介護保険のイメージ 「介護報酬が9年ぶりに引き下げられる」というニュースが話題になっています。介護サービスの低下につながるとの、悪宣伝を一部政党がすでにはじめています。
 確かに、介護サービスを提供した事業者に支払われる「介護報酬」について、2015年度予算案では、15年度から2.27%引き下げるとしています。これは他の業種と比べて高い介護事業者の利益率の適正化を進め、増え続ける社会保障費を抑制するのが狙いです。
 実は、介護報酬を引き下げれば、介護保険料と、介護保険を利用する際の自己負担分を抑えられるメリットもある事を忘れてはいけません。今回のマイナス改定により、65歳以上の介護保険料は値上げ幅を230円圧縮でき、全国平均で月額5550円程度になる見込みです。
 一方、介護事業者の利益が減れば、職員に支払う給料も減らされるのではと心配する声があるのも確かです。この点については今回、介護職員の処遇改善に取り組む事業者への加算を拡充するため、介護報酬を引き下げても介護職員の給与は月額1万2000円程度引き上げることができるようになります。
 介護保険制度は2000年度に始まり、3年に1度見直しが行われ、2015年度から新たな3年間が始まります。原則65歳以上の高齢者で要介護認定を受けた人は、受けたサービスの費用の1割を自己負担すれば介護サービスが提供されます。残りの9割は、税金と40歳以上の人が払う介護保険料が財源となっています。
 今回の介護報酬改定では、9年ぶりに2.27%のマイナス改定となりました。この改定は、介護関係者を中心に早くも批判的、悲観的に捉えられています。そうでなくても人手不足な介護関係の職員が今以上に集まらなくなるといった心配の声が、井手よしひろ県議のところにも寄せられています。
 さらには、26の都府県で、計画していた特別養護老人ホームの建設が中止や延期になったことがあるとの調査報道が出されています。その理由には、介護職員を確保できないことと、事業者に支払われる介護報酬が引き下げられることとされています。
 しかし、冷静に今回の報酬の改定を見る必要があります。確かに、事業者に支払われる介護報酬は、総額では2.27%の減少となっています。しかし、その内訳は、介護職員処遇改善加算を拡充=月1万2000円増額するための分で1.65%増、良好なサービスを提供する事業者への加算や地域に密着した小規模な事業所への配慮のための分で0.56%増となっているのです。
 一方、各介護サービスの収支状況や施設の規模、地域の状況に応じて、メリハリをつけることでサービスごとの料金を適正化することで4.48%減となっています。

課題となった社会福祉法人の内部留保
 特に、今回のマイナス改定で注目れたのが社会福祉法人の内部留保問題です。
 2011年に社会福祉法人が黒字をため込んでいるというニュースが流されました。11年12月の社会保障審議会介護給付費分科会において、特養を運営する社会福祉法人の内部留保は、一施設当たり平均約3.1億円もあることが報告されたのです。
 事業者が受け取る介護報酬には、税金も投じられています。特養はその税金を主だった収入源としていることから、2013年には会計検査院による検査も行われました。理由のいかんを問わず、税制面で大きな優遇を得ている社会福祉法人が富を蓄積していることには問題があります。
 介護事業者の収入に比した利益の大きさといえる収支差率をサービス別にみると、2013年度決算では、介護老人福祉施設では8.7%、通所介護では10.6%となっており、一般の中小企業の収支差率が2.2%(2012年度)、全企業でも4.0%であることと比べると、介護保険事業者は高い収益を得ているという結果が見えてきます。
 社会福祉法人が、介護職への報酬を見直すことで、内部留保や高い収益を還元すべきであるという論調は十分に納得できるものです。
 国は2009年度から、介護報酬体系の中で「介護職員処遇改善加算」を設けて、これを増額することで、事業者が介護職員の処遇を改善するインセンティブを与える形にしてきました。その頃から、介護職員の処遇は次第に改善されてきました。介護職の離職率はかつて20%を超えていたが、2013年度には16.6%と改善してきました。産業全体の離職率は15.6%でしたので、平均的水準まであと少しというところまで改善しています。
 今回の介護報酬改定では、介護職員処遇改善加算が増額されています。また、良好なサービスを提供する事業者への加算や、地域に密着した小規模な事業所への配慮も盛り込まれました。

高齢者は月230円(年3000円程度)の負担減
 今回、マイナス改定にしなかったなら、65歳以上の高齢者が支払う介護保険料は、2015年度から、全国平均で月5800円程になる見込みでした。この介護報酬のマイナス改定により、全国平均で月5550円程に抑えられる見込みとなった。つまり、介護保険料は、月230円、年間で約3000円程度負担が軽くなります。
 この負担減の恩恵は、65歳以上の高齢者だけでなく、同じく介護保険料を負担している40〜64歳の人にも及ぶことを忘れてはいけません。介護保険をめぐる給付と負担の両面を合わせてバランスよくみてゆく必要があるのです。

多様なサービスを提供できる市町村ごとの「地域支援事業」
 また今回の介護保険制度の見直しの中では、要支援者など軽度のお年寄りのヘルパーやデイサービスなどを介護保険から切り離して、市町村の事業に変更しました。
 これからは市区町村が中心となって、それぞれの地域の実情に応じて、NPOなど住民等が中心となった多様なサービスを展開できるようになりました。
 市町村が行う「地域支援事業」では、必要なお年寄りには今までどおり専門的なサービスも受けられますし、ボランティアなど多様な担い手による、地域サロン、外出支援、買い物、調理などの家事支援など多様なサービスを提供することが可能となります。
 既存の介護事業者では提供できなかった、きめ細かなサービスを受けられることになります。
 市町村ごとの知恵と工夫が、地域の介護サービスを充実させるために、非常に重要になります。