他国防衛の集団的自衛権は認めず
首相「新3要件は相当高いハードル」

衆議院予算委員会北側一雄副代表質問 7月1日の「新しい安全保障法制の基本方針」を定めた閣議決定に関する衆参両院の予算委員会集中審議が7月14日、15日の両日開催されました。公明党からは北側一雄副代表、西田実仁参院幹事長が質問に立ち、安倍晋三首相、小野寺五典防衛相、横畠裕介内閣法制局長官が、「自衛の措置」の限界、武力行使の歯止めなどについて答弁をしました。
 国会での審議は、正式な議事録としてその後の安保法制の審議に大きな影響を与えます。パフォーマンスだけの他党の質問者に比して、公明党の両議院の質問は非常に深い内容だったと評価します。
 このブログでは、その審議の概要を7月19日付の公明新聞の内容を参考にまとめていました。

自衛の措置の限界
 閣議決定は憲法第9条の下で許容される「自衛の措置」の限界について定めている。それについて北側氏が、「あくまでも自国の防衛のための目的を持った『自衛の措置』に限られる」との認識を示したことに対し、横畠内閣法制局長官は以下のように答弁をしました。

参考写真 わが国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として、一部限定された場合において、他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とする武力行使を認めるにとどめた。
 また北側氏は、集団的自衛権を「憲法上行使できない」としてきた政府見解のベースである1972年(昭和47年)見解を取り上げ、それと、閣議決定との論理的な整合性を質しました。

参考写真 憲法第9条の下でも例外的に自衛のための武力の行使が許される場合があるという72年見解の基本論理を維持し、それを前提として、これに当てはまる極限的な場合は、わが国に対する武力攻撃が発生した場合に限られるとしてきたこれまでの認識を改め、わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合も、これに当たるとした」「その限りにおいて(集団的自衛権の行使を認めない72年見解の)結論の一部が変わるが、72年見解の基本論理と整合すると考える。

「いわゆる集団的自衛権」についての見解
 北側氏は72年見解が「いわゆる集団的自衛権」は行使できないとしたことについて、「いわゆる集団的自衛権」の意味を問いただしました。72年見解では単に「集団的自衛権」という言葉を使わずに、あえて「いわゆる集団的自衛権」という表現を用いています。

参考写真 『いわゆる集団的自衛権』は、まさにその集団的自衛権全般を指しているものと考える。その意味で、丸ごとの集団的自衛権を認めたものではないという点においては今回(の閣議決定)も変わらない」と強調しました。
武力行使の歯止め:憲法第9条の下で許容される自衛の措置
 「武力行使の歯止めがなくなる」との批判もありまたが、新3要件が認める武力行使の発動は、従来の3要件がいう日本に対する武力攻撃と同様の状況であり、歯止めとなっていることを示しました。

参考写真 (新3要件の下で武力行使ができるのは)他国に対する武力攻撃が発生した場合において、わが国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻・重大な被害が国民におよぶことが明らかな状況。
 閣議決定は、武力行使発動の要件を日本に対する武力攻撃の発生に限った従来の3要件に対し、他国に対する武力攻撃も要件に加えた新3要件を採用した。
 新3要件の第1要件は武力行使の要件を示す中で「明白な危険がある場合」との言葉を使っています。北側氏は、それがどういう事態を指し、どう判断するかを確認しました。

参考写真 『明白な危険がある』という部分は、72年見解の『外国の武力攻撃によって国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態』に対応するもの」「この要件に該当するかどうかは、実際に他国に対する武力攻撃が発生した場合において、事態の個別具体的な状況に即して、主に攻撃国の意思、能力、事態の発生場所、その規模、態様、推移などの要素を総合的に考慮し、わが国に戦禍がおよぶ蓋然性、国民がこうむる犠牲の深刻性、重大性などから客観的、合理的に判断する

 新3要件の第2要件は従来の第2要件に「我が国の存立を全うし、国民を守るために」という言葉を加えました。この点に西田氏は、その意味がどこにあるのかを質問しました。

参考写真 「閣議決定は自衛の措置に限り、他国防衛それ自体を目的とする集団的自衛権の行使は認めない」「第2要件は、第1要件で他国に対する武力攻撃の発生を契機とするものが加わったことから、他国に対する武力攻撃の発生を契機とする武力行使についても、あくまでも、わが国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置に限られることを明らかにした」と答弁しました。

密接な関係にある他国
 新3要件の第1要件にある「我が国と密接な関係にある他国」について、他国の範囲が不明確などとの懸念が示されていました。これについて横倉長官が答えました。

参考写真 「一般には、外部からの武力攻撃に対して共通の危険として対処しようという共通の関心を持ち、わが国と共同して対処しようとする意思を表明する他国と考える」「新3要件は、それに加えて、わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がそれによって生じているという、その危険の存在を要件としている」と述べました。

「明白な危機」とは恣意的判断を許さず
 新3要件が武力行使の厳格な歯止めであるとの政府の主張に対し、時の政府が、例えば「明白な危険」という要件を恣意的に解釈・運用する恐れがあるとの批判に対する答えを、法制局長官ならびに安倍総理が行いました。

参考写真 (新3要件の第1要件にある)「明白な危険」とは、単なる主観的な判断や推測ではなく、客観的・合理的に疑いなく認められるというものと解される。
 
参考写真 「『明白な危険』とは、その危険が明白であること、すなわち単なる主観的な判断や推測などではなく、客観的かつ合理的に疑いなく認められるものであると考える」と答弁しました。
 さらに、「この3要件が求めているのは、まさにこの3要件の中で集団的自衛権の行使において武力を行使するということであり、これは相当高いハードルであることは事実」と強調しました。

専守防衛は堅持
 閣議決定によって、専守防衛など日本の防衛政策の基本方針が変わるのではないかとの批判があります。北川副代表の質問に、安倍首相が答弁をしました。

参考写真 9条の下で許容されるのは必要最小限度の自衛の措置としての武力行使のみ。憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢は変えず、専守防衛は維持する。
 引き続き、受動的な防衛戦略の姿勢は変わらない。また、海外派兵は一般に許されないという従来からの原則も全く変わらない。自衛隊が武力行使を目的として、かつての湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加するようなことは、これからも決してないということは断言しておきたい。

 さらに、西田氏は閣議決定で自衛隊の役割が変わるかどうかを小野寺防衛大臣に質しました。

参考写真 「自衛隊の役割はあくまでわが国防衛であり、これが変わることはない」「自衛隊が性能上、専ら相手国の国土の壊滅的な破壊のためのみに用いられる、いわゆる攻撃的兵器を保有することは、直ちに自衛のための必要最小限度の範囲を超える。例えば大陸間弾道ミサイル、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母の保有はいかなる場合も許されない」と答えました。

解釈改憲を否定
今回の閣議決定は、本来、憲法改正でしかできないことを行ったとの批判もあります。それに対して、法制局長官が答えました。

参考写真 閣議決定は、自衛のための武力行使が許されるとの政府見解の基本論理を維持しており、憲法改正でなければできないことを解釈の変更で行うという、いわゆる解釈改憲には当たらない。
 (閣議決定は)これまでの憲法第9条をめぐる議論と整合する合理的な解釈の範囲内のものであり、憲法の基本原則である平和主義をいささかも変更するものではない。
 新3要件を超える、それに該当しないような武力の行使については、現行の憲法第9条の解釈によってはこれを行使するということを認めることは困難であると考える。それにおよぶ場合には憲法改正が必要であろうと考えている。