脱法ドラッグの危険性、有害性を強調し、新たな呼称を『危険ドラッグ』に

 7月22日、脱法ドラッグの危険性の認識を高めようと、警察庁などが新しい呼び名について意見を募集した結果、脱法ドラッグに代わる実態を表す新しい呼び名として「危険ドラッグ」という名称に決めたと発表しました。警察庁は乱用防止のキャンペーンなどで新たな呼び名を使うことにしています。
 脱法ハーブを含む脱法ドラッグが関係する事件や事故が相次いでいることを受けて、警察庁と厚生労働省は「脱法ドラッグ」という呼び名は、覚醒剤や大麻に似た作用があるにもかかわらず、危険な薬物ではないような誤解を与えているとして、呼び名を変更しようとホームページなどで意見を募集しました。
 その結果、新たな呼び名の案や意見がおよそ8000人から寄せられ、その中から脱法ドラッグに代わる実態を表す新しい呼び名として「危険ドラッグ」という名称に決めたと発表しました。
 これについて、古屋国家公安委員長は閣議のあとの会見で、「『危険ドラッグ』という新たな呼称がしっかり浸透することで、非常に危険なものであることを認識していただくように期待している」と述べました。
 警察は今後、統計を取る際や乱用防止のキャンペーンなどで新たな呼び名を使って危険性を訴えていくことにしています。

薬事法と都条例の違い 脱法ドラッグを吸って車を運転し、事件や事故を起こすケースが後を絶ちません。
 ことし6月には東京・池袋で車が暴走し、8人が死傷したほか、7月に入ってからも東京・北区で車が暴走して2人がけが、7月10日には立川市で車が電柱に激突し運転していた男性が死亡しました。いずれも、運転者が脱法ドラッグを吸っていたとみられています。同じような事件や事故は去年1年間で38件にのぼっています。
 脱法ドラッグとは、乾燥させた植物の葉っぱに、覚せい剤や大麻に似せて人工的に合成された薬物をまぶして作られています。脱法ハーブとも呼ばれています。液体や粉末のものもあり、これらを総称して脱法ドラッグといわれています。
 販売店は都市部を中心に全国に広がり、厚生労働省の調査では28の都道府県で250店にのぼっています。インターネットでも販売されています。
「脱法」ということで、罪の意識を持たずに気軽に手を出す人も多く、若者を中心に急速に広がっています。
 しかし、覚せい剤や大麻に似た成分を含むため、幻覚や妄想、意識障害などを引き起こす大変危険なものです。使ううちに、やめられなくなる依存性もあります。呼吸困難で死亡する人もいます。
 なぜこうした危険な「脱法ドラッグ」が野放し状態になっているのでしょうか。実は、規制してもすぐにそれをすり抜けて新たなものが登場するという、「いたちごっこ」が続いているからです。
 国は、ある化学構造の薬物を含む脱法ドラッグを、規制の対象となる「指定薬物」に指定して取り締まっています。規制を強化しようと、去年からは、似たような構造の薬物をまとめて規制する「包括指定」という制度を導入しました。これによって、2年前に68種類だった指定薬物は、一気に1300種類以上に増えました。
 また、製造や販売の禁止に加えて、この4月から、購入したり持ったり使ったりすることも禁止されました。違反すると罰則が科されます。
 しかし、捜査当局が、販売店で売られている脱法ドラッグを調べたところ、指定薬物が含まれていたのは、わずか5%で、大半の脱法ドラッグは規制が及ばないものだったといいます。
 脱法ドラッグの原料となる薬物は、中国など海外の化学工場で製造されているといわれています。それが国内に持ち込まれて、脱法ドラッグが作られています。脱法ドラッグは世界各国で出回っていますが、比較的高い値段で取引されている日本が、海外から狙い撃ちにされているという指摘もあります。
 では、脱法ドラッグをなくすには、どうしていったらいいのでしょうか。まずは、今の制度の枠組みでできることは、いかに効果的に規制するかです。
 いまの規制の方法は、まず、脱法ドラッグに含まれる薬物の化学構造や毒性を調べます。これに1〜2ヶ月かかることもあります。そして2〜3ヶ月おきに開かれる有識者による審議会(薬事・食品衛生審議会)にかけます。ここで、指定薬物にすると判断されれば、国民からの意見、パブリックコメントを募集します。その上で、指定薬物にするのですが、効力を持つのはさらに30日後です。
 その結果、規制までに半年以上かかることもあり、規制したときには新たなものが登場しているという「いたちごっこ」を、結果的に許しているのです。
 そこで、このサイクルを短く出来ないか検討する必要があります。法律では、「緊急の場合には審議会もパブリックコメントも省略できる」とされています。また指定してから施行までの期間に特に決まりはありません。これらをすべて省略すれば、短期間での規制も可能です。

