「スマートプラチナ社会」という耳慣れない言葉をご存じでしょうか。
 「スマートプラチナ社会」とは、総務省が提唱している、世界に先駆けて超高齢社会に突入した日本が抱える課題を、情報通信技術(ICT)を利活用して解決しようとの取り組みです。
 スマートプラチナ社会の目的は、情報通信技術(ICT)を活用して、健康で生きがいを持ちながら安心して暮らせる長寿社会を作ることにあります。
スマートプラチナ社会

 厚生労働省の簡易生命表によると、2013年の日本人男性の平均寿命は80.21歳と初めて80歳を超えました。女性も86.61歳と12年連続で長寿世界一になり、男女とも過去最高を更新しました。
 一方で、健康上の問題で日常生活が制限されずに生活できる期間を示す健康寿命と平均寿命との差は、今月公表の2014年版厚生労働白書によると男性で約9年、女性で約13年でした。健康寿命と平均寿命との差が開くと、医療費・介護費の負担が大きくなることから、この差を縮めることが重要です。
 平均寿命の延びとともに、老後の過ごし方への関心も高まっています。総務省によると、高齢者が生きがいを感じる活動として「趣味」「家族・親族との交流」を挙げた人は4割を超え、「友人や地域との交流」「運動・健康づくり」が3割、「就労」も1割を超えるなど、社会参加への意欲は旺盛だということがわかります。
 日本の高齢化率は25年には30%を超え、60年には約40%に達すると予想されています。このため、労働力の減少による経済活動の低迷、医療・介護などの社会保障費用の増大、孤立化や地域コミュニティーの崩壊といった問題は深刻の度を増すばかりです。これらの課題解決に向け期待が高まっているのが、ICTの活用に他なりません。
 ICTの特性は、比較的簡易な装置を用いて健康管理や買い物などの生活支援、時間や距離、場所を選ばずに就労やコミュニケーションを可能にすることです。幸いなことに日本は、全世帯で高速かつ大容量のデータ通信ができるブロードバンドの利用が可能で、ICT基盤は世界最高レベルにあります。
 これを積極的に利活用し健康寿命を延ばすとともに、新産業を創出して経済成長につなげようというのがこの構想の狙いです。

 総務省が2014年5月に公表したスマートプラチナ社会構想は、(1)健康を長く維持して自立的に暮らす(2)生きがいを持って働き社会参加する(3)超高齢社会に対応した新産業創出とグローバル展開――の三つのビジョンからなっています。2020年までの構築をめざしています。
参考:スマートプラチナ社会推進会議のHP
 全国民のうち健康に無関心とされる7割の層に生活習慣病などへの関心を深めてもらい、だれもが健康づくりに励める仕組みづくりが一つ目の柱です。
 例えば、職場・地域で実施している健康診断や医療機関が市町村などに請求する医療報酬明細書=レセプトの膨大な情報(ビッグデータ)を蓄積・解析し、効果的な健康指導やサービスを提供。また、介護ボランティア活動やウオーキングなどの健康づくりの努力に応じて「ヘルスケアポイント」を付与し、健康・介護サービス施設や地域商店街などで利用できる制度などを構築し、「ICT健康モデル(予防)の確立」をめざます。
 また、医療や介護、健康に関するデータを共有化する「医療・介護情報連携基盤の全国展開」で、病院を替えても同様の診療を可能にしたり、医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供する地域包括ケアシステムの実現に役立てます。
 二つ目の柱である高齢者の社会参加促進に向けて、ICT利活用力を向上させる講習会を実施。パソコンや携帯端末などを用いて場所や時間にとらわれずに仕事ができるテレワークや、人との会話や健康管理も可能なコミュニケーションロボットの開発・実用化にも取り組む計画です。
 三つ目の柱は、こうした取り組みを進めることで23兆円規模の新産業を創出することです。世界に先駆けて超高齢社会に突入した日本の動向には、同様の課題を抱える海外諸国から熱いまなざしが注がれています。スマートプラチナ社会構想が実用化すれば、高齢化ビジネスモデルの海外への輸出も視野に入ります。
 先進的に取り組む地域や企業も広がりつつあるが、技術開発と実用化、普及のさらなるスピードアップが課題となっています。