長野県のひかり味噌の「ハラール認証」味噌 5月29日、内閣官房地域活性化統合事務局は、地域の魅力や特色を生かした「地域活性化モデルケース」を33件選定、公表しました。こうした先進例などをもとに、今後人口減少などを乗り越え活力ある地域づくりのためのビジョンを地方自治体に提示するのが目的です。
 地域活性化モデルケースは、今年3月下旬から4月下旬まで全国の市町村などから公募。提案のあった135件の中から、政府のワーキングチームによる評価を経て33モデルに絞り込まれました。
 この中でも、井手よしひろ県議が注目しているのは、「広域地域資源活用型」の熊本県人吉市などが提案する、イスラム教徒が食べられるハラール食品の市場を引きつける「人吉ハラール促進区」の取り組みです。人吉ハラール促進区をコア(核)として、地元産の牛肉や農産物を使った加工関連企業などを集積、工場立地をしやすくし、ハラール対応の物流事業所を中心とした人や物、サービスの流れを輸出も視野に活発化させようとしています。熊本県人吉市、人吉温泉観光協会、くま川鉄道(株)、ゼンカイミート(株)の4者が共同して提案しました。
 この中でも中心的役割を担うのがゼンカイミート。熊本県の食肉加工会社ゼンカイミートは、2012年7月、イスラム教の戒律に則って牛肉を処理したことを証明する「ハラル認証」を、インドネシアの認証機関から取得しました。
 インドネシアは人口約2億4000万人を擁し、今後所得向上が見込まれている有望な市場ですが、国民の8割がイスラム教徒のため、「ハラル(許された)食品」であることの証明が必要です。ゼンカイミートでは、製造ラインも豚肉とは別のものを用いていることなどを示し、在日マレー人の認証機関であるマレーシア・ハラル・コーポレーションによってハラル認証を実現しました。
 ゼンカイミート社で加工・販売する牛肉は、天然ハーブの配合飼料で育てた「ハーブ牛」や、非遺伝子組み換えとうもろこしの配合飼料を与えた「開拓牛」など、付加価値の高いものです。工場直売やネット通販にチャネルを絞り、手頃な価格で提供する。牛肉のみを加工するメリットを活かし、従来から国内在住及び訪日したイスラム教徒向けに牛肉を販売してきたが、海外のイスラム圏への進出を図るため、ハラル認証を取得しました。
 熊本県は県内業者の牛肉輸出促進に向け、インドネシア政府関係者や認証機関を招くなど、支援に力を入れています。
(写真は、長野県のひかり味噌の「ハラール認証」味噌)
 一方、茨城の隣県である千葉県でもハラール対応の動きが、活発になっています。
 今年1月、日本で初めての「ハラール食」専用の食品加工調理施設が、千葉市花見川区で稼働しました。
 佐藤長八商事の千葉事業所の内部に設けられた施設では、焼き肉用スライスや焼き鳥、総菜などを製造。焼き魚の照り焼きソースや刺し身には添加物や保存料がない県産しょうゆ油を使用。牛や鶏肉の部位を表示したり、生産履歴情報の管理も徹底します。今後、幕張地区にあるグループ会社のホテルにも食事を提供するほか、幕張地区のイベント会場や周辺企業に出向いて食事を作るケータリングサービスに広げていく予定です。
 施設は日本アジアハラール協会「NAHA」のハラール認証を取得し、マレーシア政府の同認証「JAKIM」も申請中です。
 一方、茨城県内のハラールへの取り組みは、まだまだ端緒に就いたばかりです。茨城県常総市の卵卸会社・倉持産業は、昨年5月に卵でのハラール認証を取りました。本来卵はそのものがハラールであり認証は必要ありませんが、製造過程を明らかにし、ハラール認証という「お墨付き」を得ることで、他社製品との差別化を図りました。

ハラール食市場は30兆円。巨大イスラム市場
 経済と市場が急成長しているアセアン諸国。域内人口は6億人を突破し、約5億人のEUを陵駕する市場規模です。その中でも、いま注目を集めているのがシンガポールとマレーシア、インドネシアの3カ国。共通する特徴はイスラム教徒(ムスリム)の多い国であることです。
 イスラム教徒はアセアン以外ではインドやバングラディッシュ、パキスタンなどの南アジア、アラブ等の中東、アフリカなど広範囲に居住しており、2011年時点での人口は世界中で19億人といわれています。これは世界人口70億人の27%、すなわち世界の人の4人に1人以上がイスラム教徒という計算になります。 これまでイスラム諸国は欧米やわが国などの先進諸国から、経済面で大きく遅れていたが、ここ数年間で技術力、経済力が急拡大しています。また人口も急増しており、消費市場として世界経済上で大きな位置を占めるようになってきました。
 これらの国の中には親日感情が強く、日本製品を好んで購入する傾向があります。実際、クアラルンプールやジャカルタの街中には寿司やラーメンなどの日本の料理を扱う店が多く、直輸入された日本の食品もスーパーやショッピングセンターに並び、高い価格帯であるにもかかわらず、売れ行きは順調です。
 「アセアンの優等生」と呼ばれ、シンガポールに次いで早く経済成長を遂げたのがマレーシアです。1人当たりGDPは今年1万ドルを超えたと見られ、2009年には25%だった富裕層が、2015年には約半数を占めるようになると予想されています。
 一方、アセアン加盟10カ国の中で人口が2億4000万人と最も多いインドネシアは、現時点では富裕層は人口のごく一部に限られています。しかし、2020年には5.8%を占めるまでに増え、その数は1500万人にもなると推計されています。また、2015年には国民の73%にあたる1億7000万人が中間所得層以上になると推計されています。
 イスラム教では豚やアルコールなどハラーム(不浄)とされるものを口にすることが禁じられています。また、牛肉や鶏肉もルールに従ってと殺処理されたものでなければなりません。そのため、流通する食品には「ハラール(不浄じゃない)」であるという証明が必要となります。
 つまり、ムスリムの多い国に食品などを輸出したり、飲食店の展開を行おうとした場合には、「ハラール」に準じていることが絶対条件となります。東南アジア諸国の経済と市場が成長してきたからこそ、「ハラール」の重要性が高まっているということです。逆に、ハラルへの対応が不十分であれば、農水産物や食品の輸出においては、大きな障壁となっています。
 全世界に19億人以上が生活しているムスリム市場への入り口は「ハラール食」への対応ということになります。