池袋の事件を受けて、脱法ドラッグに販売、所持を禁止する初の「緊急指定」
 国は7月、危険な薬物の販売、所持を即時禁止する「緊急指定」を初めて発動しました。池袋の事件で逮捕された男が吸っていた脱法ドラッグには、大麻に似て幻覚やめまいを引き起こす2種類の成分が含まれていたことから、厚生労働省は15日、薬事法で規制できる薬物に緊急指定しました。薬事法には緊急を要する場合には通常の手続きを経ないで指定できる規定があります。実際に緊急指定が行われたのは今回のケースが初めてです。
 厚生労働省は脱法ハーブを含む脱法ドラッグが原因とみられる事件や事故が相次いでいることから、ほかの脱法ドラッグについても、緊急指定を行うかどうか検討することにしています。
 もうひとつは、取り締まりの強化です。警察と厚生労働省の麻薬取締部は、連携を強化して、購入した人や使用した人の捜査から販売店へと摘発を進め、さらに製造元の取り締まりや輸入ルートの解明につなげたいとしています。税関などとも協力し、大もとの取り締まりにつなげて行く必要があります。
 薬物の種類をすみやかに特定する方法の開発も必要です。規制されている薬物かどうか分からなければ、摘発できないからです。
 脱法ドラッグは種類が多く、覚せい剤や大麻のように簡単に特定できる器材が開発されていません。警察などは、現場に持ち運びが出来る、簡易型の器材の開発を進めています。実用化できれば、現行犯逮捕などに役立つとされています。
 規制される前に、別の方法で取り締まることも考えられます。体内に取り入れると体や神経に影響があるものは「医薬品」とされ、承認されていない医薬品を販売することは禁止されています。そこで脱法ドラッグを「承認されていない医薬品」ととらえ、販売店を取り締まるという考え方です。
 ただ、いずれにせよ、今の制度の枠組みでできる規制や取り締まりは、個別の薬物をターゲットにしたもので、次々に別の種類が登場する脱法ドラッグに対しては限界があります。
 ここは、発想を転換して制度を抜本的にみなおし、新たな枠組みを作る必要があります。
 例えば、種類は違っても、幻覚や興奮作用など、似たような作用を引き起こす薬物をすべて「有害ドラッグ」などとして、まとめて取り締まる法律を作る、といった発想です。これには先例もあります。
 アメリカやカナダでは、似たような作用を体に及ぼすのであれば、ひとまず規制し、摘発する制度がとられています。薬物の危険度については、裁判できちんと審理するのです。また、イギリスでは、早い段階でとりあえず製造や販売を禁止する「一時的禁止」という制度が導入されています。仮処分のようなものです。それから毒性などを調べて、危険だと分かれば改めて規制するのです。
 新たな制度や法律を作るには、様々な問題があり、時間もかかるとは思いますが、今の制度に限界がある以上、早急に手を着け、その一歩を踏み出すことが必要です。
 さらに、規制や取り締まりも大事ですが、社会として脱法ドラッグを許さない風潮を作ること、これが最も重要かもしれません。
 池袋の事件があった東京・豊島区では、住民など1000人が参加して、脱法ドラッグ撲滅を訴える集会が開かれました。区は、不動産業者と連携して販売店を閉め出すといった、新たな条例づくりも検討しています。この問題を、まちづくりとして、とらえていこうというのです。
 脱法ドラッグは、20代の若者を中心に、高校生などにも広がってきています。
 脱法ドラッグの恐ろしさを認識し、絶対に手を出さないことはもちろん、子どもや若者に、危険性を教えるのも大人の役割です。
 わたしたち一人一人がこの問題を自分たちの問題としてとらえ、何が出来るのか考えていくことが、脱法ドラッグを許さない社会につながると思います。

薬物乱用防止条例の制定を急げ
 一方、脱法ドラッグが地方に広まっている現状も無視できません。
 脱法ハーブを規制する独自の防止条例は、東京、大阪、愛知、和歌山、鳥取、徳島の6都府県を除く41道府県では制定されていません。条例をかわすため、業者や客が大都市圏から、周辺各県や地方へ移る傾向が最近出てきました。全国一律の国の法規制までには先程も述べたように通常5カ月前後かかり、自治体間の対応の違いによって、条例のない地方に脱法ドラッグが流れているのです。
 共同通信などの取材によると、都の業者は条例のない埼玉や神奈川両県周辺へ販路を拡大。都内では最新の薬物を販売し、条例で規制されると都外へ発送、取引がある現地の店を拠点に、ネットや通信販売、デリバリー(配達)などの手法を駆使しながら、法規制されるまで両県や周辺で販売を続けています。
 薬物乱用防止条例を制定している6都府県では、手続きを簡素化し新型薬物の確認から3カ月以内に規制が可能です。和歌山県ではネットを監視、店舗に出回れば最短数日で販売を困難にする制度を設けています。
 未制定の41道府県は国の薬事法に基づき規制しています。鑑定前でも疑いがある商品は販売停止を求める方針が、今月18日の決定されましたが、「パッケージが過去に規制されたものと類似している場合」などと限定があり、名称や外見を大きく変更した商品は対象外となる可能性があります。
 国の統一的な規制には限界があります。自治体と地元警察が綿密に連携し、最新の情報を入手しながら立ち入り検査を強化するなど、常に先手を打つことが不可欠です。茨城県でも、条例制定の必要性を訴えていきたいと思います。