明確に誤りなく、経費を削減できるという方法があるなら、一刻も早くやらなければならない」と積極的な姿勢を示しました。
現況届改善への第一幕
 平成6年の秋、井手よしひろ県議は、一人暮らしのお年寄りから相談を受けました。その方は、腰を打って1ヶ月ほど寝たきりになっていました。そのため、年金の書類「現況届」を役場に届けることが出来ず、年金が一時的にもらえなくなってしまったとの相談でした。
 そのお年寄りは「年金の書類のために、わざわざ役場に行かなくてはいけないのでしょうか。年金をもらっている人が、生きているか死んでいるのかを、一番よく知っているのは役場じゃないですか」と切々と訴えました。
 当時、年金の現況届に市町村長の証明が必要なことは常識でした。一人暮らしのお年寄りは、一日がかりで現況届を出しに役場まで通うのが当たり前でした。
 でも、なぜ市町村長の証明が必要なのでしょうか。本人の署名や印鑑があれば十分ではないだろうか。証明が必要な来れば、市町村の仕事も大幅に削減することが出来るはず。正に一石二鳥の「現況届の簡素化」を、市や町、そして県に相談してみました。
 こうした地方議員の声を、衆議院議員の草川昭三さん(現在は参議院議員)が国会で取り上げてくれました。平成8年6月、草川議員は「老齢基礎年金の受給にともなう現況届に関する質問趣意書」を政府に提出しました。
 この趣意書が決めてとなって、平成10年1月から現況届の市町村長の証明が廃止されました。送られてきた現況届に名前と住所を自筆して、印鑑を押して郵便で送り返せば良くなりました。
 これが年金現況届の改革の第1幕です。
(写真は:当時の模様を伝える井手よしひろ県政ホットラインNo20(1998/4/20発行))