日本の関税撤廃は95.1%、日本以外の11か国は99%〜100%
TPPのイメージ 懸案だったTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の交渉が、大筋で合意しました。10月20日、政府は環太平洋連携協定(TPP)交渉の大筋合意に盛り込まれた貿易自由化の全体像を発表しました。
 工業品と農林水産物を合わせた日本の全貿易品目(9018品目)のうち、TPPで最終的に関税をなくす割合を示す撤廃率は95.1%となり、日本が結ぶ貿易協定の中で最も高い比率となりました。日本はこれまでに15カ国・地域と自由貿易協定(FTA)を結んでおり、撤廃率はオーストラリアとの協定の89%が最高でした。
 ただ、日本以外の11カ国の関税撤廃率は100%ないし99%であり、日本は最も多くの「関税撤廃の例外」を獲得したと言えます。
 農林水産物の市場アクセス分野では、日本がこれまで関税を維持してきた834品目のうち、ほぼ半分に相当する395品目の関税を撤廃する一方、439品目の関税を維持すことに成功。コメなどの重要5項目(586品目)では、牛タンやソーセージなど3割に当たる174品目の関税をなくすものの、412品目は関税を残すことになりました。
 もともとすべての品目について関税ゼロ、撤廃を目指していたTPPです。一定の輸入枠や関税削減では譲歩したものの、コメや乳製品で、関税撤廃を回避し、現状の輸入制度を守ったことは、大きな成果です。
 甘利明経済再生担当相は20日の記者会見で「農産品に限ると(日本の)関税撤廃率は交渉参加12カ国で一番低い。農産物5項目のコア部分の関税はしっかり守れた」と語りました。
 森山裕農林水産相は、農林水産物全2328品目のうち約19%の443品目で関税が維持されると指摘。「関税撤廃の圧力が極めて強かったTPPで19%は群を抜いて高い。参加国の中で(日本は関税を)しっかり守れた」と強調しています。
 国内農業への影響が大きいとされてきた重要5項目のうち、最大の焦点となったコメは、現在の関税率は守ったうえで、アメリカとオーストラリアに合わせておよそ7.8万トンの特別輸入枠が設けられました。
 ムギについても現行の税率は守り、アメリカ、カナダなどに特別枠を設定、乳製品では、ニュージーランドなどに対して、バターや脱脂粉乳を生乳換算で7万トンの特別枠が設けられました。
 一方、牛肉で、38.5%がかかっていた税率は16年目には9%となり、豚肉も1キログラム当たり最大で482円かかっていた関税は10年間で50円になります。
競争にさらされる国内の「特産物」、地方創生にも影響
 その他、最大で17%かかっていたブドウや、6.4%かかっていたキウイフルーツは協定発効と同時に関税ゼロに。お茶やサクランボ、それにソーセージなどは徐々に関税が安くなり、6年目にはゼロとなります。
 8年目には、オレンジや落花生、ワインの関税が、11年目には17%の関税がかかっていたリンゴ、パイナップル、牛タン、ベーコンの関税がゼロとなります。
 多くの農林水産物の関税が撤廃されることで、消費者には大きなメリットがあります。これまで輸入が制限されていた、牛肉や豚肉だけでなくリンゴやオレンジなどのフルーツやワイン、パスタなどの加工品。それに魚やお茶など様々な食品の関税が削減されたり、撤廃されたりします。その分、輸入品は安く流通することになりますので、食卓の風景は大きく変わると期待されます。
 反面、国内産地にとっては大変です。サクランボやリンゴ、パイナップルなどは地域にとって重要な特産物です。生き残りのためにこうした特産物に特化してきたサクランボ産地の山形や、リンゴ産地の青森や長野、そしてパイナップル産地の沖縄などは今後、外国産との厳しい競争に晒されることになります。
 また最近は付加価値をつけるために、農産物加工に取り組む産地が増えています。特にワインは、TPP参加国にアメリカやオーストラリア、ニュージーランドなど世界的に競争力のある産地が揃っています。2007年に結んだ自由貿易協定をキッカケに、チリからワインの輸入が、大幅に増えたことを考えると、国内産地にとっては厳しい状況となることは間違いありません。
 日本農業にとって重要なのは、一定数の農家と農地を守ることです。その農業従事者、全体として見れば180万人いますが、多くが高齢者で、今後の農業を担う50歳以下は20万人に過ぎません。外国産との競争で、農業を辞める人が増えてくれば、国内で最低限の食料生産を行うことも難しくなります。

TPP対策、「守り」の政策と「攻め」の政策を効果的に
 このため、政府のTPP総合対策本部で、安倍総理は「守りから攻めの農業に転換し、若い人が夢を持てるように万全の対策を講じる」と強調し、農林水産分野における基本方針を打ち出しました。
 柱は輸入に対する影響緩和策と、強い農業を作るための体質強化策の二つです。
 このうち「守り」にあたる影響緩和策では、コメについて、協定発効によって輸入される数量分を国が買い上げ、価格への影響を抑える。また牛肉や豚肉については、価格が下落した場合、農家に対して一定の所得を補填する方法を検討するとしています。
 その一方で「攻め」にあたる体質強化策について、農地の集約化などを通した生産性の向上や、国産の強みを生かした農産物の加工や高付加価値化。それに輸出など新たな需要を開拓するとしました。
 関税撤廃は、時間を掛けて行われます。短期的に、国の買い上げなどで影響を緩和し、長期的には農業の体質強化を進める。その方向性は十分納得できるものです。
 今回の合意では、日本からの輸出も、大きく可能性を開くものとなりました。コメは15年をかけて11ヵ国全てで関税撤廃。20%以上の関税を掛けられていた和牛の肉は、アメリカで無税の輸入枠を設けたほか、他の国も16年でゼロになります。海外で人気の高い国産醤油は6年間でゼロになるなど、日本が要求していた食品の関税が全て撤廃されます。
 また、輸出入の通関ルールも改善されます。急ぐ貨物は6時間の間に通関をさせなければならないとする新たな貿易ルールが決まりました。鮮度保ったまま海外市場に運ぶことができますので、野菜や果物、水産物は品質を落とすことなく、海外市場に運ぶことが出来ます。
 海外で日本食ブームが続いていることを考えれば、農業もTPPの仕組みを生かした取り組みが必要です。

政府TPP対策本部
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/