がん診断から1年以内は自殺のリスクは他の病気の20倍
140620tokei 厚生労働省は今月から、がん患者の苦痛を和らげる緩和ケアの在り方を検討する会議を新体制でスタートさせました。
 検討会では、主に(1)がんと診断された時からの緩和ケアを実現するための施策、(2)地域で緩和ケアを提供するための施策――について議論することにしています。
 がん対策推進基本計画には切れ目のない緩和ケアの提供の必要性が掲げられていますが、まだ十分とは言えません。
 国は全国どこでも質の高いがん医療が受けられる体制をつくるため、専門的ながん医療を提供する全国の397病院を「がん診療連携拠点病院」に指定しています。
 ちなみに、茨城県内のがん診療拠点病院は、県立中央病院(笠間市)、土浦協同病院(土浦市)、筑波メディカルセンター病院(つくば市)、日立総合病院(日立市)、東京医科大学茨城医療センター(阿見町)、茨城西南医療センター病院(境町)、友愛記念病院(古河市)、筑波大学附属病院(つくば市)、国立病院機構水戸医療センター(茨城町)の9病院です。
 厚生労働省が拠点病院を対象に実施した調査では、がん患者への適切な緩和ケアや家族への対応が十分に提供されていない実態が判明しています。拠点病院がこの状況では、患者の痛みや辛さは、どこまで軽くなるのか疑問です。
 今年1月には緩和ケアの提供の徹底などを求める新たな指定要件が通知されました。拠点病院への新指定要件の徹底・浸透が重要になります。
 多くの人にとって、がんと診断されると、ショックは計り知れません。国立がん研究センターの研究班がまとめた調査によれば、がんと診断された患者が1年以内に自殺する件数は、がん患者以外の約20倍に上っています。患者が抱える苦悩の大きさをあらためて示す衝撃的な調査結果です(詳しくは別枠に引用しました)。
 さらに、治療が始まると患者の生活は大きく変わり、ストレスも強まります。本人の心理的ケアをはじめ、家族に対しても、手厚い支援を進めなければなりません。
 がんの身体的な苦痛は、モルヒネなど医療用麻薬の適正な使用で9割以上が取り除くことができます。ところが、日本では医療用麻薬の使用量が欧米主要国と比較するとかなり少量です。苦痛をできるだけ取り除くために、現在の使用量を見直す必要はないか、議論する必要性があります。
 がん患者が住み慣れた家庭や地域で安心して療養生活を送るためには、地域社会で緩和ケアを提供する体制の整備も欠かせません。検討会では拠点病院と地域の医療機関との連携強化に取り組む施設の好事例を調査する方針です。他地域でも参考になるような取り組みを見つけ出し、周知しべきです。
 がんは今や、日本人の2人に1人がかかる「国民病」です。それだけに、緩和ケアの在り方は限られた人々の問題ではないのです。検討会では、患者の視点から議論し、充実した対策をできるだけ早く進めるべきです。
がん診断から1年以内は自殺のリスクが高い
国立がん研究センターがん予防・検診研究センター予防研究グループ
がんの診断と自殺および他の外因死との関連について

 警察の自殺統計によると、わが国における自殺者数は1998年から2011年まで毎年3万人を超える状態が続いてきました。
 自殺の背景要因に精神疾患があることは良く知られていますが、身体疾患と自殺の関連についてはあまり分かっていません。また、他の外因死(不慮の事故など)についても(これらの中には死因が自殺であるかどうかの判断が極めて難しいケースが見受けられます)、自殺と同様に様々な心理社会的要因との関連が示唆されています。そこで、本研究では、がんの診断がその後の自殺および他の外因死に及ぼすリスクについて検討しました。
 研究開始時点で行った調査に回答した方々のうち今回の解析の対象となった約10万3000人中、追跡期間中にがんの発生が確認されたグループでは、その後1年以内に13人が自殺により、16人がその他の外因により亡くなりました。また、診断から1年目以降の自殺は21人、外因死は32人でした。
 一方、がんになっていないグループでは527人が自殺により、707人がその他の外因により亡くなりました。
 解析の結果、がんになっていないグループに対する、がん診断から1年以内のグループにおける自殺および他の外因死のリスクはともに約20倍でした。一方、診断後1年以上経過したグループにおいては、自殺および他の外因死のリスクは1.0前後と、がんになっていないグループと違いがないほどに顕著に低下していました。また、がん診断後に自殺および他の外因で亡くなった方のみを対象とした分析においても、がん診断後1年以内の自殺および他の外因死のリスクが有意に高いことが示唆されました。